市民のための耐震工学講座 13. 鉄筋コンクリート造の被害 日本建築学会の調査によると,今回の地震での鉄筋コンクリート造の建物の被害の総数は2,754件,大破したものは610件を数えます。では,実際にどのような被害が主として起きたのか見ていきます。 ピロティ部分の被害 ピロティとは,建物の1階が柱だけで共用に使われるようになっている部分のことです。今回の地震で被災した共同住宅のピロティは主に駐車場に使われていました。 このような共同住宅では,2階以上では各部屋の境に壁があり,かたい構造になっています。それに比べると,1階のピロティ部分は壁が無いやわらかい構造です。そのために地震の力による変形が1階の柱に集中し,柱が耐えられなくて壊れたと考えられます。 また,1階が駐車場であるために耐力壁が一方にしか配置されない例が多くありました。そうなると耐力壁が無い方の柱は弱い部分となり,地震の力が集中しました。そして柱が水平方向の力に対して弱く,ねばりも不足していたので,1階がこわれて全体の大きな被害につながりました。 耐力壁の重要性は,壁でつくられる鉄筋コンクリート壁式構造の建物の被害が少なかったことからも分かります。壁式構造の建物は建物を支える構造が壁なので当然壁が多くなります。するとその壁が地震に対する耐力壁になるので,全体として相当な余力を持って地震に安定かつ充分に耐えられます。 この被害を受けた建物の多くは新耐震基準以前にできたもので,柱にはねばりが不足していました。そのために,1階の柱は地震による大きな力にねばることが出来ずにこわれてつぶれてしまったとも考えられます。
中間階の被害 この被害が多いことは今回の地震の大きな特徴です。その原因ははっきりとは分かっていませんが,いくつか挙げられます。 まず,こわれた階で柱の強度や階の「剛性」が変わって,そこが「弱い部分」になったことが考えられます。剛性とは外からの力に対してどの程度変形しにくいかということです。柔らかい部分があるとそこに地震による変形が集中するので,それによって建物がこわれることにもなります。 また,旧耐震基準では設計時に使われる地震の力の見積もりが上の層で小さかったことも原因と考えられます。しかしこの場合も,柱にねばりを持たせる設計がされていれば中間階の崩壊は起こりません。こういった点は新耐震基準では改善されているので,新耐震基準による建物では中間階の崩壊はかなり起こりにくくなっています。
非構造部材の被害 写真47の壁は,設計では地震の力を受けないとされていました。しかし,実際につくると地震による力を受ける構造でした。そのため,地震の力に対する強さを持った設計がなされていなくて,こわれてしまいました。 このような非構造部材の被害は大きな被害に見えます。しかし,建物を支える構造の被害ではありませんから,多くの場合は修理をすれば再び使うことが出来ます。また,この逆の場合もあり得るので,注意が必要です。
柱とはりのつなぎ目の破壊による被害 この被害は,柱と梁のつなぎ目に入っている鉄筋の施工が不十分であったために起こったと考えられます。写真48の被害は外側ですが,これが内側で起こると,天井裏などにあたるので被害の発見が遅れることになります。
帯筋の不足と端部の定着不備による被害 新耐震以前に建てられた建物の多くは,帯筋が不足しています。帯筋が不足すると,「鉄筋コンクリート造のこわれ方」で説明したように,柱のせん断破壊が起こりやすくなります。写真49の柱では帯筋の間隔がまばらです。そのためにせん断破壊でこわれてしまいました。 また,主筋の周りを囲んでいる帯筋が開いてしまって柱に被害が出たものもありました。写真50その例ですが,帯筋が完全に開いてしまって,そのために柱は完全にこわれてしまっています。
エキスパンションジョイント部分を持つ建物の被害 エキスパンションジョイントとは,長さの長い建物の膨張などによるひび割れを防ぐためや,2つの建物をつなぐ場合に使われます。今回の地震では建物の揺れが予想以上に大きかったために,エキスパンションジョイント部分か大きく広がったりしました。 写真51では渡り廊下が落下しています。ここでは建物の被害は軽微でした。しかし,渡り廊下と両建物をつなぐ部分にあるエキスパンションジョイントを見ると,その間は20cm以上開いていました。このようにして建物の開きが予想よりも大きくなって,渡り廊下が落下してしまいました。 写真52では建物の1階部分がこわれて建物が傾いています。そのために渡り廊下と建物をつなぐ部分がはずれて,渡り廊下がはずれたり落下したりしました。
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