レポーター報告012

揚輝荘

橋本雅好(椙山女学園大学生活科学部生活環境デザイン学科准教授)


名   称 :揚輝荘
設 計 者 :鈴木禎次ほか
所 在 地 :愛知県名古屋市千種区法王町2-5-21
用   途 :名古屋市指定文化財


 愛知県名古屋市にある地下鉄東山線の覚王山駅を降りて、覚王山日泰寺につながる参道には、老舗旅館や暖かみを感じる食堂などとあわせて、お洒落なカフェ・レストランなどが並ぶ覚王山商店街があり、覚王山日泰寺の前から一歩横道に折れると、閑静な住宅街の中に静かに佇む揚輝荘がある。
揚輝荘は、大正から昭和初期にかけて松坂屋の初代社長である伊藤次郎左衛門祐民の別荘として建設され、約1万坪に及ぶ起伏に富んだ敷地に、地形や周囲の自然を活かした回遊式庭園として造られ、30数棟に及ぶ建築物が存在した。その後、戦時の空襲や風雨による老朽化、開発などの影響から、現在では、北園と南園に分かれ、伴華楼(設計:鈴木禎次)、白雲橋、三賞亭、聴松閣、揚輝荘座敷の5つの建築物(名古屋市指定文化財)と庭園を残すのみとなったが、特定非営利活動法人「揚輝荘の会」によって運営・管理され、秋には紅葉の名所としても市民の憩いの場となっている。
揚輝荘の特徴として、年間を通して、白雲橋でのコンサートや三賞亭でのお茶会といった指定文化財を使った市民参加型のイベントを実施している点が挙げられ、保全のみならず、多くの機会で指定文化財と触れる機会を設けている。その中でも、特に、名古屋市を拠点とする建築系大学の学生が、揚輝荘の歴史的文脈や景観を読み解いたインスタレーション作品を建築物の内部や庭園に展示し、来園者に普段と違った揚輝荘の一面を体感させるプロジェクトが注目されている。例えば、煎茶の茶室の三賞亭では、茶のおもてなしの心を具現化した作品や、過去に存在していた茶室の西行庵を記憶の結晶として表現した作品などが来園者の心を和ませた。
揚輝荘のような指定文化財は、日本各地に存在しているが、貴重な文化材として保全するのみではなく、建築物としての本来の役割である空間体験ができる機会を整えると共に、揚輝荘で試みている歴史的文脈や景観を読み解いたインスタレーション作品を展示する機会も必要なのではないだろうか。普段の風景に薄化粧を装うような感じで。


001:揚輝荘全景 002:揚輝荘:三賞亭と白雲橋
揚輝荘全景 揚輝荘:三賞亭と白雲橋
003:紅葉と揚輝荘 004:白雲橋でのコンサート
紅葉と揚輝荘 白雲橋でのコンサート
005:三賞亭を活用したプロジェクト 006:西行庵を再現したプロジェクト
三賞亭を活用したプロジェクト 西行庵を再現したプロジェクト

橋本雅好(はしもと・まさよし)

1973年群馬県生まれ。博士(工学)。椙山女学園大学/大学院准教授。デザインディレクター。デザイン女子No.1決定戦実行委員会事務局長。専門:環境心理学、建築計画、感性デザイン。東京大学大学院博士後期課程修了/2001。日本建築学会奨励賞/2003等を受賞。共著に「設計に活かす建築計画」/学芸出版社/2010等。