001 EXA・HORON-部分と全体の関係性:挑戦と実践の経緯
所在地:兵庫県西宮市甲陽園目神山町
用 途:一戸建て住宅
竣 工:2012年10月
応募者:庄司悦治[(株)ライト建築事務所 代表取締役]
布野修司/滋賀県立大学・建築討論委員会委員長
震災時の仮設住宅や復興まちづくり住宅にも応用できる木造のユニット住宅ということだが、こうした意欲的な試みは様々に試みられていいと思う。ただ、提案されている鳥居型のラーメン架構は、システムとしては、やや固いように見える。サブのユニットがないと成立しないのではないだろうか。こういう鳥居型の架構がなぜ出てきたのか。十字型のグリッドを並べるだけで、本当に集合住宅にできるのだろうか、いくつか疑問がある。合わせ梁のような形式には構造面や材料面での合理性がありそうだが、もう少し、説明がほしい。
宇野求/東京理科大学・建築討論委員会幹事
時代の要請なのか、世界的に見てもつくられているものが大規模建築と小規模のものに二分されている。その中で日本では3.11以降という文脈の中、地に足のついた提案をしっかり生み出したいという気運にあることが、応募作品にも感じられる。本作は軸組構造の変形システムだが、低層住宅における展開はかなり柔軟にできるのではないだろうか。ルイス・カーンが成し遂げようとしたこととも、形式的に似ているように思う。また写真を見ると、庇と屋根はグリッドシステムと独立したあらわれ方をしており、柔軟な展開力がありそうだ。生産性とセルフビルドへの対応がどれほど効くのかわからないが、可能性が感じられる提案だ。
伊藤香織/東京理科大学
鳥居型の構造で、角が抜けるという点は面白い。ただ実現案や応用提案をみる限りでは、この構造がどう空間に魅力をもたらすのかわかりにくく、資料でもう少し明確に示されているとよかった。資料では復興まちづくり支援技術という意義が述べられている。これも実際にどのように展開されるのかがわかれば、より可能性が感じられたと思う。
木下庸子/設計組織ADH
今月応募のあった2作品はともに社会的な意味を持つ提案となっており、建築評価のクライテリアに変化が起きつつあると感じる。本作は、角に柱がないという点が興味深く、開口部に自由度がある上に、ユニットを45度傾けて連続させることもできる。また資料でははっきりとはわからないのだが、梁せいの小さな部材でできているようにも見えるし、筋交いなども不要となるシステムなのかもしれない。そうした意味でも、空間に対する自由度が高い架構なのではないだろうか。仮設・復興まちづくりへの対応が可能だとのことだが、これに関しては今後の事例に期待したい。
平塚桂/ぽむ企画
レゴ型の建築システムと説明がなされている。組み立てだけではなく分解して移設するようなことも容易にできるのだろうか。伸び縮みできるユニットというのは魅力的だ。仕組みが明快でスケールも小さく、誰にでも想像しやすい形なので、ユニットの組み合わせ方や用途などを、大人数で検討するような場合にも向くシステムにみえる。ただこうした繰り返し利用可能な構造体は、はたして間伐材の利用に向いているのだろうか、という疑問もある。
山梨知彦/日建設計
木材の復権は、時代の要請であり、伝統や過去の木材利用の形式にとらわれることなく、多くの試みがなされることが重要である。同時にそれらの試みが社会の中で淘汰され、絞り込まれることも同時に必要であり、淘汰に向けての適切なコメントを発することが専門家の重要な役割といえるだろう。
そういった意味で、まず本作品の試みを評価したい。一方で、ユニット化の意味に疑問を投げかけたい。木材、特に日本の伝統的木材は、部材レベルにおける大量生産マスプロダクションの良さ(流通材のほとんどが尺貫法に則った規格材として流通している)と、個別のプロジェクトが要請する部材へと容易に加工できるマスカスタマイゼーションの良さを併せ持つ、まれなる材料である。多くの木造プレファブリケーション住宅が、実はオンデマンドにより加工された多種多様な木材によってつくられている事実も、それを裏付ける。こうした視点から見た時に、現状の提案では、部材のユニット化の合理性や持ち味が、説得力を欠いているように感じられた。
002 Megacity Skeleton メガシティの小さな躯体
所在地:Jl.Cikini Keramat RT007/RW01, Kelurahan Pegansaan, Kecamatan Menteng, Jakarta Pusat
用 途:コミュニティ施設
竣 工:2013年10月
応募者:雨宮知彦[ユニティデザイン一級建築士事務所 主宰]
岡部明子[千葉大学大学院工学研究科 教授]
吉方祐樹[千葉大学大学院工学研究科 修士2年]
上田一樹[千葉大学大学院工学研究科 修士2年]
布野修司/滋賀県立大学・建築討論委員会委員長
私自身が30年前から関わってきたカンポンの住宅供給プロジェクトと共通点があり、意図や背景はよくわかる。住み込んで、住民とのワークショップで知恵を出していった意欲的な方法は評価したい。主としてコアの提案にとどまっているが、ジャカルタの場合はインフィルの部品は売っており、産業として成立しているので用意しなくてよいのだろう。また比較的大がかりな鉄筋コンクリートの躯体を設けているが、こうした建設費もまた住民の収入の機会になりうる。ただ、建物の後ろに設けた隙間は疑問だ。インドネシアではハウスカットと呼ぶ、高密な住宅地の路地を広げる手法があり普通はこれが使われる。通風と日照のためにとはいえ、ただでさえ狭い居住スペースを削ってしまうと、住宅のプロトタイプとしての汎用性が低くなるのではないか。またコアに水まわりの設備を用意していない点も気になる。水まわりは外部で共用する方針とし、割り切っているのだろうか。日本で学んだ知恵だけを持って素手で乗り込み、現地の材料だけで何ができるのか、という試みとしてはいいと思う。
宇野求/東京理科大学・建築討論委員会幹事
湿度が高いエリアでは風通しが大切になるので、建物同士に隙間が設けられている点は評価できる。こうした場所では室内環境を機械的に制御する前提でフロアを拡大するよりも、床面積を抑えてでもスリットを入れて、室内環境を向上させることが有効なはずだ。プランニングは、ことごとく近代建築の基本的な考え方に反している。トイレや洗面器も固定せず、その場その場で動かしながら住もうとしている。おそらく伝統的な彼らの住み方を踏襲しながら、近代的な技術を導入しているということなのだろう。アジア的な低層高密度な住み方の提案として面白いのではないだろうか。日本の都市構造の原型もこのようなものだった。だが戦後は土地利用と耐火性能、耐震性能を向上させる手法により、住宅をステレオタイプ化させた。それとは異なる、文化を継続的に近代に接続する方法とも読み取れる。インドネシアというよその国の話として完結するものではなく、われわれ自身に問いかける提案でもあるのかもしれない。
伊藤香織/東京理科大学
敷地のチキニはジャカルタ市の中心部に接する都市内カンポンである。利便性が良いため、周囲はクリアランス型の再開発が進んでおり、このカンポンも開発の圧力にさらされている。居住者にとっては、高層マンションの生活にあこがれもあるようだが、ここではコミュニティがあり地面が近く、子どもたちの声が響くというような、カンポンの既存の環境を価値として捉え直し、この魅力を残しつつ住環境を改善する提案をしている。超高密な居住環境で、住居の後ろに隙間をあけ、壁を白く塗り、光と風を通すというのはあり得る提案だと思う。このごく狭い隙間が光井戸なのか、人が通ることができて建物の使い方自体を変えるものなのかがわかりにくかった。しかしいずれにしても、住民自身が真似するのにそれほど難しい操作ではないと思われるので、床面積が少し減ることを補って余りある程度に住宅の価値を高めるものだと住民に認められれば、彼ら自身が真似て広がっていく可能性を持っているのではないだろうか。
木下庸子/設計組織ADH
東京などの木密地域では、まず大きな道路を引き、沿道の建物を耐火構造にする、というように、都市計画で線引きしてしまう。そうした現代都市のあり方に対する批判的な要素も含んだ提案だ。これがジャカルタの人々が現存する街並みをリスペクトできるまでに発展すれば、非常に意義がある。既存の都市を一気にクリアランスして高層建築を建てるという近代の方法とは異なる、現状のスケールを維持しながら更新していく仕組みとして、これからの国内の都市の更新に対するヒントにもなりうる。
平塚桂/ぽむ企画
赤道直下の気候を読み解いた上で発想されたという、住居の背後に入ったわずかな幅のスリットがとても効果的にみえる。コアが非常にきれいに仕上げられている理由が不思議だった。地域に雇用を生み出す、技術を根付かせるといった理由から選ばれた方法なのだろうか。資料のみからの推察だが地域における自発的な連鎖を生み出すには少しハードルが高いつくりのようにも思えた。
藤村龍至/藤村龍至建築設計事務所
アンチハイライズ、アンチ近代都市計画という立ち位置はわかるが、いかに日本に持ち帰るかという位置付けが欲しい。個人的には近代化が終わった後の都市をいかに縮小させるかということに興味がある。近代化が進むインドネシアに日本から技術提供するということはわかるが、日本にどう持ち帰ることができるのか。作品を「オルタナティブ」という位置付けで終わらせるのはもったいない。
山梨知彦/日建設計
現代の建築家が、その専門知識を生かし貢献していかなければならない領域である「人道主義的建築」として評価したい作品である。提出されたわずかな資料では推し量ることも難しいが、実現に向けては非常に多くの困難があったことが予想される。関係者の忍耐とそれを支えたモチベーションに敬服した。
具体的な提案である壁とスリットの挿入は、具体的な形ではなく、一種の問題解決のためのアルゴリズムにも見え、多様な状況にフレキシブルに対応できる原型の提示として共感を覚えた。
一方で、実際に造られたRCの壁は、周辺と対比的な洗練された建築としての印象が強く、それが置かれるコンテクストの中では経済的なインパクトが大きいようにも見える。スリットのアルゴリズムを生かした、もう少し簡便な解決が見えれば、その適用の範囲はけた違いに拡大されるようにも思われる。
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