第10回 会長・副会長からの近況報告(メルマガ)(2022年3月4日配信)

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 ウクライナにおける戦争が激化している。報道を見ていても大変痛ましい。一刻も早く平和的に解決をして欲しいと希望している。ユヴァル・ノア・ハラリが人類史で繰り返されて来た飢餓、疫病、戦争を現代社会は克服してきたと述べていることが空しく聞こえてしまう。新型コロナウイルス感染症に加えて理不尽な戦争までが繰り返されることは非常に悲しいことである。権威主義には多くの問題点があるが、主要国で進められてきた新自由主義も社会の二極化を進めたといわれ転換期を迎えている。今一度、SDGsの理念を認識ししっかりとした行動をして行く必要があるだろう。我が国からは遠い東欧の出来事のように感じられるが、ロシアは石油、天然ガスの輸出国でもあることから我が国に対する影響も避けられない。エネルギーに関しては化石燃料の高騰が発生する可能性は高い。エネルギー消費の約三分の一を消費する住宅・建築分野の徹底的な省エネルギーと再生可能エネルギーの利用が望まれる。そうすることで、化石燃料による影響を極力少なくすることが可能になる。カーボンニュートラルに向けた省エネ法などの改正案が3月1日に閣議決定された。ところで、2022年3月14~22日に建築会館ギャラリーで「内田祥哉追悼展」が開催される。内田祥哉追悼展実行委員会、日本建築学会建築博物館委員会の主催である。それに合わせて、内田祥哉先生の追悼展シンポジウム 「内田祥哉の『造ったり考えたり』-未来に繋ぐその教え-」が、3 月 19 日(土)13:00~16:30にZOOM ウェビナーで開催される予定である。定員は500名で残席がかなり少なくなっているが、建築学会の催し物サイトから申し込ができる。

経済産業省「安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました(2022年3月1日)
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220301002/20220301002.html

内田祥哉追悼展シンポジウム「内田祥哉の『造ったり考えたり』-未来に繋ぐその教え-」
https://www.aij.or.jp/jpn/symposium/2022/20220319.pdf

 
田辺 新一
会長 田辺新一(早稲田大学教授)
 SDGs対応推進特別調査委員会では、WG-A [科学技術での貢献(清家剛主査)]、WG-B [健全な環境づくり(秋元孝之主査)]、WG-C [良好な社会ストックの維持活用(窪田亜矢主査)]、WG-D [気候危機・地震等災害対応と脱炭素社会(磯部孝行主査)]、WG-E [生態系の保全と適正利用(上村真仁主査)]、WG-F [衣食住の保障と平和で平等な社会づくり(寺田宏主査)]、WG-G [建築とまちづくり教育(平田京子主査)] で具体策の検討を進めています。その総まとめを6月6日(月)13時から公開委員会(zoom形式)で行います。さらに、9月6日(火)午前中には、大会(北海道)研究協議会(Zoom形式)で討論しますので、奮ってご参加をお願いします。
 また、「脱炭素都市・建築タスクフォース(主査:伊香賀)」では、前回もご案内した通り、2022年3月18日(金) 13:30~17:30、建築会館ホールにて対面・オンライン併用でシンポジウム「カーボンニュートラル実現に建築分野はどう対応すべきか」を開催しますので是非、ご参加いただき、皆様の取組みに反映していただければ幸いです。
 本会催し物・公募一覧参照 https://www.aij.or.jp/event/list.html?categoryId=84

 
伊香賀 俊治
副会長 伊香賀俊治(慶應義塾大学教授)
 ロシアがウクライナ侵略に踏み切った。戦争を起こしたことに対する非難は世界中で沸き起こっており、ここで多くを語るのは控える。戦争によって多くの人命が失われていることについては本当に痛ましいことだが、加えて環境破壊もとてつもなく凄まじいものだ。これについても脱炭素を先導してきたEUは空しさを感じているのではないか。27日のIPCCのオンライン会合で、ロシア代表がロシア軍のウクライナ侵攻を巡って謝罪したという記事を目にした。映像が映し出される度に、つくづく戦争ほど大きな環境破壊はないということを実感する。
 先月のメルマガでも少し触れたが、ウクライナの土壌は、北部を除いて肥沃なチェルノーゼムで構成されている。ほとんど奇跡のような土壌であり、これを戦争によって汚染し続けていることは誠に腹立たしい限りである。さて、この土壌の下部にはCaCO3が多く蓄積されている。乾燥した気候のため、水の蒸発や植物の根のストローによる水の吸い上げによって、土中にあるCaを多く含んだ水が土壌を上昇し、植物の根や微生物の出すCO2が溶け込んだ炭酸と結合するためだ。先日の拡大委員会で野口先生がCCCの話をされた時、この自然界の土中で起きているメカニズムを思い起こした。先生はCO2の循環というコンセプトで話をされていたが、そういう訳で、とてもエコロジカルな印象を受けた。
 ところで、チェルノーゼムのような乾燥地ではこのメカニズムが働いているのだが、日本のような高温多湿な気候ではこうはいかない。山に降った雨によって、土中のCa、Na等は川に流れていき、海に注ぎ込む。従ってこういった気候のもとでは、養分の溶け込んだ川の水を灌漑で田んぼへと導き稲作をするというのは、実に理に適っている。一方、鉱物資源の少ない日本だが、石灰岩(CaCO3)だけは豊富であることは不思議なめぐりあわせであると思う。もちろんこの資源を食いつぶして良いはずはない。

 
福田 卓司
副会長 福田卓司(㈱日本設計取締役副社長執行役員)
 公的な通信ですので、内容には注意を払っておりましたが、東欧から衝撃的なニュースが入ってきたので、個人的な話から入ることをお許しください。
 大学4年になったものの建築に挫折しかかっていた私は、休学して、ニューヨークでの修業生活に入っておりました。貧乏なために手荒な扱いも受けましたが、何も無いアジアの若者に手を差し伸べてくれた人々に助けられ、内装事務所のインターンシップにたどりつくことに。
 事務所では、北南米、アジア、東欧など様々な人たちに揉まれ、空間を設計する喜びと世界の多様さに目が開かれる日々でした。住んでいた若者宿で、プエルトリカンの寮長と毎週末ディスコ(笑)に繰り出したのも懐かしい思い出です。インターンを得る前から、パブリックライブラリーに良く通っていたのですが、司書のおばさんが気にかけてくれ、読むべき本を色々と紹介してくれました。厳しい生活の中にありながら、質の高い知に繋がれていたことでドロップアウトから救われた経験は、「公共」施設を考える私の原点です。
 ベルリンの壁崩壊の4年前、ゴルパチョフが書記長になってソ連でペレストロイカが始まり、自由主義に引き付けられて世界から合衆国に若者が集まっていた時代でした。合衆国を称揚する趣旨はありませんが、様々な所に出自を持つ人々がそれを許容するリベラルな空気感のもとで自由に集えるのは、尊いことだと思います。また、「建築を学んでいる」と自己紹介するだけで障壁が消え去る経験を方々でしました。人間生活の根本に関わり、社会や文化を表象するこの領域には不思議な力があるようです。これらを経て、建築にもう一度向き合えた人間としては、自由をリスペクトする世界を取り戻すため、出来ることをする責任を負っている気もします。
 建築文化を深めつつ世界と繋がること。もちろん、今戦闘のさなかにある国々も包摂して。さらに、私がその施しを受けたように、建築の力を若い世代と共有すること。ロシアへの天然ガス依存を下げるために高まる脱炭素で加速する建築の変化を先取りすること、などなど。プラットフォームとしての日本建築学会の役割を改めて感じる今日この頃です。

 
小野田 泰明
副会長 小野田泰明(東北大学教授)
 "Performance-based Design"は「性能設計」と訳されており、建築物に要求される性能(耐震性能、耐火性能、耐久性能、温熱環境性能など)を満足するように、構造形式、部材寸法、材料の種類・品質などの仕様を決定していく設計方法であり、1990年代頃から研究が進められ、2000年前後に体系化がなされて今日に至っている、と理解しています。一方、それまでの「仕様設計」(Specification-based Design)は、経験に基づくルールに則って建築物を設計する方法であり、簡便な設計方法ではあるものの、自由度が少なく、新たに開発された技術への対応が難しいことが問題であった、と理解しています。ただし、無駄を極力省くことができる性能設計を突き詰めていくと、理論・技術が完璧でない限り、余裕度・冗長性が不足することが懸念されますが、仕様設計では、かなりの余裕度・安全率を有する体系になっているため、常に無駄を生じさせている可能性があることは否定できません。どちらの設計方法も一長一短がありそうです。私は、建築材料学を専門としているので、素材の特性・魅力を最大限活用した建築物の設計、すなわち、"Material-based Design"(材料設計)なるものが、最近の兆候として現れてきているのではないかと思っています。新たに開発される素材・材料もそうですが、身近にあるこれまで建築物には利用されてこなかった素材・材料、または仕様設計で使い方が限定されてきていた素材・材料の本来の魅力を活かそうとする建築物が世界各地で出現してきており、仕様設計・性能設計によって画一化された都市像・街並みに、地域文化の香りや建築家の個性と相まって、素材・材料がアクセントを与えてくれています。学術・技術に加えて芸術の進歩発達を図ることを目的とする日本建築学会の一員として、そのような設計も応援していきたいと思っています。

 
野口 貴文
副会長 野口貴文(東京大学教授)
 第6回のタスクフォース拡大委員会で野口副会長からの説明の中にあった人工炭酸カルシウム骨材の話は、以前メルマガに書いた道路の敷けるソーラーパネルの話に近いと思った。人工炭酸カルウム骨材は、発電所やセメント工場など大量のCO2発生が見込まれる場所でえられたCO2を、廃コンクリートと合成し炭酸カルシウム骨材を生成する技術であり、いわゆるカーボンリサイクル骨材である。これは軽量、つまり、多孔質で、CO2由来の骨材はCCU(carbon capturing & utilization)の一つである。
 日本では特に建築の分野では軽量骨材コンクリートの普及は限定的だ。コンクリート構造物が高層化していく際に構造物の重量を軽量化するニーズがあったために多用されていた。価格が高いこともあり普及には至っていない。しかしながらCO2由来の多孔質・軽量骨材Blueplanetの用途は非常に大きいように思う。
 適用される領域は、コンクリート舗装領域だそうだ。この技術をベースにプロダクトミックスを重ねれば市場は巨大である。ポーラスコンクリートの主要骨材をCCU軽量骨材にしたらそのマーケットは飛躍的に増大する。
 我が国のポーラスコンクリート舗装はドライテック(商品名)に代表されるように急速に普及を広げている。ドライテックは生コン製造者が標準的に備えている骨材最大寸法20mmの粗骨材を原料としている。その粗骨材をBlueplanet(CCU計量骨材)にしたらよい。
 ポーラスコンクリートは水を通す空隙がコンクリート内部にあり保水性のもあり、また浸透性舗装ともなる。大気中のCO2の固定化・軽減に貢献し、地球にも優しい舗装材となる。
 その面積たるや広大である。効果の大きいところから重点的に攻めたらどうだろうと考えさせられた。

 
田名網 雅人
副会長 田名網雅人(鹿島建設㈱常務執行役員建築設計本部副本部長)


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