第9回 会長・副会長からの近況報告(メルマガ)(2022年2月2日配信)

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 1月11日(月)に建設系7学会会長懇談会がオンラインで開催されました。7学会とは、空気調和・衛生工学会、地盤工学会、土木学会、日本造園学会、日本都市計画学会、日本コンクリート学会、そして本会です。各学会の現状や取り組んでいる課題に関して報告が行われ、議論が行われました。多くの学会は会員の漸減に悩んでいました。特に30~40歳の正会員が減少しているという学会が多いようです。就職した後に多くの大学院生が会員を継続して頂けないという悩みは本会も同様です。それぞれの学会では、新型コロナ感染症対策、カーボンニュートラル、レジリエンス、スマートシティー、デジタル技術活用などの新しい話題を積極的に取り上げて、会員への魅力的な情報提供に務めていることが良くわかりました。本会でも歴代の会長副会長が魅力的なコンテンツを提供するために継続的に努力されてきています。大会や支部発表会に加えて作品選集、デザイン発表会、設計競技、論文集などがあります。年間4,000名程度の方々が入会されていますが、これらの活動に参加することが入会動機の大部分であるとアンケートから分かっています。今後10年で団塊世代の次の世代も急速にリタイヤされていきますが、退職後も学会に残って頂けるような方策や大学院生が就職してからも会員を継続して頂けるような努力をする必要があると強く感じました。話は変わりますが、話題提供の中で2022 年度から高校の地理歴史科で新しい必履修科目「地理総合」が設置されることを教えて頂きました。この科目では、地図・GIS の活用、国際理解と国際協力、自然環境と防災、生活圏の課題と持続可能な社会づくりに関する内容などが盛り込まれています。文部科学省の指導要領を見てみると本会にも関係する項目が多いことも分かりました。

文部科学省・高等学校学習指導要領解説高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説・地理歴史編
https://www.mext.go.jp/content/20211102-mxt_kyoiku02-100002620_03.pdf

日本学術会議 提言「地理総合」で変わる新しい地理教育の充実に向けて―持続可能な社会づくりに貢献する地理的資質能力の育成―
https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t295-1.pdf


 
田辺 新一
会長 田辺新一(早稲田大学教授)
 脱炭素都市・建築タスクフォース(主査:伊香賀)では、本会の組織的な学術研究推進と会員各位の取り組み推進、本会自身の活動(建築会館、出張、DX推進、建築雑誌等)の脱炭素化推進のアクションプランを検討しています。その成果報告を2022年3月18日(金) 13:30~17:30、建築会館ホールにて対面・オンライン併用でシンポジウム「カーボンニュートラル実現に建築分野はどう対応すべきか」と題して行います。是非、ご参加いただき、皆様の取組みに反映していただければ幸いです。

本会催し物・公募一覧参照 https://www.aij.or.jp/jpn/symposium/2022/20220318tf.pdf

 
伊香賀 俊治
副会長 伊香賀俊治(慶應義塾大学教授)
 ウクライナ危機が世界を席巻している。主題はロシア対NATO(というより米国)の軍事対立だが、一方ではエネルギー危機も引き起こしている。ロシアは天然ガス・石油の資源大国で、EU(特にドイツ)はパイプライン経由での依存度が高い。これが今回の危機で、脱「ロシア依存」を海路での調達にシフトしよう、という動きがある。船による輸送は、パイプラインによるものより効率は悪い上に量としても限界があり、結果CO2排出も増えるということになるだろう。かつての日本のオイルショックを思い出してしまった。再生エネルギーへの転換が進むとすると、資源大国ロシアのプレゼンスは下がる。しかし移行期において天然ガスの重要性は高い。ロシアはそこを見透かしていて、ウクライナ侵攻のタイミングを見計らっていたのではないか、というのは考え過ぎか?
 もう一つ、ウクライナは世界3大穀倉地帯の一つであり、チェルノーゼムという肥沃な土壌を持つ地帯を抱えている。ロシアは意外にも穀物輸出大国でもあり、仮にウクライナを併合するような事態になれば、穀物輸出量においてアメリカを上回ることになる。エネルギーと並んで食料は人間の生活の根幹を成している。ウクライナ危機は、軍事対立の面にフォーカスされがちだが、裏に多くの要素が絡んでいるように思える。

 
福田 卓司
副会長 福田卓司(㈱日本設計取締役副社長執行役員)
 年が明けたと思ったらもう2月、次は3月です。我々東北に住む人間にとっては忘れられない月がまた来ます。3月11日のことは、今でも鮮明に思い出されますが、でももう11年です。被災地の我々も、関わった専門家も、そして日本建築学会も、出来ることはしたと思いますが、力不足の部分も多く、実態を「知」として定着できていない焦りも感じます。
 この出来事に象徴されるように2010年代に入った日本は、大災害、Covit-19、人口減、国際競争力の低下と、危機の連続でした。続きすぎて、振り替える暇も無いというのが正直なところかもしれません。困難を乗り越えた先に未来が待っていた昭和では、「根性」や「絆」といった精神論でどんどん先に進むのが常態でしたが、こうしたゲームスタイルはすでに過去のものになってしまっています。限定された領域内における人々の自助努力を基礎とする社会から、リスクの科学によって困難に対する靭性を備え、日常的に世界のネットワークに接続する社会への変革が求められているようです。
 こうしたことに資するべく、日本建築学会でも、情報化の力で取引コストを減らす「学会活動のDX進展タスクフォース(野口副会長担当)」や海外のジャーナルとのすみわけの戦略を構築する「学術・芸術・技術分野の進展タスクフォース(小野田担当:汗)」が構築され、すでに盛んな議論が始まっています。冒頭の2011年に対する共有知についても、研究の厚みが構築され、本会会員の方々も読み応えのある著作をまとめられています。これらを再度読み直し、意見を交換することで、「共有知」が深まるといいなと考えています。

 
小野田 泰明
副会長 小野田泰明(東北大学教授)
 私が建築材料学(特に、コンクリート工学)の道に進むことを決意したのは40年近く前のことですが、それは、当時の恩師・故岸谷孝一先生(日本建築学会42代会長)の一言「これからの時代は耐久性だ」がきっかけでした。当時、確かに「コンクリートクライシス」が社会問題になり、半永久的と考えられていたコンクリート構造物の早期劣化がTVドキュメンタリーや小説によって取り上げられ、その混乱は20世紀終焉まで続きました(もしかしたら、今もってなお続いているかもしれません)。1999年には岩波新書「コンクリートが危ない」(故小林一輔・東京大学名誉教授著)が発刊されたり、新幹線トンネルや新幹線高架橋からのコンクリート片の剥落を報ずる新聞でコンクリートは「コンクリ」という蔑称で扱われたりました。そして、2009年の「コンクリートから人へ」という旧民主党のマニフェストにおいては、コンクリートは公共投資の代名詞としても扱われました。加えて、低炭素社会の構築を目指すために木材の利用拡大や木造建築への転換が、政府のみならず日本建築学会においても推奨され、主要原料であるセメントの生産時に大量のCO2を排出するコンクリートは、現在、建築界にとっては必要悪的な存在に貶められていると言っても過言ではないかもしれません。そのような中、本年1月28日、NEDO「グリーンイノベーション基金事業/CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト」(事業総額670億円)の採択課題が公表されました(https://www.nedo.go.jp/content/100941899.pdf)。今後10年間かけて、コンクリートの地位挽回が図られます。先月のメルマガでお伝えしましたように「ホワイトカーボン」の創成です。「コンクリートから木へ」をテーマに最終講義を行われた建築家・隈研吾先生(東京大学・特別教授)と対談を行った模様が、私が代表理事を務めるRRCS(生コン・残コンソリューション技術研究会)のWebサイト(https://rrcs-association.or.jp/dialogs/15.html)から視聴できます。果たして、コンクリートの将来はどうなると考えられているのでしょう?訪問してみていただけると幸いです

 
野口 貴文
副会長 野口貴文(東京大学教授)
 大都市の開発が生んだ「東京一極集中」の利便性は、人々を魅了し、地方の人口を吸い寄せてきた。そこにいま、新型コロナをきっかけに新たな価値観や地方移住の動きが見え始めた。感染対策の一環でテレワークや在宅勤務の普及が進み、東京から近隣県に人が出て行く流れが強まったとみられる。東京から出ていった人の多くが近隣県に移った。テレワークの実施率は2割程度で推移する。場所にとらわれない働き方の浸透で、隣接3県に加えて北関東への都内からの転出者も増えている。
 こうした背景には、2018年に成立した「働き方改革関連法」で、時間外労働に上限規制が設けられた。日本では、公務員の週休2日制が導入されたのは1992年(平成4年)バブルが崩壊した翌年のことだ。70年代の2度のオイルショックから立ち直った80年代のバブル景気でも、会社員は「企業戦士」と呼ばれ、家庭をかえりみずに会社のために働くのがエリートサラリーマンだった。企業戦士にとって残業は当りまえとはいえ「働きすぎ」は当時から社会問題だった。この残業問題がクローズアップされた背景には、長引く不況の中で「残業はさせるが残業代は支払わない」というサービス残業が横行したことにある。一部の労働者にしわ寄せされた過重労働による過労死や自殺、うつ病の発症などが多発したことも社会問題になった。また、政府が「働き方改革」で残業削減に力を入れているのは、アベノミクスの「経済再生プラン」の柱である「生産性の向上・国際競争力の強化」を実現するためには「残業に頼る働き方を改革しなければいけない」という認識のためである。こうした背景のなか新型コロナがこれを加速したわけである。

 
田名網 雅人
副会長 田名網雅人(鹿島建設㈱常務執行役員建築設計本部副本部長)


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