1998年5月18日
株式会社東京三菱銀行
頭取 岸 暁 殿
社団法人日本建築学会
会長 尾 島 俊 雄
東京三菱銀行横浜中央支店ビルの保存に関する要望書
拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申しあげます。
日頃より,本会の活動につきましては多大なご協力を賜り,厚くお礼申しあげます。
さて,貴行におかれましては,本年5月初旬を以て,横浜中央支店を横浜支店に統合移転される旨をうかがっております。
本会では,以前よりわが国の明治・大正・昭和戦前の近代建築の調査研究に着手し,その成果を『日本近代建築総覧』に纏め,昭和55年に刊行いたしました。さらに,その中でも特に重要な建築作品を指摘して,その歴史的・文化的遺産としての価値を評価し,保存の意義を明らかにしようと努めてまいりました。貴行の横浜中央支店の建物がそのリストに上げられていることは,既にご承知のことと存じます。
東京三菱銀行横浜中央支店ビルは,別紙「見解」に示しますとおり,横浜市における文化的・歴史的価値を有する重要な建物であるとともに,横浜市の都心の景観に風格と歴史の厚みを加える貴重な遺産でもあります。支店の統合移転の後も,このかけがえのない建築を後世に伝える保存活用のための道をご検討いただけますならば,誠に幸いに存じます。
なお,本会はこの建物の保存に関しましては,技術指導などできる範囲でお手伝いさせていただきたいと考えておりますことを申し添えます。
今後とも,この優れた由緒ある建造物と良好な環境の保存のために,ご理解とご協力を賜りますようお願い申しあげます。
敬 具
1998年5月18日
ダイヤモンド不動産株式会社
代表取締役 安 部 雅 雄 殿
社団法人日本建築学会
会長 尾 島 俊 雄
東京三菱銀行横浜中央支店ビルの保存に関する要望書
拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申しあげます。
日頃より,本会の活動につきましては多大なご協力を賜り,厚くお礼申しあげます。
さて,本年5月初旬を以て,貴社が管理しておられます東京三菱銀行横浜中央支店の建物から,同支店が横浜支店との統合のため移転する旨をうかがっております。
本会では,以前よりわが国の明治・大正・昭和戦前の近代建築の調査研究に着手し,その成果を『日本近代建築総覧』に纏め,昭和55年に刊行いたしました。さらに,その中でも特に重要な建築作品を指摘して,その歴史的・文化的遺産としての価値を評価し,保存の意義を明らかにしようと努めてまいりました。貴行の横浜中央支店の建物がそのリストに上げられていることは,既にご承知のことと存じます。
東京三菱銀行横浜中央支店ビルは,別紙「見解」に示しますとおり,横浜市における文化的・歴史的価値を有する重要な建物であるとともに,横浜市の都心の景観に風格と歴史の厚みを加える貴重な遺産でもあります。支店の統合移転の後も,このかけがえのない建築を後世に伝える保存活用のための道をご検討いただけますならば,誠に幸いに存じます。
なお,本会はこの建物の保存に関しましては,技術指導などできる範囲でお手伝いさせていただきたいと考えておりますことを申し添えます。
今後とも,この優れた由緒ある建造物と良好な環境の保存のために,ご理解とご協力を賜りますようお願い申しあげます。
敬 具
東京三菱銀行横浜中央支店ビルに関する見解
社団法人日本建築学会
建築歴史・意匠委員会
委員長 中 川 武
横浜市中区本町4丁目41番地に所在する東京三菱銀行横浜中央支店は,昭和9年5月,川崎第百銀行横浜支店として建てられた。同支店の歴史は古く,明治11年創立の第百国立銀行が明治13年7月,南仲通5丁目に設けた同銀行横浜支店をその前身とし,現在地に移ったのは明治28年である。昭和2年,第百銀行は,明治13年創立の川崎銀行と合併して川崎第百銀行となったが,昭和11年11月,再び商号を第百銀行に戻している。そして昭和18年4月,第百銀行と三菱銀行の合併に伴って,三菱銀行横浜支店となり,さらに平成8年4月,三菱銀行と東京銀行の合併に伴って現名称となっている。名称はしばしば変わっているけれども,この建物は終始一貫して主要銀行の横浜支店であったことになる。
建築面積は588.15u,鉄筋コンクリート造2階建ての建物である。設計は,横浜に生まれ,横浜の元街小学校を卒業し,工手学校とベルリンの工科大学で学び,主として横浜で仕事をした建築家,矢部又吉(1888-1941)であり,施工は戸田組である。
この建物は,本町通りと関内大通りとが交わる「本町3丁目交差点」という横浜関内の枢要な場所の一角を占め,長きに亘って人々に親しまれてきた一種のランドマークとも称すべき存在である。その価値を纏めると以下のようになるであろう。
1)戦前の古典主義様式の銀行建築の一典型であること。即ち,この建物はイオニア式の大オーダーの円柱をもち,ピラスター頂部やコーニス下端に華麗なクラシックの装飾帯を持つなど,正統的な古典主義建築の骨格と細部を有している。また内部もクラシックな意匠を極めて良くとどめている。
2)横浜関内の二つの主要道路が交差するコーナーに位置し,この界隈の優れた景観を構成する不可欠の存在であること。平成元年,横浜市の「歴史を生かしたまちづくり要綱」に基づく歴史的建造物に登録されているのも,それが故である。
3)横浜ゆかりの建築家,矢部又吉の設計になるもので,現存する彼の横浜における代表作品であること。なお,もう一つの彼の横浜における作品であった日本火災海上横浜ビル(大正11年創建)は,平成元年にファサード保存が行われている。また,千葉市中央区中央にあった主として彼の手になるものと目される作品である。旧川崎銀行千葉支店(昭和2年創建)は平成6年,千葉市立美術館内に取り込まれて保存されている。
このように,東京三菱銀行横浜中央支店の建物は,建築史的に貴重な存在であるのみならず,長い間市民に親しまれてきた優れた風景の重要な構成要素でもあり,都市景観の上からも極めて貴重である。