建築討論

BLUES DESIGN OFFICE

久野 紀光(tele-design collaboration network/名古屋市立大学大学院芸術工学研究科准教授)

名   称:BLUES DESIGN OFFICE
設 計 者:D.I.G Architects/吉村真基+吉村昭範
所 在 地:愛知県大府市
用   途:事務所
竣 工 年 月:2014年12月
階   数:地上2階 、屋上1階
構 造 種 別:木造一部鉄骨造
建 築 主:BLUES DESIGN 中村友治
施 工 会 社:渡邊工務店
構造設計者:なわけんジム 名和研二、下田ひとみ



内外のヴォリュームが等価に構成された外観をみる 2階のテラスよりオフィスを外観する
内外のヴォリュームが等価に構成された外観をみる 2階のテラス1よりオフィスを外観する
エントランスポーチ(外部)を内観する 立体的な外部空間の連続を見る
エントランスポーチ(外部)を内観する 立体的な外部空間の連続を見る
均衡する内部空間と外部空間
均衡する内部空間と外部空間

 名古屋都心から一時間も電車に揺られれば、高密高層という都市の様相からかけ離れた風景が広がる。
 この建築が建つ周辺環境も同様なのだが、興味深いのはこうした都心からの距離帯の定石でもある(いわゆる郊外型NTのような)整然とした地割は存在せず、従って各建物も配置に総体的な規律もないまま、あちこちに向いて“バラバラと”置かれていることだ。加えて、農地やら空地が建物の密度と差がなく散らばっているために、都市空間では見慣れた「高密なマッスの狭間のボイド」という図式や、もう少し都心から離れたエリアに拡がる「圧倒的な外部空間に囲まれた集落」といった図式のいずれでもない世界となっている。つまり、全体を俯瞰する計画的な空間分節の規範も無いまま、建物と外部とが主従関係を持たずに均衡を保っている空間が、自然発生的に生成されているのだ。そして地方都市の周辺には、このような奇跡的空間が多く存在する。
 さて、本稿で紹介する建築の設計者はこの自然発生的な均衡を素直に受け入れた空間を創ろうとほぼ即決したという。なんと難しい課題を設定したものだろう。どう抗っても、設計行為とはある個人が空間を構想せざるを得ないため自然発生的になるはずもなく、逆にそこに拘泥し過ぎると作為的な表現に陥る危険性もある。確かに、ルシアン・クロールのように構造体だけを規定し、細かなインフィル要素は個々人の自由に委ねた開放系とする方法論が過去にはあったが、この建築家のように自ら全てを統制しつつ、しかし全体を規定する秩序を生成させないという矛盾に真っ向から取り組む姿勢を筆者は知らない。
 果たして、この建築家が採った手段はシンプルで鮮やかだ。
 まず、相異なる壁に平行や直交といった関係を与えることを避けながらスペースを覆う不整形なヴォリュームをふたつ用意し、さらに配置においても互いのヴォリュームどうしに並行やら直交の関係が生じないように敷地に置く。これによって、地盤面レベルでの内部空間と外部空間を隔てる境界は滲むことになるばかりか、各空間の指向も揺らぐ。次に、同じく不整形な新たなふたつのヴォリュームを床レベルや天井高に多様性を与えながら、1層目のヴォリュームの上に井桁状に載せる。こうすることで、1層目のルーフテラスや上下のヴォリュームが重なる部分に設えられた吹き抜けなど、立体的で不整形なスペースが内外に現れる。操作としてはこれでおしまいだ。

 実際に空間に身を置くと、ノリの地図よろしく内部と外部の地と図は、自身の立ち位置やら光の状況に応じてめまぐるしく反転を繰り返して一定性を持たず、「内部を外観」したり「外部を内観」するといった奇妙な形容でしか表しようのない経験が連綿と続くことになる。さらに上述した周辺環境と相俟って、自身が敷地の外に立っているのか内に立っているのすら判らなくなる。
 このように記すと、なんとも情緒的創作であるかのように捉えられそうだが、内外はもちろん、全体においても部分においても各スペースには正面性やら中心性を知覚させることのないよう注意深く構成や開口、各部の寸法が検討され、かつまた構造や構法、雨捌きといったパラメーターをも含んで、それらに序列を付与しないまま多元連立方程式が解かれているため、極めてロジカルに組み上げられている。
 どうやらこの建築では、全体を統括する図式を優位設定して各スペースのあり様へと還元するという原理創作的な思考のベクトルではなく、各スペース間のあり様から帰納された全体という状況創作的な思考ベクトルが優位とされたのだろう。よくよく考えてみると、建築家が関与できる敷地とて周辺環境のほんの一部でしかない以上、前者の思考ベクトルより後者のそれの方がよほど包容力と敷衍性に富んだ建築にアプローチできる可能性が高い。事実、この建築からは形態とこれが誘う完結性は消えてスペースだけが前面に押し出され、それが周囲の状況と呼応して“創作された自然発生的空間”に至っている。
 全体を規定する“判りやすい” 形態秩序を拠りどころとせず、あらゆる形態的規定を避けるように決定を重ねて創作された建築は、スペースが本来持つ潜在能力を“判りやすく”示唆する手段たり得ていた。

配置図:計画的規律に拠らず、内外空間が均衡する周辺環境
配置図:計画的規律に拠らず、内外空間が均衡する周辺環境
1F 平面図
1F 平面図:不整形な内部空間と外部空間のヴォリュームにより互いの境界が滲む
2F 平面図
2F 平面図:不整形な2つのヴォリュームが井桁状に架けかれ内外の滲みは立体的に展開する
3F 平面図
RF 平面図:当面積で配され均衡する内部空間と外部空間
photo ©Tomohiro Sakashita  図版提供 D.I.G Architects

Copyright© Architectural Institute of Japan. All Rights Reserved.