第6回 会長・副会長からの近況報告(メルマガ)(2021年11月5日配信)

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 10月21日(木)に開催された東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議に出席し、換気の重要性について工学院大学建築学部柳宇先生と話題提供を行ってきました。話題提供に先立ち、10月19日(火)に小池都知事と30分ほど換気対策などに関して懇談させて頂きました。現在、我が国においては、ワクチン接種も進み、感染状況は落ち着いていますが、自粛要請の緩和や冬場になり室内で過ごす時間も長くなるため、今一度基本事項を確認しておきましょうということでした。今や国民の誰もが知っている「三密」は、2020年3月9日に政府から公表されました。その筆頭に「換気の悪い密閉空間」という記述があります。換気を専門とする、日本建築学会、空気調和・衛生工学会では情報提供を行うことが重要であると認識し、竹脇前会長と空気調和・衛生工学会の当時会長であった田辺が緊急会長談話を2020年3月23日に公表しました。その後、両学会から継続的に情報提供が行われています。2020年3月30日には厚生労働省から、一人あたり一時間に30m3の換気が行われていれば、感染を確実に防止できるということまで明らかになっているわけではないが、換気が悪い空間には当てはまらないという見解が公表されました。世界保健機関(WHO)は、気管挿管などの特殊な条件を除けば、空気感染はなく換気の有効性を当時は必ずしも認めていませんでした。我が国では、現在の感染状況は落ち着いていますが、ワクチン接種が進んだ国でも感染拡大が続いています。第6波の影響が小さくなるように、基本に立ち戻ってマスクなどの感染対策を継続することが大切だと思います。建築学会会長であった辰野金吾はスペイン風邪により1919年3月に亡くなられています。

日本建築学会 COVID-19に関連した日本建築学会の活動情報(リンク集)
https://www.aij.or.jp/covid19_info.html

空気調和・衛生工学会 COVID-19 空気調和・衛生工学会の取組
http://www.shasej.org/recommendation/covid-19/COVID%2019.html

(第68回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議(2021年10月21日)
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1013388/1020461.html

厚生労働省 「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気方法
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618969.pdf

 
田辺 新一
会長 田辺新一(早稲田大学教授)
 「脱炭素都市・建築タスクフォース(主査:伊香賀)」では、本会の組織的な学術研究推進と会員各位の取り組み推進、本会自身の活動(建築会館、出張、DX推進、建築雑誌等)の脱炭素化推進のアクションプランを検討しています。そのために、(1)総論、(2)環境金融、(3)住宅会社、(4)設計事務所、(5)建設会社、(6)材料施工、(7)不動産会社の先導的取り組みを学ぶための拡大委員会を開催します。第1回拡大委員会(11/9)では、田辺新一会長より総論として「建築分野のカーボンニュートラル対応」をお話しいただき、建築分野を取り巻く最新動向をお話いただきます。その様子は、後日、本会ウェブサイトで公開する予定ですので、ご視聴いただけると幸いです。
 また、3月中旬には、1年間のタスクフォースの総括としての「脱炭素都市・建築シンポジウム(対面・Webinar併用)」を開催しますので、ご予定いただけますと幸いです。

 
伊香賀 俊治
副会長 伊香賀俊治(慶應義塾大学教授)
 バイデン大統領が化石燃料からの急速な転換に対して懸念の発言をしている。石油や天然ガス価格の急速な高騰(アメリカはこの影響は少ないが)などによりインフレが起きていて、これを念頭においてのことである。天然ガスについてはロシアとの駆け引きもあり、政治的な争点にまでなっている。EUは?と言えば、EU27か国の内、原子力を維持するのは13か国で賛否が分かれているし、これに加えて天然ガスも、もう一つの対立軸となっているようである。EUは脱炭素を革命と考えている、と田辺会長が仰っていたが、このグローバル社会では革命が及ぼす影響はとても大きく、多岐に渡り複雑である。もう少しやり方がなかったのか、と思うのは日本人だからなのか。アドバルーンを先にあげないと事は進まなかった、というのも事実ではある。ただEUは政治的共同体として、複雑でしたたかな交渉によって、原子力と天然ガスの課題に方向性を出そうとしているようである。一方日本は彼らと比してとても政治の国とは言えない。この交渉に耐えていけるのだろうか?と考え込んでしまう。

 
福田 卓司
副会長 福田卓司(㈱日本設計取締役副社長執行役員)
 論文集委員会で丁寧に議論して頂いた結果、「日本建築学会構造系,計画系ならびに環境系論文集執筆要領」を改訂しております。「④図表は原則日本語か英語とし,著者が選択する(7.本文、(3)図・表・写真、a.版下原稿作成)」と、従来、英語表記が求められていた図表が日本語でも大丈夫となるなど、投稿される皆様に配慮した対応が盛り込まれました(2021年12月1日実施)。
 http://www.aij.or.jp/jpn/transaction/ronbun/shippitu.pdf
 もちろん、ジャーナルとしての国際発信力が衰えるようなことがあってはいけません。先にお伝えしたように、論文集、技術報告集、JAR、JAABE、作品選集など、当学会が関わるジャーナルの在り方を根本から議論する「学術・芸術・技術分野の進展タスクフォース」が先月から始動しております。理論から論評、そして建築作品まで、日本建築学会の存在基盤でもある幅広いレンジを保持しつつ、母国語での論については、参考文献のレファレンスをしっかりと取って知のリゾームを深く有機的に作り上げ、海外への論考発信については、国際的な議論の文脈を踏まえた端的で独創的な枠組みが構築できるよう、メリハリのついた場の構築を目指しております。
 様々な忖度が求められる現代の日本社会では、貴重な多くのエネルギーがサンクコスト化してしまっているように思います。なかなか難しいことが多いとは思いますが、皆様の貴重なお力を、建築に関わる世界の共有知構築に、上手くつなげていけるようこれからも努力を続けたいと考えております。


 
小野田 泰明
副会長 小野田泰明(東北大学教授)
 毎年、春と秋に、長崎市・軍艦島に上陸し、視察したり検査機器を用いたりして、残存している建築物群の状態について調査を行っています。残存している建築物は鉄筋コンクリート造のみで、木造は度重なる台風時の高波による護岸崩壊で倒壊・流出し、鉄骨造は台風時に高波を被るなどの激しい塩害で腐食が進んで断面が細り倒壊に至っており、木造も鉄骨造も現在は残っていません。2015年7月の世界文化遺産登録よりも4年前に調査を開始してから既に10年を経過しました。毎年毎年劣化は進行しており、調査開始時の状況とはかなり変化している部分もあり、自然倒壊の危険性が高まってきている建築物も出てきています。鉄筋コンクリート造の劣化は、鉄筋の腐食によるコンクリートのひび割れ・剥落であり、建築物の内部および周辺には、コンクリートの破片(大きいものでは、4×1×0.2m程度の壁の一部)が散在しています。上からコンクリートが落下してくる危険性を感じながら調査を行っています。このような状況を見るたびに、いつも自問自答するのは「コンクリートと鉄筋とは、本当にベストなカップルであったのだろうか」ということです。どの建築材料も、時間の経過に伴って地球上で最も安定した状態へと推移していきます。鉄(Fe)にとって安定な状態は酸化鉄です。コンクリート中のカルシウム(Ca)にとって安定な状態は炭酸カルシウムです。もし、酸化鉄と炭酸カルシウムがそれぞれ十分な性能を持ったうえでカップルになったとしたら、理想的な構造部材を形成できるのかもしれません。

 
野口 貴文
副会長 野口貴文(東京大学教授)
 いよいよゼネコンも違法な長時間労働(三六協定の上限を超えた時間外労働・休日出勤など)の早期是正に向けた圧力が加えられてきました。
 そもそも、建設業はその業態の特徴から、一般的な企業が求められる法定労働時間の「1日8時間」「週40時間」を超えて労働していることも少なくありませんでした。そのため、時間外労働ができるように、多くの建設業は従業員や労働組合と36協定を結んでいます。36協定を労働基準監督署に届け出ることにより、時間外労働を「月45時間」「年360時間」までと、ある程度は全体の労働時間が超えてもよいと認められるのです。大きな変更点は、時間外労働時間の上限が明確に「法律」で定められたこと。また、今までは年間6ヶ月移行に超過した時間外労働時間については、目安となる上限もなかったものが、明確な時間の上限として定められたことです。社会的な流れと言えますが、建設業界にとっては、工期に大きく影響する問題でこのことによる工期延長は世の中全体の認識が変わる必要があることだと思います。

 
田名網 雅人
副会長 田名網雅人(鹿島建設㈱常務執行役員建築設計本部副本部長)


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