会長・副会長からの近況報告(メルマガ)
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■最新号(第35回:2025年2月3日配信)

寒い日が続きますが、皆様お元気でお過ごしでしょうか。
毎月お送りしております会誌「建築雑誌」に付きましては、2年前より環境に配慮し封筒素材を紙封筒としておりましたが、今年3月号よりバイオマスフィルムに変更する方針と致しました。
建築雑誌の発行費は、もともと会費総収入の1割強を占めております。ここ数年、印刷製本費、用紙、発送費の値上げが断続的に続いており、編集委員会ではページ削減に努めていただいているものの、とくに発送費は今後さらなる値上げが予定されていることを考えますと、現行の会費を維持するためには致し方のない選択と考えております。
一方、環境的側面からは紙資源の消費のみならず運送そのものが負荷となっているという指摘もあることから、本会では2024年4月~6月にかけてオンラインで「会員向けデジタル情報サービスの充実についてのアンケート」を実施し、全会員の10%強、3,819名の回答を戴きました。その中で「現在、毎月お届けしている会誌「建築雑誌」を電子化することについて、ご意見をお聞かせください」の質問に対し、「紙資源や郵送費を消費するため、環境配慮的にも電子化すべき」が57.2%、「電子化を主体としても良いが、希望者には従来通り紙冊子を郵送して欲しい」が28.2%という回答を戴きました。個別意見では「建築雑誌を発行時よりすぐPDFで見られるようにして欲しい」というご意見も多く寄せられました。もとよりオンライン回答いただいた方は日常よりデジタル媒体を利用している方の比率が高いものと推察されますが、先述した発送費の高騰や環境的配慮を鑑み、今後、一定の移行期間をもって紙冊子の郵送または電子版の選択希望制の導入なども検討したいと考えております。
「建築雑誌」は我が国で最も歴史ある建築専門誌の一つであり、装丁から紙の手触りまで格調のある誌面を構成いただいており、毎号の郵送を楽しみにしておられる会員も多いものと思いますが、一方でDXへの対応も必須と思いますので、両者のバランスを取った学会運営を心がけてまいりたいと思います。
何卒ご理解とご意見の程、よろしくお願いいたします。

先月実施された大学入学共通テストの[公共・倫理]に、「公共空間」に関する設問がありました。そこでは、ユルゲン・ハーバーマスの『コミュニケーション的行為の理論』やハンナ・アレントの『人間の条件』の記述が取り上げられていました。この問題文を眺めながら、かつてハーバーマスの『公共性の構造転換』を読み、「公共性」について考えていた頃を思い出しました。そしてふと、1970年代に一世を風靡した「シビル・ミニマム」という概念が、今日ではほとんど聞かれなくなったことに気づきました。「量」の基準を満たした後、「質」の基準を追求し始めたあたりから、「公共性」の目指すベクトルが曖昧になったように感じます。今、国や自治体が示すベンチマークとは別に、コミュニティが合意形成によって示すベクトルこそ、「公共性」としてより重要になってきているのではないでしょうか。
昨日、来月閉館し解体工事に入る予定だった文化センターの建て替え計画が、一時見送られることになったと連絡を受けました。特にこの1~2年、建設費の高騰を受けて、多くの自治体で公共建築の建設中止が決定されています。2014年に総務省が地方自治体に策定を求めた「公共施設等総合管理計画」により、財政難を背景とした施設更新の課題に対応する政策の見直しが進められてきました。しかし、10年を経た今、多くの自治体で改めて抜本的な転換の必要性が叫ばれています。果たして、すべてはこの異常とも思える建設費高騰のせいなのでしょうか。公共建築が過度に専門分化し、ハイグレードな施設へと進化してきたことも一因ではないかと思います。この状況はコミュニティを基盤とした「公共性」のあり方を改めて問い直す良い機会でもあるようにも思います。

この2年ほどの間に、日本の著名な建築家が相次いで亡くなられました。2022年12月に磯崎新氏、2024年6月に槇文彦氏、同年12月に谷口吉生氏、そして今年1月には原広司氏。皆さん巨匠と呼ばれるのにふさわしい方々で、私は自分が学生時代はもとより設計実務を始めてからも常にこの方々の設計理論や作品を参照しながら活動してきました。
磯崎さんは何といっても都庁のコンペ案が衝撃でした。他社の各案が全て超高層で来たのに対し、“庁舎は市民を見下ろすべきでない”と唯一低層案で提出。そのドローイングの美しさにも度肝を抜かれたものです。槇さんには常にその上品で洗練された作品に魅了され続けました。昨年、一昨年にこのメルマガで紹介した“日建連建築セミナー”では、2021年の講師としてご登場いただき、槇さんらしい『建築家のDecency(良識、慎み)』というテーマで講演されました。その際にオンラインで対談させていただいたのは一生の思い出です。谷口さんは何といっても設計作品への徹底したこだわりとその完成度の高さに作品を見るたびに感動を受けました。2019年に「金沢建築館」が竣工した際には、オープン前に「是非ゼネコン設計のトップの方々をご案内したい」というお申し出を受け、谷口さん自らご案内くださいました。その際は「鈴木大拙館」までご案内いただくという超豪華なおまけまでつき、感動の極みでした。原さんは残念ながら私は直接接する機会はありませんでしたが、ヤマトインターナショナル本社や梅田スカイビル、京都駅など常に時代のマイルストーンとなるような建築を手掛けてこられました。何度か原さんの著書の読解に挑戦しましたが、その難解さゆえになかなか最後まで到達できなかった記憶があります。
いずれの方々も世界の建築界をリードしてこられた建築家で、私などが評するのはおこがましいのを十分に承知の上で書かせていただきました。何よりも、建築に係わってきた一人の人間として、この方たちの新しい作品がもう見られない、という寂しさで一杯です。間違いなく一つの時代が終わってしまいました。
改めて、心よりご冥福をお祈りいたします。

年明け早々、雪のため特急が遅れ富山経由で帰るというアクシデントもありましたが、飛騨古川に行ってきました。「株式会社 飛騨の森でクマは踊る」(通称「ヒダクマ」)さんのアレンジで、広葉樹に注目したまちづくりについて学ぶことが目的です。チップ化され利用されることが多かった広葉樹を、家具・建築に使うための取り組みを進めており、林業家・製材所、地域の工務店、そしてデザイナー、大きな企業もこの取り組みに参画していました。林学の専門家の方にお伺いしたところ、広葉樹に着目するというのは、大変新しい取り組みだそうです。3Dのデジタル図面をつくり、VRゴーグルを掛け、チェーンソーで図面通りに木をカットする、落葉するため森の中まで光が差し込む斜面保全・防災上も有用な広葉樹林を守るとりくみ、広葉樹の流通、広葉樹を使った建築等々、様々なことを学ばせていただきました。明治末期の大火後に再建された町家がつづく街並みも大変美しく、2つの酒蔵のお酒はいずれも大変美味しかったです。5月までの任期ですが、本年もよろしくお願いいたします。

副会長の担当に情報委員会と国際委員会があります。建築学会の知的財産である様々な学術関連情報のデジタル化や今後の利活用方策については、理事会において多くの議論と検討が重ねられています。
急速な革新と実用化が進む人工知能(AI)技術は、世界共通で社会の様々な分野において産官学の多様な組織、個人の利活用などが広がりつつあり、従来の働き方や暮らし方にも大きな変革をもたらし始めています。もちろん便利な面の一辺倒ではなく、AI技術の使われ方に伴う社会や個人の安全・安心に関わるリスクや弊害、デメリットなどについても指摘は枚挙にいとまがありません。
では建築と都市の実空間にはどのようなインパクトをもたらすのか。そうした問いを海外の学会のいくつかが新年度開催の国際大会のメインテーマに掲げています。世界から集まる研究者、専門家からの最新報告を基に、AI技術がもたらす建築・都市の変化をどのように分析し理解、評価するのか、そして将来のあり方や目標空間像とはどのようなものか、それらに関する提言や、計画・設計・事業化・建設・運営管理などのため先端技術、社会制度についても研究討論する機会が用意されています。
都市の形や空間構成、用途機能、またそれらが変化・変容する動的な仕組みに関する分析・評価は、形態学(タイポ・モルフォロジー)として長い歴史を有しますが、そうした歴史を経て継承されてきた現時点の都市の形態・空間と、今後新しく生成、構築(すでに出現しつつある)される都市との間で、現在変化しつつある都市の形や機能をどのように分析し、位置付け、解読、評価するのかを広く考える重要なタイミングと捉えています。AI技術が建築・都市の解析・分析の道具(ツール)として利活用される範囲が拡大しつつあると同時に、設計・計画にますます浸透していくプロセスで、その技術的なポテンシャルはもとより、限界・制約や倫理的な課題、またより広範な地球環境や社会的な空間(Social Space)への影響についても深く考えることが求められています。
市民、住民の一人一人の働き方や暮らし方、またその場所でもある建築・都市の変化と将来のあり方について、関連する分野の研究者や専門家等がAI技術のポテンシャルと課題に関する視点と認識を共有していく重要な一歩になる年と考えています。

建築学会と生成AI
建築雑誌で「超高層ビル」の特集を組むことになり、座談会のメンバーとしてお声がけいただきました。近年、重長高大なものは社会から疎まれることが多く、超高層ビルがその高さを競っても大きな話題とはならないこともあって、こうした特集が組まれること自体が珍しいため、座談会がどのように展開されるのか興味津々で参加しました。座談会は、アメリカの摩天楼や超高層建築とその歴史に詳しい小林克弘東京都立大学名誉教授、ファサードエンジニアリングの権威であるアラップの松延晋先生、そして私の三人がメインとなり、若手メンバーとして竹中工務店の海野さん、日建設計の勝矢さん、アラップの竹中さんが進行役を務める形で始まりました。まず小林先生がリードし、シカゴにおけるスカイスクレーパーの誕生から香港上海銀行など1980年代までの超高層ビルの歴史を概観しました。その中で、ファサードエンジニアリングの傑作が話題に上がると松延先生が解説を加え、議論がさらに深まりました。私もロイズ・オブ・ロンドンのような自分好みのデザインが話題に出ると、しばし脱線してデザインについて語らせていただくなど、終始楽しい会でした。(なお、この特集記事は建築雑誌3月号に掲載される予定です)
今回の座談会は、文字原稿として記事化されることを前提に企画されたものでした。座談会の内容を全て記録するには文字原稿が最適ですが、座談会の生き生きとした雰囲気を伝えるには限界があります。一部を1分程度のビデオにまとめれば、全体を伝えることは難しくても雰囲気を共有するには効果的です。そのようなビデオを学会のホームページやメルマガにリンクすれば、文字情報への関心を引き出し、建築雑誌の到着を楽しみにする会員が増えるかもしれません。
現在、建築学会では従来書籍として刊行されてきた情報をウェブ閲覧サービス化する取り組みが進んでおり、昨年10月には構造設計規準・指針のウェブ閲覧が試行されました。ここからはまったくの私見ですが、今後は学会が保有する情報の多くが電子化され、ウェブ公開されることが増えていくと思っています。その際、単に文字情報を電子化するだけでなく、電子媒体ならではの利便性のニーズが求められると思うのです。例えば、紙媒体では目次で十分だったものが、電子媒体になればデジタル技術を生かした高度な検索機能が求められるはずです。できれば単独書籍の枠を超えて、関連書籍や論文へのハイパーリンクなどが埋め込めれば、画期的な技術情報アーカイブが生まれるでしょう。さらに生成AI事態に建築学会が所有する膨大な情報アーカイブを組み込めれば、革命的な建築技術系生成AIが生み出せるかもしれません。これが実現すれば、建築技術系生成AIの利用権が、学会が会員に提供するサービスの中である存在感を示すことになるかもしれません。
実現には、情報の信ぴょう性の確保や著作権問題など、さまざまなリスクやハードルを越えていく必要がありますが、今後学会が進む方向の一つと捉え、考えていかなければならない問題だと思います。
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