建築討論

大谷石の集落調査 -生きられた類型学を読む-

安森亮雄(宇都宮大学大学院准教授)

実 施 者:NPO 法人大谷石研究会、宇都宮大学安森亮雄研究室
所 在 地:栃木県宇都宮市 徳次郎町西根、上田原町、上田町
実 施 年:2012 年~2014 年



■宇都宮市の大谷石

 栃木県宇都宮市は大谷石(おおやいし)の産地である。大谷石(図1)は、凝灰岩の一種であり、柔らかく多孔質で、「ミソ」と呼ばれる茶褐色の斑点があるのが特徴で、フランク・ロイド・ライトが設計した旧帝国ホテル(1923年)に使われたことでも知られている。宇都宮市の市街地の外側には、大谷石の建物が密集する集落が存在する(図2)。そこでは、旧街道に沿って石蔵と石塀が連続し、他では見ることのできない特徴的な石の町並みが形成されている。宇都宮市の中心市街地にも多くの石蔵が現存するが、宅地の奥にあるため町並みにならないのに対して、こうした集落では、地域の暮らしや生業の中で、密度の高い大谷石の建物群が形成されてきた。しかし、これらの建物は、使用機会の減少や所有者の世代交代により、取り壊されたり、十分に維持管理されていないものもあり、現状把握と今後の取り組みが急がれている。そこで、NPO 法人大谷石研究会と宇都宮大学安森研究室では、2012(平成24)年に大谷石集落の調査を開始し、毎年調査を続けている(図3)1,2,3)。本稿では、これまでの3回にわたる調査と考察について報告する。
図1:大谷石 図2:宇都宮市内で大谷石建物が集中する地区
図1:大谷石
図3:調査風景
図3:調査風景 図2:宇都宮市内で大谷石建物が集中する地区

■大谷石の集落

 大谷石建物の集落の中でも、徳次郎(とくじら)町西根地区(図4、5)は、旧日光街道の徳次郎宿の一部であり、かつて大谷石と同じ凝灰岩の一種である「徳次郎石」が産出した。宇都宮市近辺で産出される凝灰岩を総称して「大谷石」と言うこともあるが、大谷地区以外では地区ごとに石の呼び名があり、石の材質もそれぞれに特徴がある。徳次郎石は、「ミソ」がほとんど無く、やや青みがかり、均質で細工に適しているため、彫刻や石瓦などに重宝され、多くの住民が石工や採石業を営んでいたと言われている。また、火災が多く発生したので、防火性の高い石造の建物が普及し、石蔵と石塀が連続する町並みが出来上がった。現在でも、街道沿いの99 棟の建物のうち約6 割にあたる62棟が石造の建物である。また、西根地区よりやや東に位置する農村集落の上田原(かみたわら)町(図6)、水路と石塀の町並みが特徴的な上田(うわだ)町(図7)などでも、建物の半数程度が石造の建物であり、蔵や納屋などに使われてきた。
図4:徳次郎町西根地区 建物配置図 図5:徳次郎町西根地区
図5:徳次郎町西根地区
図6:上田原町
図6:上田原町
図7:上田町
図4:徳次郎町西根地区 建物配置図 図7:上田町

■大谷石建物の特徴

 大谷石の建物には、いくつかの特徴がある。まず、建物の構法は、大きく「張石」(はりいし)と「積石」(つみいし)に分けられる。「石造の建物」と聞くと、現在では、石を積んだいわゆる「組積造」を思い浮かべるが、実は、江戸後期から大正初期までの古い石蔵は、木造の軸組に石を張った「張石」である。日本には、昔から簡素な木造の板蔵があったが、江戸後期になると、防火性を高めるために、外壁に土や漆喰を塗った土蔵が出現する。宇都宮市では、多孔質で防火性に優れた大谷石を張ったのが、石蔵の起源である4,5)。これに対して「積石」は、明治の近代化以降、西洋式のレンガ造や石造の建物が輸入され、輸送手段が発達してからのもので、主に大正以降に見られる。石の目地を見ると、積石では、定尺(1尺×3尺)の石を交互に破れ目地で積むものが多く、張石では、木下地に縦と横に一段ずつ張るものが多い(図8)。また、建物の用途は、財産を収めるための「蔵」や、農作業や器具庫として半外部的に使われる「納屋」などの収納用が多いが、居住用の「母屋」や「離れ」に用いられることもある。
 細部に着目すると、石の仕上げ(図9)については、つるはしで斜めに筋模様を付けた「ツル目」は、昭和30年代までの手掘りの痕跡を示すもので、機械掘りになるとチェーンソーの目に変わる。ビシャンや表面研磨などの丁寧な仕上げもある。また、古い蔵に見られる石瓦は、凹凸に噛み合うように加工され垂木に載せられている(図10)。さらに、蔵は一種のステータスであり、吉祥図や擬洋風のオーダー柱など、窓周りに凝った装飾を施すものもある(図11)。これらは、石工の技術の見せ所であり、日光東照宮の造営で培われた木工技術の石材への伝播や、西洋の建築意匠に対する在来技術者の理解と吸収という点で興味深い。
破れ目地(横石) 縦横目地(張石) ツル目 チェーン ビシャン 表面研磨 コボリ
破れ目地(積石) 縦横目地(張石) ツル目 チェーン ビシャン 表面研磨 コボリ
図8:大谷石の目地 図9:大谷石の仕上げ

図10:石瓦 図 12:大谷石建物の類型
図10:石瓦
図11:窓周りの装飾
図 11:窓周りの装飾 図 12:大谷石建物の類型

■大谷石建物の類型と町並み

 こうした特徴が典型的に組み合わさることで、大谷石の建物の類型(タイプ)がみえてくる(図12)。「平屋積石納屋」は、宇都宮近辺で「雨屋」(あまや)と呼ばれるもので、農作業などで半外部的に用いられるため、間口が広く、大きな庇を張り出す特徴がある。「2階建て積石蔵」は、最も一般的な石蔵であり、昭和期に建てられたものが多い。石を積む構法が石塀と同じなので、しばしば塀と建物が一体的に作られ、 我が国では珍しい石造の連続的な町並みが形成されている(図13)。これに対して、「2階建て張石蔵」は、明治後期から大正初期のものが多く、屋根が石瓦で葺かれた立派な張石蔵が各地区に数棟ずつ存在する。 こうした古い蔵は、敷地の奥にあることほとんどで、奥行きのある町並みを形成する。このような共通する類型に加えて、各集落の個性もみられる。西根地区では、石の産地ならではの特徴として、大谷石を張った2階建ての住宅が2棟ある。また、上田町では、蔵と納屋が界壁で一体化したものや、納屋の2階が離れとなっているものがあり、昭和半ばの農地拡大期に、「複合型」の類型が成立したことが分かる。以上の建物の類型が、各集落の街道に沿って並び、特徴的な町並みが形成されている。
図 13:徳次郎町西根地区の大谷石建物の町並み
図 13:徳次郎町西根地区の大谷石建物の町並み

■生きられた類型学

 これらの大谷石の建物の類型と町並みは、地域の暮らしや生業の中で時間をかけて形成されてきたものである。ここまで見てきた類型学(タイポロジー)は、私たちが現在見ている建物の特徴から、それが出来た背景や仕組みを読み解き、人々によって生きられた空間と時間を、もう一度立ち上げる作業といえる。これは、過去を懐かしむ懐古趣味やそこに規範を求める歴史主義ではなく、また、目先の新規な形やその生成法を追求するものでもない。大谷石を通して見えてくるのは、そうした過去と未来の意図的な切断ではなく、有機的に連続する時間と空間であり、生きることと作ることが融合した文化の総体である。こうした作業の先に、建物の保存や活用、さらには、現代に適した大谷石の建物の設計といった創造的な知恵が確立されることを目指している。

■多様な取り組みと建築文化の創造

 最後に、近年の大谷石に関する多様な取り組みを紹介する。宇都宮美術館では、2014年に連続美術講座「大谷石の来し方と行方」が開催され、5回にわたる講座をまとめた論集がこの3月に刊行された(本稿は、同論集の拙稿6)の集落調査の記述を加筆修正したものである)。また、宇都宮まちづくり推進機構では、中心市街地の大谷石建物を紹介するマップを更新し、「石の街うつのみや遺産と景観」が発行される。産業面では、大谷石の技術者が高齢化していることを背景に、新たな技術者を養成するための「大谷アカデミー」が発足し、この3月に1期生が修了した。観光面では、日本大震災をきっかけに閉鎖していた大谷資料館が2013年4月に再開し、大谷石をめぐるバスツアーが宇都宮市や大谷石研究会により定期的に開催されている。大谷地区では、「フェスタin大谷」や「大谷石夢あかり」等のイベントが継続的に行われ、さらに、大谷石の採掘場跡地を体験する「OHYA UNDERGROUND」のプロジェクトによる新しいツアーが始まっている。また、石蔵のコンバージョンによる店舗や飲食店への活用や、大谷石を用いた新たな建物の設計についても、筆者のみならず多くの建築設計者が取り組んでいる。
 これらの取り組みは、近年の地域再生への意識の高まりを背景に活性化している。そうした動きを、産業から生活に至る様々な場面で関連づけ、過去から未来に連なる連続的な地平を見据えながら、新たな建築文化の創造に繋げていくことが重要であると考えている。

参考文献

1)稲川芽衣,安森亮雄,佐原謙介:徳次郎町西根地区における大谷石建物の外形と町並みの構成‐栃木県宇都宮市を中心とする大谷石建造物に関する研究(4),日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.149-150,2013
2)柳紘司,安森亮雄,稲川芽衣:農村集落における大谷石建物の外形と町並みの構成‐栃木県宇都宮市を中心とする大谷石建造物に関する研究(5),日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.363-364,2014
3)小林基澄,安森亮雄,柳紘二:水路のある上田地区における大谷石建物の外形と町並みの構成―栃木県宇都宮市を中心とする大谷石建造物に関する研究(6),日本建築学会大会学術講演梗概集(掲載予定),2015
4)吉岡丹,小西敏正:大谷石を使用した蔵の構法と歴史に関する調査研究,日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.1593-1594,1983
5)河東義之,日本の蔵概説,JUDI NEWS 52号,pp.9-12,都市環境デザイン会議,2000
6)安森亮雄:大谷石の石蔵と集落、現代の活用とデザイン‐生きられた類型学を読み、風景と居場所を創造する‐,大谷石をめぐる連続美術講座論集 大谷石の来し方と行方,pp.16-19,宇都宮美術館,2015

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