第15回 会長・副会長からの近況報告(メルマガ)(2022年8月2日配信)

  • 毎月1回のペースで、会員の皆さまに会長・副会長からの近況報告をメールマガジン形式でお届けいたします。
  • ※メールマガジンの登録はこちらから。

 JAR(Japan Architectural Review)が今年度から科研費を5年間の予定で受けました。収録論文数も増やすことができます。Original論文も含めAPCが無料になっておりますので、是非、投稿をお願い申し上げます。Architecture部門ではQ1ジャーナルになっています。
 慣例として就任1年目に会長の支部訪問が行われています。WEBでの参加が大半になりましたが、4月下旬から7月初旬にかけて、支部訪問をさせて頂きました。東海支部、北陸支部、九州支部は対面参加させて頂きました。広く意見を徴して会務運営に資することを目的にしています。歴代会長が9支部を実際に訪問されていること、支部の皆様も対応されてきたことに頭が下がります。支部活動が学会を支えていることが実感できました。私からは本会の活動紹介とカーボンニュートラル実現のための建築分野の役割に関する講演をさせて頂きました。学生の皆様も参加され多くの御意見や質問も頂きました。懇談の中では、若手育成のために大会対面発表の復活希望、関東大震災100周年、土木学会の会員が建築学会論文集の共著者になれないか、常議員の立候補者・推薦者は男性が多く、支部役員会で女性の声が届きにくい、大会会場の選定が難しくなっている、小委員会の人数が15名に固定されて、新陳代謝の妨げになっているのではないか、論文集の目次を何らかのかたちで見られるようにして欲しい、建築会館のDX化を進めて欲しい、JABEEやUIAキャンベラアコードはどのようになっているのかなど多くの意見や要望も頂きました。企画運営委員会や理事会で相談して可能なことは早期に実現したいと考えております。
 カーボンニュートラルの講演中で紹介した日本の自然災害による経済損失について、「2018年の台風21号と西日本豪雨だけでおよそ2兆5000億円、損害保険支払額は1兆3203億円」と紹介致しましたが、私の説明が間違っておりお詫び申して訂正致します。損害保険支払額は台風21号と西日本豪雨だけはありませんでした。日本損保協会の2022年3月末時点の公表額は 西日本豪雨が1956億円、台風21号が1兆678億円、合計で1兆2634億円になります。同協会がこれまでの自然災害による保険金の支払いを公表しています。

Japan Architectural Review
https://www.aij.or.jp/paper-jar.html

日本損害保険協会 風水害等による保険金の支払い
https://www.sonpo.or.jp/report/statistics/disaster/index.html

 
田辺 新一
会長 田辺新一(早稲田大学教授)
 最近、専門外である経済・金融について、耳学問ではありますが、学ぶ機会が非常に多くなってきています。その内容は当然のことながら建設関係ですが、視点は常に環境に置かれています。私がESGという用語を初めて耳にしたのは、5年ほど前でした。皆様もよくご存じのように、E:Environment(環境)、S:Social(社会)、G:Governance(ガバナンス)であり、企業が長期的に成長するためには経営においてE、S、Gの3つの観点が必要であるとのことです。私は大学に身を置いてはいますが、大学とて長期的な成長のために経営は重要であると、最近ひしひしと感じています。
 ただ私自身は、Eに関してはなんとなく理解しつつあるものの、今もってSとGに対する理解は全く足りていないという状況であり、今後、E・S・Gそれぞれに対する理解を深め、研究・研究室運営に活かしていく必要があると考えています。これは、日本建築学会においても然りであり、副会長として残された任期の期間、田辺会長の下で、ESGの観点での運営に取り組む決意を新たにいたしました。その契機となりましたのは、先日行わせていただいた小池百合子・東京都知事との対談であり、東京都のESGへの取組みに非常に感銘を受けました。その模様は、

https://rrcs-association.or.jp/log/2022-7-25.html

でご覧いただけますので、お時間が許せばぜひ覗いてみてください。ちなみにこの対談ですが、毎月実施しており、今後、田辺新一・日本建築学会会長(8月)、上田多門・土木学会会長(9月)と続いていく予定です。

 
野口 貴文
副会長 野口貴文(東京大学教授)
 コロナの感染が再拡大し(第7波)、1日20万人を超えるほどになってきました。今やG7の中でも1番多い国になっています。しかしながら経済活動を停めることなく動かすためにこの感染症を2類から5類にするかの議論もようやく動き始めてきました。
 我々が直面する感染症との戦いも2年半が過ぎ、定説である2年の期限も過ぎようとしています。100年前のスペイン風邪は5000万人の死者を出しましたが、今回の感染症ではまもなく650万人に届こうとしています。科学技術の進歩によって、変異するウィルスを追いかけられるようになり、いたちごっこのような状況にもはやなろうとしています。一度舵を切った方向を、逆の方向に戻すことが並大抵のことではないことに気づかされます。
 我々の建築業界でも、常に新しい地震や天災などが起こりそれに対応した新しい基準や考え方を作ってきたと思います。来年は関東大震災から100年を迎えようとしています。100年近く前に起こったいずれの事象も、今の時代の我々に何を問うているのか一度考える契機になればと思います。

 
田名網 雅人
副会長 田名網雅人(鹿島建設㈱常務執行役員建築設計本部副本部長)
 夏祭りの季節ですね。以前行った東日本大震災からの復興研究で、夏祭りの復活からコミュニティのレジリエンスを評価したことがありますが、被災地に限らず地域コミュニティの起点となっている所は、今も多いのではないでしょうか。Covid-19が猛威を振るっていますが、以前のように楽しめる状況に少しでもなることを願っております。  コミュニティにとって重要な行事が行わる8月ですが、77年前から、別な意味が込められるようになりました。原爆投下とそれに続く戦争終結に対する振り返りです。季節行事化する風潮には異論もあるとは思いますが、精神論によって科学を封殺した帰結として起こった悲劇を再帰する機会としては意味があるように思います。  しかしながらSNSが普及し、個人の感情や不可思議な陰謀論が逆説的に強い伝播力を持ってしまいかねない現代に生きる我々には、合理や科学をリスペクトした丁寧な振り返りは、かえって難しい状況のようにも感じます。津波遺構の保全に際して、原爆遺構の保全に努力された方々から多くの教えを頂きましたが、それ以外にも学ぶことや考えることはまだまだ多いのではないでしょうか。新たなチャレンジが始まっているのかもしれません。  こうした振り返りは、建築・都市に関する議論を学術、技術、芸術の大きな視座で議論・定着・発信させることを求められている日本建築学会にとっても大切な契機なはずです。暑い日が続くとは思いますが、忙しい日常を離れて、じっくり考える余裕を持っておきたいと感じる今日この頃です。
 
小野田 泰明
副会長 小野田泰明(東北大学教授)
「日本のワールドイベントと建築と民主主義」
 昨年の今頃は2020年から延期となっていた2回目の東京オリンピック・パラリンピックが開催されていた時期です。無観客という異例の新しい形で開催し、予定の会期を終了しました。
 3年前には、もし、会期中に首都直下地震が発生したら、というシナリオを憂う防災関係者も多かったですが、そのような心配も無観客開催によって大幅に軽減されました。これも 新型コロナの感染拡大がもたらした新しいワールドイベントの形と考えることもできるかもしれません。最初からこうなることが分かっていれば、何千億円という税金を使って巨大な施設をいくつも準備する必要もなかったでしょう。
 純粋にスポーツの国際的な祭典であれば、そして、東京が真にホスト都市としての役割を果たすことを考えているのであれば、無理に2週間の超過密スケジュールでやろうとする必要もなかったと思われます。半年くらいの開催期間の中で余裕をもって行えば、「密」の状態も大きく緩和されるし、日程に余裕があれば荒天のときは順延して実施することもできる。ボランティアによる「おもてなし」もじっくりできたでしょう。
 建築雑誌6月号は「民主主義の変化と建築の不能」で新国立競技場問題も取り上げていました。私たちもIASS 2016国際会議の折りに「若者の為の新国立競技場国際コンペ」を主宰しました。世界中から60を超える案が集まり、内藤廣さんに審査委員長になっていただいて、優秀作品5案を選んで表彰しました(2016年)。若者のコンペを企画した理由は単純で、使い続けるのも税金を払うのも今の若い人たちなのに、全く意見を言う機会も与えられず老人達のトップダウンで一方的に進められていたからです。40歳未満の構造系のアイディアコンペとしたものの、世界中から斬新な案が多数集まり、絞り込みの難しい大変良いコンペでした。結果は隈研吾さんにも見ていただきました。概要は下記fbにて見れます。しかし、コンペを企画したときには大勢の建築関係者から「そんなことをしたら建築業界から追放される」と言われました。中世の西洋で教会の権力の下で正しいことが言えない時代は、きっとこんな雰囲気だったのだろう、と思いました。
 元オリ・パラ組織委員会理事の利権をめぐる収賄事件が取りざたされています。オリ・パラに限らず、多くのワールドイベントが公開性を欠いたまま、私されているという印象があります。多くの税金を投じるイベントが商業化されると同時に民主主義とかい離していく状況を様々な意味で時代遅れになっていると感じる人も多いのではないでしょうか。
https://www.facebook.com/iass2016.dc/
(公式ページは現在終了。上記 facebook で概要がわかります。)

 
川口 健一
副会長 川口健一(東京大学教授)
 自然災害の増加が止まりません。降雨災害では、線状降水帯が日常的に起こる気象現象としてすっかり馴染んでしまった感があります。世界を見てもヨーロッパやアメリカの異常気象や山火事等、地球温暖化に伴うと思われる影響がいよいよ現実味を帯びてきたように感じます。
 数年前にロンドンのBBCを訪れた時に、イギリスではテロの脅威等はあるものの、日本のような地震、台風等の自然災害時にも、公共放送局として機能し続けるための特別な備えは必要ないということを聞き、つくづく日本は自然災害国であると再認識すると同時に、少なからずうらやましく感じたのが、もはや過去の話のようです。
 このような状況下でCO2排出抑制に向けた機運はますます高まっています。これは政界を含めた社会全体で取り組むべきテーマなので、このムーブメントは経済性を優先させるために抑制を余儀なくされてきた、建築の環境配慮技術や防災機能の加速度的な普及・発展につながるのではないかと一方で期待してしまいます。

 
山本 茂義
副会長 山本茂義(㈱久米設計上級担当役員設計本部プリンシパルCDO)


メルマガ案内ページへ