第17回 会長・副会長からの近況報告(メルマガ)(2022年10月3日配信)

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 9月5日(月)から8日(木)に開催された日本建築学会大会に多くの方の御参加を頂き有り難うございました。研究協議会などの参加者は現地の北海道科学大学でリアル参加の方々もおられました。私も北海道科学大学に伺いました。今年度の大会のテーマは「描く」でした。新しいコトへの挑戦・展開には、いくつもの困難を乗り超えていく必要があります。疫病、地球温暖化、災害、戦争など困難が多い世の中ですが、今こそ我々は明るい未来を描いて行動する必要があります。
 オンラインとハイブリッドというこれまでに経験のない大会を成功に導いて頂いた菊地大会委員会委員長、谷口大会実行委員会委員長、小澤北海道支部長をはじめとする大会委員会、大会実行委員会、支部役員の皆様方、関係者、学生の方々に対し、心より感謝申し上げます。また、大会会場として快く大学キャンパスの使用をご承諾くださいました苫米地理事長をはじめ北海道科学大学の皆様に対しまして、会員を代表して感謝の意を表します。カーボンニュートラルの総合研究協議会には土木学会の上田会長に現地で参加頂きました。
 法政大学の川久保俊先生が取り纏めに尽力された今回の大会梗概のSDGs関連活動の報告を9月8日に学会HPで公開しています。ポイントとしては、学術講演梗概数は微減、建築デザイン発表梗概数は微増、総梗概数は微減になっています。1梗概あたりのSDGsの平均紐づけ件数は2021年度1.7件から2022年度1.9件と微増になっています。ゴール12の持続可能な生産と消費、ゴール13の気候変動対策の紐づけ件数が増加しており、サーキュラーエコノミーやカーボンニューラル化の社会情勢を反映していると思われます。話が横に逸れますが、2022年3月18日に開催したシンポジウム「カーボンニュートラル実現に建築分野はどう対応すべきか」の内容を収録した報告書が9月13日に公開されました。充実した内容になっておりますので、ご覧頂ければ幸いです。
 昨年のメルマガで紹介致しましたが、本会には「全国建築系大学教育連絡協議会」が設置されています。昨年度からは新型コロナウイルス感染症の影響により、大会とは別にWEBで総会などが開催されています。今年度はこのメルマガが配信される10月4日(火)18時から予定されています。昨年の総会で運営委員長に就任した明治大学の田中友章先生が、総会に加えて、「建築界の次世代育成の展望 ~建築教育と産業界の接点をめぐって~」としてプログラムを準備中です。お時間が合えば、参加は無料ですので、学会HPの催し物から申し込み頂き参加頂ければ幸いです。
 また、日本学術会議の若手アカデミーが若手研究者評価の意識調査を文部科学省の協力も得て行っています。全国の大学・研究機関、学協会に調査依頼を行い、約8,000名の若手研究者からの回答が集まっています。その調査結果を報告する場として、10月6日にシンポジウムが予定されています。豊橋技術科学大学の小野悠先生が頑張っておられます。終了後も資料などは公開されると伺っています。

脱炭素都市・建築タスクフォース活動報告(2022年9月13日公表)
https://www.aij.or.jp/jpn/databox/2022/220913.pdf

全国建築系大学教育連絡協議会(全建教)総会 建築界の次世代育成の展望 ~建築教育と産業界の接点をめぐって~(2022年10月4日(火)18:00-20:00 開催)
http://www.aij.or.jp/jpn/symposium/2022/20221004.pdf

日本学術会議:公開シンポジウム「若手研究者をとりまく評価-調査結果報告と論点整理-」
(2022年10月6日(木)13:00-15:30 開催)
https://www.scj.go.jp/ja/event/2022/330-s-1006.html

 
田辺 新一
会長 田辺新一(早稲田大学教授)
 今年度の日本建築学会大会は、残念ながら、研究集会以外の発表はオンラインでの開催となってしまいました。北海道大会は、36年前に私が最初に参加・発表した大会であり、大会終了後は研究室の仲間と道東まで足を延ばし、北海道の魅力を十分に堪能させていただきました。今もって、その時の様々な光景が瞼に焼き付いており、その後、北海道大会が開催されるたびに(実は、他の用事で北海道を訪れる際も)、思い出の場所を訪ねるのが常となっていました。今年度は初日の総合研究協議会には参加したのですが、主催者として同時期に京都で開催していた国際会議の管理のために、日帰りで京都にとんぼ返りをしなければならず、ノスタルジーに浸ることは叶いませんでした。ただ、総合研究協議会において、北海道にお住い(中国・深圳大学から一時帰国中)の土木学会・上田多門会長に久しぶりに対面でお会いし、脱炭素に関する土木学会や世界各国の方向性についてお伺いでき、非常に有意義な研究協議会でした。実は、その翌週、再度京都を訪れました。今度は、田辺会長の代理として、京都国際会議場で開催される土木学会全国大会・交流会に出席して祝辞を述べるためです。土木学会全国大会は、今年度は京都大学・吉田キャンパスにて対面で実施されるとのことで、交流会でお会いした方々は、皆様、晴れやかで清々しい表情をされておりました。次年度は、是非、日本建築学会大会も対面で開催されるようになることを祈りたいと思います。奇しくも、土木学会と同じ京都大学・吉田キャンパスです。
 さて、土木学会全国大会・交流会の祝辞でも述べさせていただいたのですが、現在、日本建築学会と土木学会との共同タスクフォースが設置され、両学会それぞれの重点目標は何か、両学会はどのような分野で共同すべきかなどについて、各学会の会員を対象として10月16日締切でアンケート調査が実施されています。既に4,000を超える回答が返ってきているようですが、土木学会会員からの回答数が日本建築学会からの回答数をかなり上回っているとのことです。会員の皆様におかれましては、是非、下記にアクセスいただき、ご回答いただければ幸いです。3分で十分に回答できますので、よろしくお願いいたします。

アンケート回答先
https://forms.gle/8LR8ybuGPWDb7yPX8

 
野口 貴文
副会長 野口貴文(東京大学教授)
 シルバーウィークを使って欧州に行ってきました。ワクチン接種率の高いヨーロッパ諸国では、新型コロナの重症化や医療の逼迫が少なくなったため、22年に入ってからパンデミックによる義務と制限の大半を撤廃しました。その影響か欧州内での移動はほぼコロナ前に戻っているようで飛行機も満席。観光も戻っておりホテルも満室状況でした。屋外でのマスク着用はあまり見られませんでしたが、交通機関内でのマスクの着用はしっかり守られています。飛行機内は自然と強制ではなく着用しているようでした。欧州ではコロナで多くの人が感染し死亡者も多く出たからでしょうか、この冬の再来を恐れているようです。日本でもようやく10月11日国際的な人の往来再開が行われます。
 先日このコロナについて、バイデン米大統領は「終わった」と発言、テドロスWHO事務局長も終息に言及し、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う制限と義務が課されてから2年半以上たち、多くの人々がパンデミックの終わりを知らせる公式の宣言を切望しています。
 米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によれば、新型コロナは世界的にはこの1週間の平均で1日あたりまだ1000人を超える死者を出しており、患者数も低い水準にとどまってはいません。米国では2022年9月現在、新型コロナによって毎日300~400人が死亡しています。しかしながら、すでに数億人が新型コロナに感染したこと、重症化を防げるワクチンと治療法の存在、以前のように医療システムが完全に崩壊することはなさそうなことが収束に近づいているとも言えます。それでも、突然(コロナ禍前の)2019年のような状態に戻るわけではありません。新型コロナが消えて、何も起きなくなるわけではないのです。一定数の新規感染、入院、死亡があり続けるということで、コロナとの共存はしばらく続くと思ったほうが良いでしょう。

 
田名網 雅人
副会長 田名網雅人(鹿島建設㈱常務執行役員建築設計本部副本部長)
 北海道科学大学での大会が無事終了しました。ハイブリッド開催は、運営者する側にとっては、二つのシステムを並走させるために負荷がかかるのですが、手稲の整えられたキャンパスにおける運営は見事なものでした。関わられた皆様に改めて御礼申し上げます。
 当方は、総合研究協議会「ウイズ/アフターコロナへの建築学の対応」と建築計画研究協議会「地方都市の再開発が生む空間の規模と質」に加わらせて頂きました。前者は、大月敏雄先生、大岡龍三先生らが進めておられる分野横断的議論ですが、ミクロからマクロに渡る人間環境の問題を取り扱う我々の職能において、コロナはそこにデジタル環境を大きく介入させたこと、「空間」はそれらを包含可能な稀有な資源であることを了解出来ました。
 後者は、再開発ラッシュに沸く札幌において、我々に何が出来るのかを問う真摯なものでした。石橋達勇先生、森傑先生、真境名達哉先生をはじめとする現地の先生方が主導されたこの企画から、高度経済成長期に設定された大量の保留床の創出をレバレッジとする再開発の枠組みを見直す必然性を共有することが出来たのは収穫でした。
 最終日、閉会挨拶を申し上げた後、大雪山麓に移動して、優れたまちづくりで知られる東川町を拝見する機会にも恵まれました。まちづくりに長く丁寧に関わってこられた小篠隆生先生の説明から、先住者、移住者、訪問者の共同とそれを担保する優れた建築の設定が重要であることが体感出来ました。
 これらは、企画された先生方の力による所が過半なのですが、それが、前後にある美味しい食事・雄大な風景・対面での忖度なしの議論によって、「腑に落ちる」ものになっていることを改めて実感しました。協議会等発言者のみ会場参集という苦渋の決断が溜めたであろう皆様のフラストレーション、本報告が少しでも緩和出来ればいいのですが...笑。

 
小野田 泰明
副会長 小野田泰明(東北大学教授)
インターネットのインパクトと対面の力
 8月29日に、イラン・タブリーズ市からの一行との懇話会を行いました。建築博物館の活動です。タブリーズ市は世界最大と言われるグランド・バザールがある一方で、地震多発地域で歴史的建物の多くが震災の危機にさらされているとのことでした。三宅理一先生(建築博物館委員会幹事)の取り持ちで、東アゼルバイジャン州建設技術協会会長レザ・ディザジ氏一行の忙しいスケジュールの合間を縫った懇話会でした。コロナ禍の中、よく来日が叶ったと思います。マスク着用、握手無しでしたが、対面による密度の濃いラウンドテーブルでした。
 握手というと、思い出すことがあります。
2011年にイラン・テヘラン大学の建築学科の国際シンポジウムに招かれて数日間テヘラン大学に滞在したのですが、時期を合わせて学生コンペやその表彰式も行われていました。その表彰式に私もゲストしてステージに上がり、優秀者に表彰状を渡す役割を仰せつかったのですが、最優秀の女子学生に表彰状を渡し”Congratulations!”と言いながら無意識に握手をしました。その瞬間に大ホール中にどよめきと歓声が上がりました。そうです。イランでは人前で男女が握手をする、ということはあってはならないことでした。「しまった!」と冷や汗。その女学生の将来に傷をつけてしまうのではないか、とその場で大変後悔したのですが、あとで、最近はそれほど厳しくない、と聞いてほっとした覚えがあります。
 その後2018年に、米国での国際会議で、その優秀な女子学生と偶然再会しました。彼女から「あの時の学生です。」と話しかけてきてくれたのです。彼女はその後、米国に留学して建築の勉強を続けているとのことでした。
 最近のニュースでは、テヘランでヒジャブの被り方が悪かったという理由で逮捕拘束された女性が直後に死亡。この事件を巡って、女性たちが大きな抗議活動を展開しているそうです。彼女たちのパワーをいつまでも抑えつけることは出来ないでしょう。為政者によってさまざまに歪んだ枠の中で生きることを強いられる人たち。ウクライナもロシアも、日本も中国も。昔も今も。しかし、現在はインターネットがあります。コロナ禍の中でも様々な情報交流を可能にしてくれました。インターネットによる国境を越えた交流は様々な境遇にある人達をシンパシーで繋ぐことを可能としてくれています。そして、その上で再び対面で会うことの意味と価値が、より一層高まっていくのだと感じる昨今です。
 北海道大会は、コロナ禍の困難の中、インターネットの利便性と対面の魅力、両方をご準備された、菊地先生、谷口先生、小澤先生、をはじめとする皆様、苫米地理事長のご厚意、ご努力とホスピタリティに深く感謝いたします。

 
川口 健一
副会長 川口健一(東京大学教授)
 まずは、私が委員長を務めている社会ニーズ対応推進委員会からのお知らせです。2023年度開始の「特別調査委員会」テーマを10/31締切で公募しています。応募資格は現職の役員、代議員、常置調査研究委員会委員長ならびに閲覧者です。これまでの活動と調査については学会HPをご覧ください。現代のサステナブル社会に生起しあるいは生起が予測される諸課題として取り組むべきテーマがありましたら、ぜひご提案をお寄せください。

 話はかわりまして、9月に大会が行われた北海道にちなんだ建築との個人的なふれあいについて少し語らせていただくことにします。帯広市に程近い中札内村に「中札内美術村」と「六花の森」があります。訪れたことがある方も多いと思いますが、菓子メーカーの六花亭が運営しており、雄大な自然の風景の中に美術館が点在する観光名所になっていて、2011年度日本建築学会賞[業績]を受賞しています。文化・芸術への理解が深い企業経営者と優れた企画・設計者の出会いが生んだ好ましい事例であることが実感でき、とても豊かな体験ができました。
 今回の訪問のきっかけになったのは中札内美術村館長の飯田郷介氏との出会いです。著書「美味しい美術館」で六花亭創業者との出会いや、中札内美術村と六花の森が生まれた経緯が詳しく語られています。これを私自らの設計者目線で想像すると、与えられた条件の中で新しい建築空間をその自然環境の中にどう対峙させるかということ等をまず考えると思いますが、ここではそういう意味での建築が主役にはなっていません。木立やせせらぎが織りなす風景の中に、その自然景観の一部としての建物が点在しているという印象です。個々が独立したギャラリーとなっている建物群は、民家や銭湯の移築改修や、北大農場の牧牛舎や穀物庫を模したものなどが主体です。世の風潮的にも、移築やリニューアルが見直されている中、とてもいい自然な解決例を見た気がしました。
 この流れで同じ北海道の白老町にあるウポポイ(民族共生象徴空間)も訪れました。「国立アイヌ民族博物館」と、体験交流ホール等様々な施設が点在する「国立民族共生公園」で構成されています。建築設計者として見たときに先に紹介した中札内との違いとして感じたのは、全体を包括する統一的視点の欠如です。言い換えると、マスターアーキテクトの不在により各施設が独立して存在してしまっている印象が否めません。これは発注者が公共(国)であるがゆえに、全体構想、基本計画、基本設計等々が分離されていて、今回はさらに、「国立博物館エリア」と「国立公園エリア」で発注部局が異なっていることに起因しているからなのではないでしょうか。公共工事の公平性、透明性、機会均等といった使命が重要なのは言うまでもありませんが、その一方で、それがもたらす弊害の一端を見た気がしました。

 
山本 茂義
副会長 山本茂義(㈱久米設計上級担当役員設計本部プリンシパルCDO)


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