第8回 会長・副会長からの近況報告(メルマガ)(2022年1月6日配信)

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 明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。会員の皆様にとりまして、明るく豊かな年になることを心より祈念申し上げます。年頭挨拶は新しくなった建築雑誌1月号に掲載させて頂くとともに、学会ホームページにも掲載させて頂きました。2022年も皆様からのご意見も頂きながら、しっかりと頑張って行きたいと思います。
 例年、新年には日本建築学会、日本建築家協会、東京建築士会が建築会館ホールに集まって交礼会を行っていました。昨年は、新型コロナウイルス感染症のため残念ながら中止になってしました。今年はオンライン開催ですが1月6日(木)16:00~17:00に行う予定です。叙勲者・褒章受章者・功労者祝賀会も兼ねております。YouTubeで配信致しますので、お時間の許す方はご参加頂ければ幸いです。https://www.aij.or.jp/event/detail.html?productId=653537
 住宅・建築分野はカーボンニュートラルで大きく対策が進んでいます。建築物省エネ法の改正、省エネ法の改正などが議論されています。建築物省エネ法に関しては、「脱炭素社会の実現に向けた、建築物の省エネ性能の一層の向上、CO2貯蔵に寄与する建築物における木材の利用促進及び既存建築ストックの長寿命化の総合的推進に向けて」に関するパブリックコメントが2021年12月9日~2022年1月7日に行われています。また、省エネ法改正が経済産業省の省エネルギー小委員会で2021年12月24日に議論されました。主な見直し事項として、エネルギー使用の合理化の対象を化石燃料だけではなく、再生可能エネルギーを含む全てのエネルギーに拡大することなどがあげられています。東京都では2030年に向けたカーボンハーフ実現が検討されています。ロサンゼルスなどでは自動車の割合が高いのですが、公共交通が極度に発展した東京都は二酸化炭素排出量の43.3%が業務部門、29.3%が家庭部門と建物関係が約7割もあります。カーボンニュートラルは自動車のことではないかといわれる方がおられますが、我々建築分野のことであると認識した方が良いです。そのなかでどのような魅力的な住宅・建築・都市を提案できるかが大切だと思います。

国土交通省社会資本整備審議会建築環境部会
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/s203_kenntikukannkyou.html
パブリックコメント
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=155210738&Mode=0

第36回総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会省エネルギー小委員会(2021年12月24日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/036.html

東京都環境審議会企画政策部会及び
カーボンハーフ実現に向けた条例改正のあり方検討会
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/basic/conference/council/kikaku.html


 
田辺 新一
会長 田辺新一(早稲田大学教授)
 SDGs対応推進特別調査委員会(第10回)を12月13日に開催しました。「日本建築学会SDGs宣言」に盛り込まれた7つの方針を実行に移すための検討を行うWG-A [科学技術での貢献(清家剛主査)]、WG-B [健全な環境づくり(秋元孝之主査)]、WG-C [良好な社会ストックの維持活用(窪田亜矢主査)]、WG-D [気候危機・地震等災害対応と脱炭素社会(磯部孝行主査)]、WG-E [生態系の保全と適正利用(上村真仁主査)]、WG-F [衣食住の保障と平和で平等な社会づくり(寺田宏主査)]、WG-G [建築とまちづくり教育(平田京子主査)] からの報告の後、活発な意見交換を行いました。今年5月頃にシンポジウムを開催し、2022年度からは「建築SDGs宣言推進特別調査委員会」として、本会としてのSDGs達成に向けた取り組みを加速して参ります。

 
伊香賀 俊治
副会長 伊香賀俊治(慶應義塾大学教授)
 脱炭素タスクフォース拡大委員会が、12/7に環境金融、12/20に住宅をテーマに開かれた。
 環境金融の回ではEUにおける格付けとESG投資の関係、そして日本の動向についてお話頂いた。EUでは2050年に向けての「移行」を定量化する取り組みがなされ、段階的にブラウンディスカウント・グリーンプレミアムのスクリーニングが進んでいく。一方日本では、「移行」を重視するというものの、具体的なプロセスをどうするかについて話が進まない。話が進まないから顕在化してこないのだが、脱炭素に向けた不動産への投資は、大都市の新築等は良いとしても、地方の案件や築古・小規模のものは環境投資と賃料収入のバランスが合わず、取り残されていくことが懸念される。EUでは国がこれを支援していく姿勢がみられるようだが、日本は膨大な借金を抱え、立ちすくんでいるのではないか。
 住宅の回では各企業の脱炭素に向けた取り組みが紹介され、ZEBに比してZEHが何歩も先に進んでいることに、各企業の施主への啓蒙活動も含め感銘を受けた。しかし、周りとの離隔距離がある程度取れる比較的恵まれた敷地での計画が中心であって、これ以外の取り残されるものについてやはり関心が向かった。プレゼンテーターも仰っていたが、膨大な既存ストックをどう環境改修していくか、課題は山積みである。
 先進的な取り組みがどんどん広まっていくことはもちろん必要不可欠なのだが、そこから外れているものをどうボトムアップしていくか、そろそろ着手しないといけないのではないか、と考えさせられた2つの回であった。

 
福田 卓司
副会長 福田卓司(㈱日本設計取締役副社長執行役員)
 先般、若い建築家の事務所に遊びに行きました。過疎の進む半島の小都市で、痛んでいた大きな伝統家屋を借りた彼らの事務所から生み出される仕事の多くは、まだ小さなものでしたが、設計を依頼した地域の人の矜持がそこに透けて見える、感慨深い体験でした。
 現代のリスクマネジメントは、リスクを事前にチェックすることを執拗に求めます。しかしながら、すべてのリスクを潰すことが困難なこと、バリューとリスクが背中合わせなことから分離が難しいこと、リスクチェックには膨大な取引コストが掛かることなどから、結果として、ポリティカルコレクトネスなボキャブラリーをなぞったことば遊びやだれもが知るビックネームや大会社への委託に帰着しかねません。これらは、短期的には批判を回避出来る判断ですが、地域固有の資源を活用するための手のかかる精査を遠ざけ、若い人材を育てる未来への投資にも冷淡なため、長期の合理性を得難いジレンマを有しています。
 人口減と少子高齢化でその維持が難しい状況にはありますが、幸いにも現在の日本には、豊かな木材資源を活用して作り上げられてきた良質な住ストックがまだ残されています。断熱性能が低いためにZEH的観点からはデッドストックとなりかねないこれらですが、地域文化や景観の起点、さらには交流人口の誘因になり得る可能性は大きいはずです。若い建築人とそれを支える地域の人たちが、自然体でありながらこうした問題に真摯に対峙している冒頭の話に心を動かされたのには、そうした背景があったからです。
 これらを個別のエピソードとして片づけるのではなく、様々なリソースと再接続して、建築の可能性を開拓する共有知に高めていく。日本建築学会に期待されるのはそうした役割かもしれません。会員の皆さま方にとっても、2022年が、未来と過去とを勇気をもって架橋できる希望ある年になることを願って。

 
小野田 泰明
副会長 小野田泰明(東北大学教授)
 2022年が始まりました。私は、今年を「ホワイトカーボン」元年にしたいと思っています。「グリーンカーボン」は、大気中の二酸化炭素から取り込まれて陸上の生物中(森林)に固定されている炭素のことであり、「ブルーカーボン」は、大気中から海洋に吸収された二酸化炭素が海洋の生物中(マングローブ、塩生植物、海草、藻など)に取り込まれて固定されている炭素のことです。森林および海洋は、毎年、地球温暖化物質であるCO2をそれぞれ4,510億トンおよび2,933億トン吸収しているとされており、カーボンニュートラルを実現するためには欠かせない存在となっています。ただし、土壌等および海洋からは、毎年、それぞれ4403.6億トンおよび2874.7億トンのCO2が排出されているため、収支としては、グリーンカーボンとして106.4億トン、ブルーカーボンとして58.3億トンのCO2が固定化されていることになります。「ホワイトカーボン」とは、私が勝手にそう読んでいるのですが、セメント系材料(主なものはコンクリート)中のカルシウムが大気中の二酸化炭素との反応によって固定化している炭素のことを指します。このホワイトカーボンによる年間のCO2吸収・固定量は、試算したところ、約10億トン(グリーンカーボンの約1/10、ブルーカーボンの約1/5)になり得ます。だからと言って、コンクリートの生産量を増やしてもよい、ということでは決してありません。既に地上に存在するセメント系材料をCO2吸収源とみなし、かつ、次世代のコンクリート用原料として再利用していくことで約10億トンのCO2固定化が実現できるのです。「グレーカーボン(?)」と言われないようにするための弛まない努力が必要なのです。

 
野口 貴文
副会長 野口貴文(東京大学教授)
 大阪のビル火災はペンシルビル。1980~90年代のバブル期に大都市で流行したビルで、狭い土地に建てられた10階前後の建築物を指す。1階にロビーなどはなく、容積率いっぱいに、建てられ避難口ほぼ1カ所しかない。今回の火災では、4階の出入り口はエレベーターと隣接する非常階段しかなかったが、出火場所はエレベーターから出てすぐ前にあるクリニックの出入り口で、完全に逃げ場がふさがれていたようだ。犠牲者の多くは炎から逃れるため、非常階段から離れた場所に倒れていたとのこと。こうした小規模なビルにはスプリンクラーの法的に設置義務はない。ある意味緩和されてきた状況がある。またこのビルでは定期検査でも、防火上の不備は指摘されていなかった。
 今回のような火災の事例として「歌舞伎町ビル火災」「京都アニメーション放火殺人事件」などが思い出される。共通点は瞬時に炎が広がり、逃げられず多数の死者が出ている。
 歌舞伎町ビル火災は2001年9月、東京・新宿の雑居ビルで44人が死亡した事件も今回の火災と同様のビルだった。今回の件で総務省が類似のビルの点検に入っているが、人命の確保のためには法的基準の再考が必要で、既存ビルについても何らかの法的処置が必要かもしれない。

 
田名網 雅人
副会長 田名網雅人(鹿島建設㈱常務執行役員建築設計本部副本部長)


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