第19回 会長・副会長からの近況報告(メルマガ)(2022年12月5日配信)

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 師走になりました。皆様、忙しい日々を送られていることと思います。本会が編集(執筆:建築法制委員会)した近代建築法制100年を記念した本2冊が10月25日に上梓されました。「建築法制の制度展開の検証と再構築への展望」と「市街地建築物法適用六大都市の都市形成と法制度」です。重みのある本で、1ヶ月で読み切れていません。私自身は、2002年のシックハウス、2015年の建築物省エネ法などに関係させて頂きましたが、学術分野の研究者に取って法制度に関して歴史的な背景を知ることは大切であるということが良く分かりました。1886年に造家学会が設立されています。その当時、東京市区条例案が作られましたが、法令の公布にまでは至らなかったそうです。我が国の建築法制の体系は1919年に旧都市計画法と同時に制定された市街地建築法が源となります。建築学会、関西建築協会、日本建築士会、都市協会の4団体連名で当時の後藤新平内務大臣に陳情をしたことによって法制定の機運が高まったそうです。スペイン風邪が世界的に流行したのが、1918~1920年ですので疫病が大きな影響を与えたのだろうと想像しています。また、当時の建築学会の先人達が多くの文献を海外から収集、整理し提言などをされていたとのことでその努力に頭が下がります。そして、関東大震災が発生したのが1923年です。また、戦後の1950年には建築基準法が制定されています。自分の研究や開発の立ち位置を知るためにも知っておいた方が良いことが多く書かれています。
 話は変わりますが、嬉しいことがありましたのでご報告致します。11月14日に小野田副会長が住総研から「清水康雄賞」を受賞されました。清水康雄賞は「住まいに関する総合的研究・実践並びに人材育成を推進し、その成果を広く社会に還元し、もって住生活の向上に資すること」に対して3年に一度贈られる賞です。小野田先生の「復興を実装する-東日本大震災からの建築・地域再生」の記念講演は秀逸でした。講演会に加えて懇談会も対面でありました。隣に座られていた内藤廣先生から、復興のプロセスやシステムの記録などは学会のような学術団体にしか長く残らない、学会が論文などでこれらの記録を残しておくのは後世のために大切ですよとささやかれたのも大変心に残りました。

建築法制の制度展開の検証と再構築への展望、日本建築学会編、技報堂出版
https://gihodobooks.sslserve.jp/book/2631-9.html
市街地建築物法適用六大都市の都市形成と法制度、日本建築学会編、技報堂出版
https://gihodobooks.sslserve.jp/book/2630-2.html
一般財団法人 住総研 http://www.jusoken.or.jp/

 
田辺 新一
会長 田辺新一(早稲田大学教授)
 先日、3年ぶりにTRMK杯が開催されました。TRMKとは、2010年に発刊された「ベーシック建築材料」(彰国社)の執筆に携わった建築材料を専門とする5名の教員が所属する大学、すなわち、東京大学、(東京)理科大学、明治大学、工学院大学の頭文字をつなげたものであり、TRMK杯とは、その5名を含む関東の大学(上記の大学に加えて、宇都宮大学、芝浦工業大学、東海大学、東京都市大学)で教鞭をとっている総勢9~10名の教員の研究室対抗で、毎年秋に実施しているソフトボール大会のことです。総勢200名が集合し、モルタル製の優勝カップを争って、教員と学生が一丸となって熾烈(?)な戦いが繰り広げられます。数年前からスポンサーもつき、豪華(?)賞品までも用意されるようになりました。最下位になると、次年度の幹事校となり、グラウンドや道具の手配から懇親会の場の予約までを行わなければならないため、本当の目標は、優勝カップではなく最下位にならないことですが。実は、この集まりは、建築物の劣化調査を合同で行ったり、学会大会時にお互いの発表に刺激を受けたりと、学生同士の横のつながりを作るのに大きく貢献しています。卒業・修了後もそのつながりは維持されているようであり、建築業界の将来の発展(?)にも少なからず寄与するものと信じています。同じ分野間では自然に連携が図れ、協同することで問題の解決も早く、期待以上の成果が得られることも多くあります。では、異分野間では、どうなのでしょうか。想像するに、異分野間では、まずはお互いを知り理解するところから始まり、協力相手として相応しいという共通認識が得られた後に、実際の協力関係に移行していくため、問題の解決までには時間がかかるでしょう。時には、協力関係を築けないことも生じるでしょう。ただし、思考の異なる者同士で真の協力関係が築けたならば、お互いの世界が広がり、飛躍的・発展的な解決策が見出される可能性が高いと考えられます。日本建築学会と土木学会との共同に関して、9月に両学会の会員に対して行ったアンケートの分析結果が出ました。非常に興味深い結果です。前月のメルマガでも予告させていただきましたが、12月12日に開催される土木学会・日本建築学会合同シンポジウム「土木と建築-連携への期待と展望」(オンライン)において、アンケート結果の一端を紹介させていただきます。シンポジウムでは「土木への期待、建築への期待」と題した意見交換会も行われます。会員の皆様のご参加をお待ちしております。このメルマガ発行時に、まだ席が残っていればよいのですが。

https://www.aij.or.jp/event/detail.html?productId=668214
https://www.aij.or.jp/jpn/symposium/2022/AIJJSCE1212.pdf

 
野口 貴文
副会長 野口貴文(東京大学教授)
 最近の物価の上昇は毎日ニュースになるほど私たちの生活を直撃しています。以前メルマガでも書きましたが昨年来、世界的な原材料の品薄・高騰の影響により、建設業においても幅広い資材において、かつて経験のないほどの価格高騰・納期遅れが発生しています。日建連ではこの資材高騰・品不足は建設会社のみで吸収することは極めて困難な状況だとし、経団連に対し要望書を出しました。建設業は元請会社が受注した個別のプロジェクトを、下請・協力会社と協力して完成させる業態であるので、資材高騰等のしわ寄せが、下請・協力会社を含めた受注者に生じないようにするためには 、発注者と元請負人の間において、原材料の高騰等を反映した適正な工事代金と工期で契約の締結・変更を行うことが重要であることをお願いしてきました。実際には建設物価も大幅な上昇をしており10~15%の影響を受けています。
 個人地権者が多く集まる再開発事業はこの影響を大きく受け事業の中断もしくは延期を余儀なくされるほど大きな影響を受けています。この状況の中、日建連からも各方面に働きかけ、緊急促進の補助金をお願いしようやく、令和 4 年 11 月 8 日に閣議決定された第 2 次補正予算案において、建設工事費の高騰に伴う事業の停滞によって生活再建等に支障を及ぼすおそれのある市街地再開発事業等を対象とし、事業者負担を軽減することを目的とした制度の拡充が盛り込まれました。細かい制度設計はこれからですが、現在国交省から各地方自治体 市街地再開発事業担当者や防災街区整備事業担当者にアンケートなどが発信されている状況です。建築を取り巻く環境の変化の中こうした対応を社会全体の中で対応していく必要があると思います。

 
田名網 雅人
副会長 田名網雅人(鹿島建設㈱常務執行役員建築設計本部副本部長)
 日本建築学会が出版するジャーナル群を、激変する国際情勢に対応したものに練り直すこと、建築デザインの業績を共有知として価値づけること、などを目的に立ち上げられた「学術・芸術・技術分野の進展タスクフォース」、終盤戦に差し掛かっています。ジャーナル関係では、こうした問題のキーパーソンである日本動物学会の永井裕子さんや国立情報研究所の船守美穂さんを招いて踏み込んだ意見交換を行いました。デザイン業績では立場をまたいだ会合を複数回設定して、作品選集やJARが有する発信可能性と方策を再確認しました。近いうちに素案を出す予定ですので、ご批評頂ければ幸いです。
 今年9月のメルマガでも報告させて頂きましたが、このところ様々な自治体で発注のお手伝いをすることが増えてきました。中でも少子化と学びの変革で整理が必要になった教育施設と高度経済期に建てられつつも改修が後回しにされていた庁舎が目立つようです。
 限られた経験の印象評価で恐縮ですが、前者では、「学び」がまとう使命感や地域に根差した歴史を通して「公共性」が醸成され、関係者が徐々に繋がっていく姿に驚く一方、後者では、「公物」としての意識からか、謎の「忖度」が席巻し、短期的経済性や説明可能性を過剰に評価したいびつなスキーマに陥ることに無力感を感じる、といった逆のベクトルが働くような気がしています。
 ここ数年、こうした「空間」生産にまつわる社会的性向の正体を科学することが興味の中心となり、これらに関する非本流的研究を細々と続けておりました。偶然ですが今年は、そうしたことを評価して頂ける有難い年となっています(個人事ですみません:汗)。
 大勢にあわせて研究領域を設定していたわけではなかったので、論文引用数が伸びている訳では無く、外形的には詮無い仕事が頼りなく繋がっているだけなのですが、そこに面白さを見出してくれる勇気ある知性が存在することに、改めて感謝する次第です。どのように恩返しが出来るのかについては、年末、ゆっくりと考えさせてください:笑。

 
小野田 泰明
副会長 小野田泰明(東北大学教授)
 今回は宣伝です。このメルマガの配信される12月5日(月) 9:00~、私の所属する東京大学 生産技術研究所のERS (災害に強い都市を支える工学)研究グループで、関東大震災100周年に向けたシンポジウムを企画しています。午前中は関東大震災の研究で著名な武村雅之先生もお迎えしています。ご興味とお時間が合えば、どうぞご視聴ください。
オンライン(自由参加): zoom URL
https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/j/89306445859?pwd=VE4yNFhxWHRyUmI4N1JMN0lGNzBXQT09

午前9:00~12:00
午前の部:関東大震災の火災被害と都市の防耐火の今までとこれから
・9:10~9:50  武村雅之 (名古屋大学特任教授)
「関東大震災でなぜ東京は最大の被害を出したのか?-大火災の原因とその後」 ・9:50~10:30  原田和典 (京都大学教授)「震災時からの約100年間の防火の歴史を振り返る」
         休 憩
・10:40~12:00 討論
         武村雅之、原田和典、越山健治 (関西大学教授)、加藤孝明 (東京大学教授)
         昼 休 憩
午後 13:00~17:00
午後の部:マルチハザードとしての大震災と今、そしてこれからの展望
・13:00~13:30 越山健治「復興研究がもたらす新たな都市防災対策」
・13:30~14:00 加藤孝明「大都市大震災を俯瞰する-関東大震災100年を迎えるにあたって-」
・14:00~14:30 腰原幹雄「木造社寺建築と戸建住宅の耐震性 -100年の変化-」
・14:30~15:00 川口健一「非構造材の安全性と建築のシェルター機能」
         休 憩
・15:15~15:45 清田 隆「関東大震災による地盤災害と現在のリスク」
・15:45~16:15 目黒公郎「国難級災害対策における最重要課題と解決へのヒント」
・16:15~16:45 沼田宗純
「関東大震災から現在に共通する教訓を踏またこれからの人材育成
 ~東京大学生産技術研究所附属災害対策トレーニングセンター(DMTC)の試み~」
・16:45~17:00 閉会
プログラムは下記 (東京大学Web Site)からダウンロードできます。
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/events/z0205_00109.html
以上です。

 
川口 健一
副会長 川口健一(東京大学教授)
 社会ニーズ対応推進委員会では、2023年度に開始する特別調査委員会3件を採択し、11月理事会で承認されました。詳細は来年4月に公開されますが、それぞれのテーマは下記のとおりです。
・小規模雑居ビルの放火火災に対する安全計画
・居住支援への空き家のコミット方策の検討
・解体から始まる循環型建築学・技術体系の構築
特に初めの2件は、昨今のニュースで頻繁に取り上げられる現代社会が抱える問題で、法整備を含めた喫緊の課題であり、その調査研究成果が期待されます。

 別の話題を一つ。2019年に日本建築学会文化賞を受賞した稲葉なおとさんをご存じでしょうか?東京工大建築学科卒で、設計や不動産業を経験した後、今は作家、写真家として活躍されています。今年春に出版された「津山 美しい建築の街」という写真集は建築の写真集でありながら郷土の歴史を深く調べつつ、その建築が生まれた背景も含めて探求する視点があり、いわゆる建築写真でもなく、紀行写真とも芸術写真とも異なる新たな領域の写真集であると言えます。縁あって11月にご本人の案内で津山の街を巡る機会を得ました。
 津山市は岡山から列車で北へ1時間半、山あいに入った盆地に位置し、津山城を中心に栄えた城下町で、旧出雲街道が東西を貫いています。その街道沿いに歴史的町並みが残る観光地として最近特に人気が出てきています。今回は、日本建築家協会(JIA)中国支部大会のイベントで稲葉氏による講演会と「津山の建築とまち」と題したシンポジウムが行われました。作家である稲葉氏の読者は建築界以外の幅広い方々が多く、この日もそういった聴衆が目立ちました。地元から参加された方は、自分たちの街の魅力を改めて感じ取ったのではないでしょうか。
 街の中心部のアーケードとなっている商店街も旧出雲街道が時代と共に変遷した姿を残しています。残念に思えたのは、その一部が再開発され、コンサートホールや図書館、商業施設等が入った巨大な複合ビルになっており、旧出雲街道はその建物を迂回する形に付け替えられてしまっています。シンポジウムのパネラーを務めた陶芸家の白石齋氏によると、「計画時には賛否を問う論争になり猛反対したが、街の利便性や経済発展をめざす賛成派が大勢を占めた。歴史的遺産ともいえる街道沿いの街並みは二度と戻ってこない。『街を守っていくには、その土地を愛する強い意志を持った個人の力が必要。』(白石氏は吉阪隆正の言葉として引用)」との発言が印象に残りました。
 市街地の再開発にも携わる機会がある身としては、常にその土地の歴史的背景や文化的価値を見過ごさないように注意深く気を配る必要があり、その使命を感じずにはいられません。

 肝心の津山の魅力を紹介できませんでしたが、そこは是非、実際に訪れてみてください。とても素敵なところです。

 
山本 茂義
副会長 山本茂義(㈱久米設計上級担当役員設計本部プリンシパルCDO)


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