第32回 会長・副会長からの近況報告(メルマガ)(2024年8月1日配信)

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竹内 徹
会長 竹内徹(東京工業大学教授)

 会長就任1年となるこの3月~6月、コロナ感染症で中断していた全国の支部訪問を再開しました。具体的には近畿(3/27), 東海(5/18), 関東(4/25), 中国(5/24), 九州(5/25), 東北(6/22), 北海道(6/29)の各支部を回り、支部役員の皆様と懇談するとともに20分~90分の講演をさせていただきました。予定が合わなかった四国(5/18)については広田副会長に、北陸(7/6)については牧副会長に代理訪問して戴きました。支部により状況は異なりますが、それぞれの地域固有の歴史と文化を受け継ぎながら、建築関係の学協会・行政が一体となり結束して活動を支えていただいている様子が印象的でした。またその地域の話題の建物をご案内いただくと共に、近代建築や古民家などの建築遺産を保存・改修しながらワークショップや教育活動に活用している事例も多く拝聴しました。このような「建築文化資産」が物販や宿泊などより自由な用途に活用できれば、観光資源や地域の自立的なまちおこしに繋がっていくのではないかとの期待も感じます。ご参加いただいた学生さんからもたくさんの質問を戴きました。お世話になりました支部の先生方に深く感謝申し上げます。
 さて、かねてからご案内しております本会刊行物のウェブ閲覧サービスのシステム開発が概ね完成し、いよいよ10月より1年の主要構造設計指針の閲覧サービスの申し込みが8月1日より始まります。価格は税込みの表示となっており、一部改定予定の指針の価格が反映されております。8月31日には締め切りますので、お忘れのないよう申し込みください。
 また、閲覧対象となる指針類の著者の先生方には、主査の先生を代表者とする形でデジタル配信を含む二次利用に関する同意書の提出をお願いしております。印税は従来の紙媒体と同率で設定しております。事前説明が十分ではなく、いきなり封書が届き戸惑った方も多かったようです。改めてお詫び申し上げるとともに、ご協力をお願いできますと幸いです。
 
広田 直行
副会長 広田直行(日本大学教授)

 7月17日,6年ぶりとなる「名誉会員懇談会」が行われました。建築界のご高名な先生方14名(87名中)がご出席され,多少緊張の中,竹内会長から最近の学会活動について説明があり,その後,意見交換が行われました。その中から2点,気に留まったご指摘を紹介させて頂きます。
 1点目は,「建築雑誌のPDF送付」の実装化についてです。数名の先生から,「賛成。古い雑誌や旧基準書も電子化を急ぐべき」とか,「記事の内容によっては一般市民に対する発信もあって良い」,「他学協会への発信」,「技術史の資料としての必要性」などの賛同意見が寄せられました。
 2点目は,「大企業による青田刈りやインターンシップによる人材キープ」についてです。特に大学院1年次は夏季休暇中を利用して国際会議への参加や海外調査など研究活動を積極的に実施したいところですが,就職活動やインターンシップによって参加できない(辞退する)学生が多い点についてのご指摘です。「学生の学ぶ・育つ機会をなくしている企業」に物申すべきとのご意見でした。「昨今,中・高生が建築に興味を示さなくなっている」とか,「建築分野への進学が人気薄になっている」,「ものづくりの楽しさが失われている」とのご指摘もありました。20年後の人口は30%減となることが発表されたばかりです。建築進学の不人気と就職のあり方は同じ原因を抱えているようでもあります。企業側と教育側で早めに協議の機会を持つ必要があると感じました。
 
賀持 剛一
副会長 賀持剛一(㈱大林組設計本部常務執行役員設計本部長)

 前回に引き続き今回も海外出張の話になってしまいますが、先日、日本建築センター(BCJ)の主催する「最新の中大規模木造と北欧建築を巡るツアー2024」に参加してきました。ご存じの通り、地球環境配慮は現在の社会活動には必須となっていますが、建築分野ではその中でもサーキュラーエコノミー、CO2排出制限等の観点から木造建築に対する取り組みは世界的に広まっています。日本でも木造・木質建築に関しては、調達、コストの面でハードルが高いとはいえ急ピッチでその開発、研究、実施が進んでいます。今回の北欧ツアーは現在その分野で最も先端を走っているスウェーデン、フィンランドの中大規模木造建築を視察するもので、当会名誉会員の深尾精一先生を団長に多くのプロジェクトを現地での説明を受けながら視察し多くを学ぶことができました。視察内容についてここで詳しく書くスペースはありませんが、9月にはBCJ主催の関連するセミナーが予定されていますので、興味のある方は下記から登録の上ご参加ください。
 https://www.bcj.or.jp/seminar/detail/738/
 少しだけ感想を言わせていただくと、確かに北欧の木造建築は日本の数年、数十年先を行っています。移動中に目に入る森林資源の広大さを見れば環境が異なるのは明らかですし、それ以外にも社会の意識、法制度なども大きく違います。ただ、これはあくまで個人的な感想ですが、日本の木造・木質建築は完璧すぎるのではないでしょうか。耐火、耐震は人命にかかわることですからもちろん重要です。しかし北欧で見た建築は、細かいところはおおらかで、接合部の納まりや遮音の仕様などはいい意味で適当にできている感じを受けました。日本でもこれくらいのおおらかさがあれば、もっと木造・木質建築のハードルが低くなるのではないでしょうか?
 最後に一つ付け加えると、今回のツアーでは木造・木質建築についてたくさんのことを学びましたが、心を震わせる感動を与えてくれたのは、その合い間に体験できたアスプルンドやアアルトの建築でした。
 
牧 紀男
副会長 牧紀男(京都大学防災研究所教授)

 2024年能登半島地震では火災により3名(警察庁しらべ)の死者が発生しました。地震時の火災では多くの人的被害が発生しています。関東大震災では火災が人的被害の主たる要因となり、阪神・淡路大震災でも火災により400人以上(兵庫県監察医資料)の人命が失われました。しかし、地震でなければ大規模火災で人命が失われることはほとんどありません。2016年の糸魚川市の大規模火災は、強風下の火災でしたが死者は発生していません。1976年の酒田大火でも死者は1名であり、消火活動にあたった消防士でした。火災が延焼していく速度はそれほど早くなく、学会の提言においても「火災は、小さなうちは自分で消す、可能であれば地域で消す、これを超える場合は避難し公設消防に任せましょう」(日本の建築・まち・地域の新常識)としています。
 しかし、2023年8月に発生したラハイナ・マウイ島で発生した火災では100人近い人命が失われました。台風の接近により風が大変強かったこと、さらに強風で倒壊した樹木や電信柱が避難路と塞ぐという悪条件がともなっていましたが、100人近い人的被害が発生したことは衝撃的でした。ラハイナの火災では、車での避難中に火災に巻き込まれたことに加え、自宅で亡くなっている人も存在しています。これは日本の水害における人的被害と似た状況です。2018年の水害では倉敷市真備町で多くの高齢者が自宅の1階で亡くなりました。ラハイナの火災は、通常時の大火において、自分で避難ができず多くの人命が失われる、これまでとは違う様相の被害が発生する可能性を示唆しています。まず自ら消火活動を行うことが基本です。ラハイナの火災は、それに加えて、自分で避難できない人を支援することの重要性を実際の事例として教えています。
 
有賀 隆
副会長 有賀隆(早稲田大学教授)

 さる6月17日にカリフォルニア大学バークレー校環境デザイン学部のRenee Y. Chow学部長、Jennifer Mora同補佐が来訪され懇談機会を持ちました。建築・都市の将来像とその道程においてGreen & Blue Infrastructure(緑と水の社会基盤)が喫緊の課題であること、そして国や地域を越え大学や学術団体が協働可能なテーマであるということを共有しました。現代都市が生態系や自然環境と共生可能であるとともに、増加の一途を辿る広域水害、都市型水害へ備えその在り方を検討すべきというグローバルな議論は、国や地域ごとに異なる施策を通し、固有のローカルイシューへ対応しながら試行錯誤されています。
 さて、我が国の現代都市では「緑と水」に密接に関わる「農」と「市街地」は複雑に混在し、双方が保全と開発という異なる利害を背景に土地利用面、空間面でせめぎ合っているのが実情で共存には至っていません。このような利害錯綜の関係は同時に農地を所有する「所有者農家」と宅地需用を抱える「開発事業者」との対立となり、これら両者を包括的かつ計画的にコントロールする土地利用規制や税制、また建築・都市計画技術はこれまで十分だったとは言えません。
 現在、大都市部への人口流入は弱まり、既成市街地においても局地的に人口減少が進むなか、市民社会時代の「食の安全」や「農を媒介とした地域まちづくり事業の創出」、また農が持つ「多面的な機能とそれを活かした新しい市民コミュニティの再生」などに着目した緑と水の社会基盤への再編整備は、我が国が先導的に取り組めるテーマとして時宜を得ていると思います。建築・都市がこれからのGreen & Blue Infrastructureの可能性を広く提示し、実現へ向けた社会制度を構築していく取り組みを、引き続き進めていきたいと思います。
 
山梨 知彦
副会長 山梨知彦(㈱日建設計チーフデザインオフィサー常務執行役員)

 先日、建築学会の「建築討論」の企画で、第170回芥川賞を『東京都同情塔』で受賞された九段理江さんと相互インタビューをさせていただく機会を持ちました。この作品は、新国立競技場のザハ・ハディド案が実現された社会を舞台に、女性建築家が東京都同情塔を設計するという題材の「建築小説」として、建築関係者の間でも話題になりました。しかし一般的には、生成AIを使って執筆された最初の芥川賞受賞作として大きな注目を集めたようです。
 近年、生成AIに代表されるDX(デジタルトランスフォーメーション)による変革とその影響が各所で話題になっていますが、日本建築学会においてもDXは大きな課題となっています。学術研究面でのDXの取り組みは学会として当然の方向ですが、組織運営面においてもDXは重要な課題です。
 まず、これまで紙媒体で提供されてきた構造設計規準刊行物のウェブ閲覧サービスの試行が始まります。また、「建築雑誌」や「作品選奨」の電子媒体化、それに伴う学会規約の改変、サーバー等の情報システムの更新の必要性など、広範な検討が進んでいます。さらに、学会が保有する情報のデジタル提供とその対価についても検討が必要です。これらの情報は刊行物として出版されることで学会の収益を支える重要な柱であるためです。
 一方で、建築雑誌や作品選集に関しては、紙媒体の存続を強く希望される声もあります。合理性や経済性のみならず、学会として適切なDXの方向を議論し、進めていく必要があると実感しています。

・建築討論: 建築討論
・山梨知彦による九段理江インタビュー: インタビュー
・九段理江による山梨知彦インタビュー: インタビュー
 


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