第11回 会長・副会長からの近況報告(メルマガ)(2022年4月1日配信)

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 大学の3月は卒業の季節です。私の研究室の学生も卒業論文や修士論文をまとめ、無事に卒業式を向かえました。まずは、全国の卒業生、修了生、学位を受けられた皆様に心からお祝い申し上げます。卒業式は行われましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で保護者は直接参列できませんでした。動画配信で生中継はされましたが、保護者にとっては晴れ姿を直接見ることが難しかったのは大変残念だったと思います。我々の大学では学部全体の卒業式の後に建築学科・専攻で卒業証書、修了証書などの個別授与式を行っています。2019年までは懇親会も行っていました。コロナ禍の中でも少しでも晴れがましい場を作りたいと思い、今年は大隈講堂を夕方に予約して授与式を行いました。各大学などでも同じような光景ではなかったかと想像しています。今年修士を修了した学生達は、在学中の学会大会での対面発表ができませんでした。関連する国際会議などにも出席ができませんでした。コロナ禍のために致し方ないとしても悔しい思いをしているでしょう。米国で予定されていた国際会議は延期され、最終的にはWEB開催となりました。それでも、深夜に学生達は頑張って発表し、質疑応答していました。楽しい面が少なく、「できなかった」が多かった学生生活でしたが、この間に経験したことを将来マイナスではなくプラスにして欲しいと希望しています。4月からは大学だけではなく会社にも新しいメンバーが入ってきます。建築学会では若者向け入会案内を毎年作成しています。会員委員会若手向け入会パンフレット検討WGが編集したものでなかなかの力作です。卒業生や新入社員にも是非知らせて頂ければと思います。私も「いつまでも建築を学ぶ」という題目で寄稿させて頂きました。

日本建築学会若者向けパンフレット https://www.aij.or.jp/jpn/nyukai/pdf/pamphlet/young.pdf

 
田辺 新一
会長 田辺新一(早稲田大学教授)
 2年間の副会長任期も残り2ヶ月となりました。担当副会長として主査を務めた「脱炭素都市・建築タスクフォース」の1年間の締め括りシンポジウム「カーボンニュートラル実現に建築分野はどう対応すべきか」(3月18日、建築会館ホール対面・オンライン併用開催)には、500名近いご参加をいただき、会員の皆様の関心の高さを実感しました。4月からは「脱炭素に対応する学会アクションプラン特別調査委員会(委員長:大岡龍三東京大学教授)」に引き継がれ、さらなる具体化が行われる予定です。また、第6回グローバル人材育成プログラム「世界で建築をつくるぞ!─グローバルな建築デザイン・マネジメント・エンジニアリング分野への入門」については、8月31日から9月1日の2日間、建築会館ホールにて、全国から意欲的な学生50名を募集して、対面での再開を目指して準備中です。今回は、小野田泰明副会長に仲介していただき、パリを拠点に活躍されている建築家、田根剛さん(Atelier Tsuyoshi Tane Architects)をはじめ、建築施工、構造・環境エンジニアリング、都市開発の計4名に講師をお願いすることができました(建築雑誌4月号参照)。
 また、建築博物館所蔵の貴重な資料の商業利用規則についても山崎鯛介先生はじめ関係各位のご尽力で理事会承認が得られ、大きく前進しました。SDGs対応推進特別調査委員会については前号で報告しました通りです。残り2ヶ月に限らず、引き続き本会を盛り上げるところで尽力して参ります。

 
伊香賀 俊治
副会長 伊香賀俊治(慶應義塾大学教授)
 脱炭素都市・建築タスクフォース拡大委員会「材料」の回で、鉄鋼の電炉比率が欧米に比して日本が低く、電炉化が進んでいないというご説明があった。これが胸に引っ掛かっていたので、いくつかのルートを使って調べてみた。
 鉄筋はかなりの割合が電炉材となっているものの、鉄骨についてはそうはなっていない。電炉材使用は小梁材では多いものの、主要部材では少ないことが気になっていた。拡大委員会「施工」の回でもご説明があったが、ある程度規模の大きなオフィスでは、鉄骨がCO2排出量に占める割合が大きいことがあり、電炉率を高めることが課題と捉えていたからである。
 主要部材で電炉率を高めるには品質の高い電炉鋼が必要だし、これが可能なのか?ということが論点になる。なぜ米国では進んでいて、わが国ではそうはならないのか?突き詰めていくと、どうも鉄鋼業界(特に電炉業界)の産業構造の差に起因するようである。米国と日本ではスクラップの品位に大きな差があり、日本のスクラップ加工処理を担う事業者に資本力がなく、大型シュレッダーを導入できないことも要因の一つのようである。これに加えて、米国では電炉とスクラップの垂直統合が進んでいるようで、この差が大きい。
 外部水素を活用する水素還元製鉄に移行できるのは、2040年頃のようなので、大型電炉への転換は急がれるが、投資額が半端ではない。日本製鉄が2030年までに大型電炉をつくるということなので、期待したい。従来電炉鋼は深夜電力を使ってコストを下げていたが、原子力が稼働していない現在ではここが成り立っていないと思っていたら、東京製鉄が先日値上げを発表した。ここでも電力をどうするかが絡んでくる、なかなか根が深い。

 
福田 卓司
副会長 福田卓司(㈱日本設計取締役副社長執行役員)
 4月から新しい生活を送られる会員の皆様も多いことと思います。コロナ禍も収まる気配を見せず、東欧での戦争による物価の上昇機運も加わって、困難が依然山積しているようですが、新しい生活が発見と挑戦に満ちた実りあるものでありますようお祈りもうしあげます。
 新しい生活を始めた人の中には、今年修士課程を卒業して新社会人になった人もいらっしゃると思います。2020年4月から修士を始められたとすると、自身の可能性に挑戦する修士課程の二年間を、まるまるコロナ禍の中で過ごされた方も多いのではないでしょうか。国内・域内・住宅内に縛り付けられた生活から、いきなり即戦力として頑張るのは大変かと。
 人それぞれですが、学生時代は、海外など、自分がコントロールできない環境に身を置いて、世界の豊饒さに目を開き、自己を相対化する絶好の機会でもあります。こうした人生の中で貴重な2年間を自制せざるを得なかった人たちが、自己を相対化し、世界に開くために葛藤と苦労を思うと、心が痛いです。
 学生時代、自由な移動の恩恵を受けた者として、「大変だったね。これから頑張ろう」といった言葉を発することは自戒したいと感じています。むしろ言われても何の役にも立たないそうした言葉ではなく、出入りのハードルを低くした新しい社会システムの構築を意識すべきでないかと。災害に対する靭性は、学び直しがいつでもでき、その成果を広く共有・活用できるような社会においてこそ、発揮されるでしょうから。
 会員の皆さま方には、新入生を預かる責任のある立場にある人も多いと思います。日本建築学会では、建築教育委員会はもちろん、新しい世代の可能性を伸ばすための議論の場を多く用意しております。こうした見えない危機を機会として、課題を共有し、広く考えるお知恵を頂ければ幸いです。

 
小野田 泰明
副会長 小野田泰明(東北大学教授)
 建築業界(不動産・設計・施工分野)において、Scope 1およびScope 2におけるCO2排出量の削減は、ZEBやZEHに代表される建築計画・設計の工夫による日射遮蔽・高断熱化や設備の高効率化による建築物の供用期間中の消費エネルギーの削減、および化石エネルギーから再生可能エネルギーへの転換を進めていくことによって、近い将来、達成される見込みが示されていると思います。一方、Scope 3の範囲に含まれる建築材料に関わるCO2排出量の削減に関しては、少し粗く分類し過ぎかもしれませんが、建築材料を木、鉄鋼、アルミニウム、コンクリート、石こう、塩化ビニル、ウレタンなどといった一般名称で分類し、それらのCO2排出量の大小を比較して使用する建築材料を決定している限り、Scope 3におけるCO2排出量の削減は進まないのではないでしょうか。さらに、分類をもう少し細かく、たとえば、コンクリートを、普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートと高炉セメントを用いたコンクリートとに分類したとしても、Scope 3におけるCO2排出削減策を講じるうえでは十分とは言えないのではないかと、昨今強く思うようになりました。現在、建築材料メーカーは、生き残りをかけて、CO2排出削減に努めようと技術開発を進めています。その動きを加速化させる(後押しする)ためにも、建築プロジェクトを企画・計画する場合や建築物を設計する場合には、建築材料個々のCO2排出量(CO2固定量)を材料メーカーに求め、材料メーカー自ら正確なインベントリを収集するような方向に誘導していただく必要があるのではないでしょうか。その依頼に応えていただける材料メーカーは、将来も期待できるものと思います。

 
野口 貴文
副会長 野口貴文(東京大学教授)
 3月18日に実施された脱炭素都市・建築タスクフォースのシンポジウム「カーボンニュートラル実現に建築分野はどう対応すべきか」は多くの参加者を得、非常に内容の濃いものになりました。そうした議論が行われている一方ではウクライナ問題が勃発しました。欧州委員会は3月8日、2030年までにEU域内のロシア産化石燃料への依存解消と、より安価で持続可能なエネルギーの安定供給に向けた政策文書を発表しました。欧州グリーン・ディールを掲げるEUは、再生可能エネルギーの域内生産を積極的に推進する一方で、域外からの化石燃料の輸入にいまだに依存しています。特にロシアからの輸入は、その割合が非常に高くこうした中で、最大の輸入元ロシアによるウクライナへの侵攻と、EUのロシアに対する大規模制裁により、エネルギー危機は深刻化しています。EUの脱炭素の方向は変更せざる負えなくなるのではないでしょうか。一方、ウクライナの上空を飛び交う戦闘機や大地を揺らしながら走る戦車は、湯水のように燃料を大量に燃やしています。さらに、兵員輸送車や支援トラック、燃え上がるインフラ施設など、すべてが大気中に大量の炭素を吐き出しています。ロシアによるウクライナ侵攻では軍による民間人への攻撃が増えており、明らかに人道上の危機が発生しています。一方で、隠れた危機も広がっています。戦争に用いられるマシンが排出する炭素は、人類の歴史において極めて重要なこの時期に、地球温暖化を助長しています。脱炭素の取り組みに費やされない日々が、気候変動の複合的な苦境を増大させているのです。

 
田名網 雅人
副会長 田名網雅人(鹿島建設㈱常務執行役員建築設計本部副本部長)


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