第26回 会長・副会長からの近況報告(メルマガ)(2023年8月3日配信)
- 隔月のペースで、会員の皆さまに会長・副会長からの近況報告をメールマガジン形式でお届けいたします。
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暑い日が続きますが皆様お元気でお過ごしでしょうか。既にお伝えしておりますように、皆様へのメルマガは今年より2か月に一度、偶数月に配信することといたしましたが、その代わりに英文サイトからの会長・副会長のニュースレターを4か月に一度(7月、11月、3月)掲載することといたしました。まず手始めに、会長就任のご挨拶を英文サイトに掲載し、海外の関連団体、知己にご紹介するとともに、AIJの英文サイトより関連ニュース、JAR, JAABE等の英文ジャーナルを見ていただけるよう紹介させていただいております。
https://www.aij.or.jp/eng/info/president/230710.html
皆様におかれましては、是非、AIJの英文サイトも海外のお知り合いに紹介いただき、日本建築学会の概要および活動を国際的に認知いただけるよう、お手伝いを頂けますと幸いです。
https://www.aij.or.jp/aijhome.htm
7月初旬には、メルボルンで開催された国際シェル・空間構造学会(IASS)に川口副会長と共に参加して参りました。佐々木睦朗先生が構造家としての業績がみとめられ、創設者の名を冠したTorroja Medalを受賞されました。わが国の建築技術者が国際的に認められるのは喜ばしいことです。

9月12日~15日には京都で大会が開催されます。オンラインを一部活用しながらも、4年ぶりに個別の学術講演、建築デザイン発表会等が対面で実施されます。学生の皆さんも久しぶりに日本中の研究者や先生方、他大学で同じテーマに取り組む学生の仲間の前で直接発表し交流する機会が与えられ、緊張感の中にも想い出に残る貴重な経験ができるものと期待します。是非、楽しんでご参加いただければと思います。

未来について -関東大震災100周年提言を進めつつ-
「過去」にも「未来」にも同じ人間が生きています。人類文明の「過去」は長く見ても1万年、「未来」はほぼ無限に続く可能性があります。時間軸上で「現在」を支点にして天秤棹を考え、左に過去を右に未来の腕を伸ばせば、未来の方がおそらく圧倒的に長いであろうことが予想されます。しかし残念ながら「未来」は見ることができません。ピラミッドや法隆寺など厳然たる遺産を眼前にすると、「過去」の方が重要だと錯覚し、結果としてまだ見ぬ「未来」を軽視する傾向があります。未来を可視化するには目標とするビジョンが必要です。
だから我々は「未来」に引き継ぐものをよほど良く吟味しなくてはなりません。子孫に疎まれるものを押し売り的に作ったり残してはいけないでしょう。旧い組織や社会システムはなおさらです。「賢く遺す」と同時に「遺さない」ための知恵と技術が必要とされているのです。
20世紀は特殊な世紀でした。技術は大きく発展しましたが、それを使う知恵は相応には発展しませんでした。「現在」を「未来」へ導くビジョンを描くには「過去」に縛られない発想が必要です。「過去」の常識を何度も覆し、様々な先入観を取り除くことで「未来」が見えるようになってくるでしょう。「変わらない」と思ったら変わらないし、「分からない」と思ったら何も分かりません。「未来」にはピラミッドや法隆寺よりずっと素晴らしいものが存在する。その可能性を潰してはならないと思います。未来に共通の光る石のような目標を置いて、それを見定めながら進む、そうすれば「未来」は「過去を」を自然に凌駕していくことができるのではないかと思っています。
現在、関東大震災100周年タスクフォースでは本会発の提言をまとめるために、委員会内での議論以外に多方面の方々との懇話会を行いながら、意見を集約しています。現在、建築分野や防災分野が抱える問題は多岐にわたりますが、100年というスパンで提言を考える時、上記のような俯瞰した視点が大切なのではないかと心に留めながら、まとめに取り掛かっています。

本当に暑い7月でした。ご承知の通りこれは日本ばかりではなく、グテーレス国連事務総長の「地球沸騰化の時代が到来した」という言葉に象徴されます。脱炭素の取り組みが一層重要度を増すというより、もはや一刻を争う切実な問題に思えてきます。
話は全く変わってしまうのですが、ぜひご紹介したいと思う新聞記事があります。ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ氏というBBC東京特派員が日本を離任するときの手記で、半年ほど前に書かれたものです。
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-64357046?iref=pc_extlink
少し長文ですが、氏の日本文化に触れた率直な感想と批判的な意見も含めて、総体的には日本への愛情を感じる内容です。彼はその中で「かつて未来があった日本は、行き詰まっている」と述べています。近年の日本を的確に捉えていると感じました。
政治や経済に関する社会問題も含め、私たちが日々の営みにおいて大切にすべき日本らしさは何かを考えなおすきっかけになる気がしました。建築界でも真摯に向き合わなければならない課題も多く含まれると思います。
彼は以下のように結びます。とても示唆に富むメッセージとして受け取りました。
『日本は次第に、存在感のない存在へと色あせていくのだろうか。それとも日本は自分を作り直すのか。新たに繁栄するには、日本は変化を受け入れなくてはならない。私の頭はそう言っている。しかし、日本をこれほど特別な場所にしているものをこの国が失うのかと思うと、心は痛む。』

4年ぶりに対面で開催される防災の会議に出席するために米国を訪れました。帰路、いくつか調査のために、久々にサンフランシスコに寄ったのですが、高層ビルが増え、ランドスケープが変わっているのに驚きました。新しく建設されたのは”Salesforce”, “Slack”といったインターネット上でよく見るロゴが掲示された高層をビルです。サンフランシスコをふくむベイエリアは、バーチャル空間を構成する「テック産業」の集積地として知られています。こういった企業のビジネスの場はバーチャル空間ですが、そこでの活動が(おそらく収益)最終的には物理的都市空間に出現していると、妙な感慨を覚えました。物理的都市空間への出現という面で、もう一つ印象深かったのがCOVID19の影響です。サンフランシスコの中心部ユニオンスクエア周辺の店舗には外出制限期間に発生したヴァンダリズムの影響が残り、また空きテナントが目立ちます。空きテナントが多いことは「テック産業」とも関係があります。バーチャル空間を扱う産業のため、在宅勤務が可能で、まちに人が戻ってこないのです。新たなに建設された高層ビルにも空室が目立ちます。バーチャル空間での活動やCOVID19が、建築が操作の対象とする物理空間に出現しているという米国・西海岸訪問雑感です。

<建築発注のオープンな仕組みを目指して>
この春,ある行政から基本計画前の条件整理をプロポーザルで行うということについて意見を求められました。一般的にはコンサルタントを入れて整理されている業務の範疇であるでしょうか。日頃から,良い建築に至る前提は,設計発注方式とその条件整理によるところが大きいと感じていたため,「有効な方法と考えます」とお伝えしました。その経過は,改めて報告させて頂きます。
年に数回ですが,私が設計発注のお手伝いをしていく中で毎回戸惑うことは,審査のクライテリアが少なからず異なる点にあります。プロポーザル方式や総合評価落札方式では,国土交通省のガイドラインを基に進められているのでしょうが,同じ地方自治体でも担当部署が異なれば方法や基準に違いがみられます。小さな差異の積み重ねが最終的な評価のベクトルの大きな違いにつながらぬように毎回議論されます。中には基本要件自体が議論の対象となり問題になるケースもあります。なぜこの部分が改善されないのか?最近,同時期に2つの自治体でP F I事業の審査をお手伝いする機会があり,その際にこの課題は一つに発注業務に関わるコンサルに関係していると感じました。大体のケースでコンサルタントは影武者的存在です。そのため,コンサルタントの評価も表に出にくくなっています。
設計の発注業務の全体が,よりオープンな形で議論され公明正大に行わねばならない時代になったのではないでしょうか。建築文化の醸成を目指した「提言や基準」など,建築学会ができることを今一度見直していきたいと考えます。

先日、新聞記事で小学6年生対象の「将来就きたい職業」(クラレ調査)のアンケート結果が発表されていました。私にとって意外だったのは、建築家が5位(男子ランキング)にランクインしていたことです。調べてみると、過去10年間でも定期的に男子のベストテンに入っていることがわかりました。ちなみに高校生へのアンケート調査でも、“設計者・開発者・工業デザイナー”という職種でランクインしているようです。(*1) なぜ私が意外に思ったかというと、最近は建築学科を志望する学生が減っているというのを聞いていたからです。私が子供の頃は、建築家はかっこいい職業として常にベスト3に顔を出していたと記憶しています。建築家がTVコマーシャルなどでコーヒーを飲む姿にあこがれ、私も建築家を目指しました。事実、大学の建築学科への競争率も当時の理工系の中ではかなり高いものでした。現在の学生の進路状況と先程のアンケートとの相関関係は詳しく分析してみないとわかりませんが、こどもの頃の理想と実際の進路選択は異なってきているということでしょうか。
我々は、若い世代に向けて、建築の魅力をもっとアピールしなければなりません。そのために学会として何ができるかを探る必要があるでしょう。特に進路を決める前の世代に対して、建築家の仕事の魅力や社会的な重要性を広く知らせるためには、教育機関やメディアとの連携も必要です。また、建築家の仕事の魅力を伝えるイベントの開催、実際の現場見学の機会を提供することで、学生たちに建築の面白さを体験してもらうことも重要でしょう。学会や関連団体では既にこのような活動に取り組んでいますが、若い世代にとって建築が魅力的な職業となるためには更なる積極的な動きが必要です。こどもの頃の理想を現実とかけ離れさせないように、社会に発信し新たな志望者を増やし、建築界のレヴェルアップを諮ることも学会の重要な使命として取り組んでいきたいと思っています。
(*1)調査団体によって結果は様々です
