第13回 会長・副会長からの近況報告(メルマガ)(2022年6月1日配信)

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 5月30日に通常総会と各賞贈呈式などが開催されました。通常総会は2020、2021年と同じようにリモート開催となりましたが、今年は新名誉会員推挙式、各賞贈呈式は受賞者のみの出席になりましたが建築会館ホールで開催致しました。YouTube中継も行いました。受賞されました皆様方には心からお祝いを申し上げます。理事や副会長時代に建築会館ホールでの式に参加させて頂きましたが、受賞された方々の嬉しそうな姿を拝見するだけで、私自身も晴れがましい気分になっていました。参加人数は限られましたが、そのような状況に近づいてきたことは喜ばしいと思っています。事務局にも初めてのハイブリッド受賞式を成功させて頂き心より感謝しております。終了後の懇親会は残念ながら中止に致しましたが、来年はコロナ前の状況に戻って欲しいと切望しています。この総会から川口健一副会長、山本茂義副会長が新たに加われました。しっかりと協力して学会運営に努力して行きたいと考えています。
 会長1年目の通常総会の前後に支部訪問をするのが建築学会の慣例になっています。建築学会には9支部があります。支部の総会に合わせて学会運営や最新の動向などに関して報告や講演、意見交換等を行うものです。歴代会長が週末などに現地へ赴き対話を行われてきたことに頭が下がります。今年は多くがWEBによる参加になってしまいましたが、東海支部と九州支部には現地に伺い参加してきました。特に、河辺東海支部長、堀九州支部長には困難な中、リアル開催を頂き有り難うございました。やはり直接お会いして会話が出来るのは格別でした。まだ、支部訪問は続きますがよろしくお願い申し上げます。学会は支部の活動に支えられています。これからも機会があれば懇談などをさせて頂ければと思います。
 カーボンニュートラル関係ですが、建築物省エネ法が衆議院国土交通委員会で5月20日、24日と審議され、25日に衆議院本会議で可決されました。また、東京都では環境確保条例の改正、環境基本計画のあり方に関する中間のまとめのパブリックコメントが始まりました。こちらはまたご報告するように致します。

建築物省エネ法:国土交通省2022年4月22日
https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000920.html

東京都環境審議会パブリックコメント (2022年5月25日~6月24日)
・東京都環境確保条例の改正について(中間のまとめ)
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/basic/conference/council/public_comment/public_comment_jourei.html

・東京都環境基本計画のあり方について(中間のまとめ)
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/basic/conference/council/public_comment/public_comment.html

 
田辺 新一
会長 田辺新一(早稲田大学教授)
 最近、一部の建築材料・製品の価格上昇が著しいようです。2000年頃から数年前まで、大学1年生向けに建築材料の不思議について紹介する講義をオムニバス講義の一コマとして担当していました。その中で、いつも楽しく学生と意見交換をしていたのを思い出します。牛乳・卵と並んで価格が変わらない建築材料としてセメントおよびコンクリートを採り上げ、それぞれ1トンおよび1m³が何円かを当てさせるというクイズを出題し、最も答えの近い学生に、1トンのセメントか、1m³のコンクリートをプレゼントするから頑張って、という冗談を交えながら、一人ずつ答えてもらいました。セメント1トン10万円、コンクリート1m³100万円といった解答もあり、その価格だったら是非私が売るから買って欲しい、と学生に持ちかけたものです。答えとしては、簡単に覚えられるように、セメント1トンが1万円、コンクリート1m³が1万円という解答(大きく逸脱してはいないはず)を用意しました。水よりも相当に安いセメント・コンクリートって何物?そのようなものを使って造られている建築物は大丈夫?という疑問を学生はたぶん抱いたことでしょう。高度経済成長期に価格が上昇した後は、1980年以降、セメント・コンクリートの価格はほとんど変化していません。セメントの価格が変動していないのにも関わらず、時に、コンクリートの価格は乱高下しますが。。。最近の建築材料・製品の価格上昇の原因は、COVID-19によるもの、ロシアによるウクライナ侵攻によるもの、および円安によるものですが、それらの影響を受けて、木材、鋼材および合板型枠の価格は、2年前の1.5~2倍に高騰しています。それを追いかけるように、セメント・コンクリートの価格も徐々に上昇してきており、今後の建築費の増大とそれに伴う建築産業の不安定化が懸念されます。しかしながら、これが転じて好機となり、建築分野の生産効率の向上(労働者の賃金アップ)が図られ、多くの若い方々が建築分野を目指すようになって欲しいところです。(追伸:不思議な世界は一見魅力的ですが、知らないで振る舞うと痛い目に遭います。)

 
野口 貴文
副会長 野口貴文(東京大学教授)
 学会の副会長2期目となりました。前福田副会長の業務を引き継ぎ総務財務担当となります。昨日、学会の各賞の授与式に参加しました。やはり意匠系設計者としては、作品賞が気になってしまいます。今年は3作品がめでたく選定されました。該当作品なしの年もありましたので多くの作品が選定されたのは良いことだと思います。幸いにも3作品とも見学する機会がありいずれも高いレベルの作品だと思いました。応募46作品のうち9作品が選ばれ実際現地審査が行われ3作品が選定されたとのことです。選定理由は選評をご覧ください。一方、作品選集は応募総数533作品。その中から今年は1年中止になったこともあり、100作品から増やされ130作品が選定されました。作品選奨はその130作品の中から18作品が選ばれ現地審査を経て12作品が選定されています。以前審査を経験しましたが作品を理解し判断する作業は大変な作業です。そうした審査委員の皆さんのご努力の結果の選定で、いずれも質の高い作品ばかりでレベルの高さを感じるものでした。

2022年各賞受賞業績
https://www.aij.or.jp/2022/2022prize.html
 
田名網 雅人
副会長 田名網雅人(鹿島建設㈱常務執行役員建築設計本部副本部長)
 6月は、アメリカの卒業シーズンで、キャンパスのあちこちで大学生活を総括する学生さんに遭遇します。学業は厳しいですが、豊かなキャンパスには、それを和らげる効果や学校への帰属意識とも深く関係する効果があるようです。こうしたことをクライアントが知っているからかよく手入れされています。こうした、無形の価値に敏感であることが、日本との大きな違いかもしれません。
 もちろん課題が無いわけではありません。中でも建設費の高騰は深刻で、延期に追い込まれた事業も多いと聞きます。それでも全体では大量の資本が循環し、色々なことが起こっています。今週末、こちらの共同研究者との面談でサンホセに行ってきました。会員の皆様には今更という事柄かと思いますが、この都市に拠点を持つ情報系の世界的企業が、建物からキャンパスさらにランドスケープと大きくその空間を拡張しているのを見て、ネット上では見ていたとはいえ、ちょっとショックを受けました。
 加えて彼らが世界中から集めた富は、都市環境を作り替えるだけでなく、手厚い給料としてばら撒かれ、人のライフスタイルを大きく変えているようでした。何人かと会って話しましたが、こちらの中の上の階級の豊かさは想像を絶するもので、それがまた様々な形で空間化され環境の価値化につながってもいるようです。私自身は合衆国の礼賛者ではありませんし、むしろこうした資本の流動で失われるものに敏感でありたいとは思っていますが、過剰な同調圧力のもと、長期的にはバリューを生み出し得ることすら捨て去ってしまっているようにも見える最近の日本の状況を切なく思う気持ちは押さえられませんでした。
 日本建築学会が、そうした長期的な観点に立った意見交換の場として、皆さまに活用して頂けるように、後一年間、汗をかかないといけないなと、当地の卒業シーズンを見ながら、改めて考えを巡らせた次第です。

 
小野田 泰明
副会長 小野田泰明(東北大学教授)
 このたび全国枠の副会長として選出いただきました、東京大学の川口健一と申します。私の最初のメルマガは、自己紹介を兼ねたご挨拶とさせていただきます。専門は構造で、省資源型の軽量構造の研究で貢献したいと考えて進学しましたので、昨今の省資源低炭素化の流れの中でも、構造の立場からお役に立てることがあると考えております。1995年の阪神大震災の調査で、公共ホールや体育館などで多数の天井落下被害を見たことから、その危険性を指摘し報告しましたが(1)、33歳の研究者の主張に耳を傾けてくれる人は非常に少なかったです。建築の基本は利用者の命を守ることだと信じて、自動車安全工学から人体耐性指標の知見を取り入れて、天井被害軽減の研究を続けました。2011年の東日本大震災の折は、天井落下被害が多数発生したため、本会内に特別調査委員会を立ち上げ、本会独自の「天井等の非構造材の落下に対する安全対策指針」を取りまとめ出版しました(2)。
 若手奨励や学際研究などもやっています。私の所属しております「シェル・空間構造運営委員会」内で提案して2009年の大会時から始めた若手優秀発表賞は、現在は本会の若手活性制度として広く活用されるようになりました(3,4)。また、植物生理学者からの強いラブコールで始めた、生きた植物を建築構造に活かすという学際研究も展開し、昨年の大会で構造系初のオーガナイズドセッションを植物学者とともに開催しました(5,6)。
 この5月までは、田辺新一会長の下、学術担当理事を務めさせていただきました。これからは副会長の立場で、田辺会長を支えつつ、日本建築学会の活動を通してより豊かで幸福を実感できる社会の構築へ微力ながら貢献ができればと考えております。どうぞよろしくお願い致します。

(1) 阪神・淡路大震災調査報告―建築編〈3〉 | 阪神淡路大震災調査報告編集委員会 |本 |通販
https://www.aij.or.jp/books/categoryId/747/productId/590208/
(2) 天井等の非構造材の落下に対する安全対策指針・同解説 | 日本建築学会 |本 | 通販
https://www.aij.or.jp/books/all/productId/590088/
(3) http://news-sv.aij.or.jp/kouzou/s12/prese.html
(4) http://www.aij.or.jp/jpn/databox/2018/wakate2018.pdf
(5) http://jabs.aij.or.jp/backnumber/1738.php (巻頭座談)
(6) http://www.aij.or.jp/jpn/symposium/2021/21OS.pdf

 
川口 健一
副会長 川口健一(東京大学教授)
 はじめまして。この5月30日に副会長を拝命した山本茂義と申します。今後2年間、会長を支援させていただき、本学会の運営に微力ながら貢献できればと考えています。
 さて、メルマガの初回ということで、まずは私がここで述べて行く事柄の立ち位置を説明させていただこうかなと思います。私は大学卒業して41年間(我ながらびっくり!)ずっと同じ設計事務所に勤め、意匠設計一筋で設計を続けてきました。その体験から来る、設計業界を巡る新たな出来事や動きを雑感としてお伝えできればと思っています。
 最近の世の中の動きは激しく、頻度を増す自然災害、ウィズ・アフターコロナ問題、ウクライナを始めとする国際情勢等々、これまでどちらかというと安定基調にあった世の中が急に動き出し、(変なたとえですが)社会科の教科書に載るような出来事が立て続けに起こっているように感じるのは私だけでしょうか?まさに時代の変革期に遭遇している感じがします。その中で私が最近一番気になっているのは、働き方に関する認識の変化です。2020年来のコロナ禍で一気に加速しましたが、リモートワークが当たり前になり、それは取りも直さずオフィス環境への要求や住環境にも影響を与え、さらにそれぞれの場所の意義も変わってきているのを目の当たりにしています。こういったことにまつわる私見を交えながら、副会長としての職務をメルマガで報告させていただこうと思っています。よろしくお願いいたします。

 
山本 茂義
副会長 山本茂義(㈱久米設計上席担当役員設計本部プリンシパルCDO)


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