第7回 会長・副会長からの近況報告(メルマガ)(2021年12月3日配信)
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日本建築学会と土木学会は、1994年に最初の正副会長会議を開催しています。その後、ほぼ1年に一度、正副会長会議を開催してきました。阪神・淡路大震災調査報告書、東日本大震災合同調査報告、会誌の共同企画など大きな成果が残されています。昨年10月に開催された正副会長会議では、コロナ禍における都市インフラや建築の在り方、あるいは激甚化する豪雨災害について、相互の協力が必要という認識を確認しています。しかしながら、両会の間には、公式な覚書(MOU:Memorandum ofUnderstanding)がない状態でした。海外の学協会などでは、まずはMOUを取り交わして協働を進めていくのが通例です。そのような背景から、11月11日に学会間の活動協力に関するMOUを結びました。業界紙や雑誌で紹介されましたのでご存じの方もおられると思います。MOUでは、これまで行われてきた、両学会の交流の重要性を認識し、継続して正副会長会議を毎年開催することを確認しています。また、連携して取り組むべき課題を正副会長会議で定め、共同タスクフォースを設置し、両学会の会員に共同タスクフォースへの参加を奨励することとしています。今回、連携して取り組むべき課題に関し正副会長会議で議論が行われました。カーボンニュートラルにおけるコンクリート、複合災害、激甚化する水害、公物管理、DXなどの項目があげられました。準備会を野口貴文副会長と上田多門次期土木学会会長が担当されます。両会で具体的な活動が開始されることを期待しています。日本学術会議には、土木工学・建築学委員会が組織されています。その場では長く連携活動が行われています。和田元会長が尽力された防災学術連携体は、建築、土木の枠組みをさらに越えて、50を越える学協会の連携体に発展しています。

今大会から学術講演会および建築デザイン発表会の梗概提出時に、各自の発表が貢献しうる SDGs の関連ゴールにチェックしていただくようになりました(複数選択可)。その結果を11月15日の理事会で報告したところです。学術講演会の梗概数は6,029報で、SDGs総紐づけ件数は10,520件であり、梗概1報あたりの平均ゴール紐づけ件数は1.7件でした。ゴール11(都市)、9(イノベーション)、12(生産・消費)を中心に複数ゴールに関連する多様な研究内容が実施されていることがわかりました。建築デザイン発表会の梗概数は204報で、総紐づけ件数は525件であり、梗概1報あたりの平均ゴール紐づけ件数は2.6件でした。学術講演梗概と比較してゴール3(保健)、ゴール15(陸上資源)の件数が多く、健康建築や木材の有効活用がより重視されている傾向が見られました。また、学術講演会の12発表部門毎に関連するSDGsゴールには大きな差異も見られました。本会のSDGs宣言に基づく活動の検証・見直しに使えるKPI(重要業績評価指標)になり得ることがわかりました。来年度以降も継続できるようにしてゆければと思います。
(詳細は、本会ホームページ参照 https://www.aij.or.jp/jpn/databox/2021/211202SDGs.pdf)

先日出張で近くに行く機会があり、「坂出人工土地」に寄りました。第1期竣工が1968年ということですから、かれこれ半世紀が経っています。私のような年代の人間にとっては、頭に強い刷り込みがあって、どこかで機会があったら寄ってみたいと思っていたプロジェクトです。いわゆるメタボリズムの時代のものですし、再開発事業の先駆けといって良いようなプロジェクトです。「人工土地」という名前には強いインパクトがありますが、それにふさわしいものとなっています。住宅のグランドレベルの人工土地には、棟間のスケールや生活感と相俟って、程よい界隈性が生まれています。また市民ホールの上部には、人工土地に連続した傾斜屋根に沿って階段状の住居が計画されていて(大胆です)、非常にユニークな景観がつくられています。さすがに老朽化が進んでいますし、人工土地の上に立つ住宅にも空き家が目につきます。坂出市自体は人口減少が進んでいますが、DOCOMOMO JAPANにも選定されていますし、何とか使われて残って行って欲しいと思いました。近くに行かれる機会がありましたら、必見です。
【論文】 (kochi-tech.ac.jp)

Covid-19の猛威の中で開けた今年も、いよいよ最後の月になりました。皆様方も、そろそろ年の総仕上げに取り掛かっておられるのではないでしょうか。くだんのCovid-19、出口が見えてきたと思ったのもつかの間、オミクロン株が現れて不透明な状況がまだしばらくは続くようです。
日本建築学会でも「ウイズ/アフターコロナに適応する建築・都市に関する特別調査委員会」を組織して、多様なメンバーに横断的に議論して頂いております。エビデンスに基づいた感染リスク評価と許容リスクのコンセンサスから、都市空間レベルの行動変容・社会変容に対応する計画論の形成、アフターコロナに向けた建築社会システムの再編まで、その議論の射程は広範なものです。
https://www.aij.or.jp/syakaini-zutaiou/y060-16.html
複雑かつ現在進行形の事象ですので、簡単な結論はないのですが、特別調査委員会メンバーの皆様の献身的な努力で、示唆に富んだ議論が随所でなされているようです。来年の北海道での大会などの機会に、その中間的な報告をお披露目できるようにも思っております。
まだまだ議論は続いておりますので、皆さま方も事務局まで多様なご意見をお寄せいただければ幸いです。

グレート・リセットとスモール・トランジション。今の日本には、どちらが必要なのでしょうか?どちらが合っているのでしょうか?日本は、明治維新後の急速な近代化、および戦後の高度成長期(バブル経済期まで)には、グレート・リセットとも考えられる変遷を遂げてきました。その後、バブル経済崩壊後、日本は、経済的だけでなく技術的にも、もしかしたら足踏み状態が続いているように思えてなりません。足踏み状態は錯覚かもしれませんが、そう思えるのは、変化はあってもそれがスモール・トランジションであったからかもしれません。一方、かつての発展途上国の中には、グレート・リセットを行って飛躍的な発展を遂げた国もあります。今や、日本を超える技術を有し、生活様式・活動形態も20~30年前とは大きく様変わりしていると言えます。例えば、移動通信システムですが、1G→2G→3G→4G→5Gという変化ではなく、国家全体で一気に1G→5Gへという変化を遂げたとすると、明らかに日本を越えているでしょう。一方、3Gや4Gに慣れてしまったお蔭で、5Gへの移行がゆっくりとしか進まない状況というのが、日本の実態かもしれません。では、建築に関わる技術はどうでしょうか?対象によって異なるかもしれませんが、慣れ親しんだ旧時代的な技術にこだわり過ぎてしまわないようにすべきであると思っています。先日、DXタスクフォースの会議を持ちました。将来を見据えて学会も一気にグレート・リセットできるかどうか、ここ1年間が勝負です。DXを実施する対象として、委員会活動、蔵書・出版物・報告書などの情報資源、研究集会、大会発表などを考えています。

再エネとしての太陽光発電を普及させるために、日本では固定価格買取制度(FIT)が施行されました。これにより太陽光発電は投資商品となり、発電した電力を電力会社が買い取ることで、発電事業者は利益が得られます。そのため、土地の所有者は森林を伐採して太陽光発電を設置するようになりました。
本来CO2を削減するための太陽光発電のはずが、CO2を吸収する森林を無くして太陽光発電を設置していては本末転倒でしょう。森林が無くなることで山が水を吸収しなくなるため、大雨が降るとがけ崩れが起こりやすくなります。また各地でこれに伴う景観論争も出ています。日本ではすでに太陽光を設置する場所が無くなっており、各地方自治体では住宅の屋根に設置を義務付ける動きも出ています。
こうした中先日新聞記事にも出ましたが、道路に太陽光を敷設することが着目されているようです。道路は経済発展と共にどんどん開発されていくものです。太陽光発電を設置するためにわざわざ土地を切り開く必要がありません。すでにフランスのノルマンディー地方で全長約1kmに渡って設置されました。距離は短めですが、約2,800m²のソーラーパネルが敷き詰められています。日本はまだ道路交通法で道路での発電はできないとのことですが、いい着眼点だと思います。大規模な商業施設の駐車場の車路部分や自転車専用道路などまた道路でも交通量の多くない農業用道路など敷設できる場所は多くあると思います。森林を伐採しないよう日本は特にこの技術を推し進める必要があると思います。
