公共建築物に対する公開設計競技指針

−公開設計競技の健全な普及のために−

 日本建築学会は,設計競技事業委員会の手において1989年〜90年の2年間にわたり,建築設計競技のあり方に関して学術的な立場から検討を重ね,90年12月に「設計競技指針に関する検討報告書」をまとめた。報告書では海外の設計競技規準に関する紹介が行われ,次いでそれを参考にしつつ,わが国の状況をふまえて公共建築物に対する公開設計競技指針(案)等を提示している。
 学会としてこの指針案について広く意見を会員ほか建築界に徴した結果,大方の賛同が得られたが,同時に若干の御意見も頂戴した。そこで前記設計競技事業委員会のもとに設計競技指針に関する検討部会を設けて更に検討を行い成案を得たので,ここに指針として公刊するものである。

1991年12月

社団法人日本建築学会


目次

1.公共建築物に対する公開設計競技指針制定の背景・意義・経緯

2.公共建築物に対する公開設計競技指針−公開設計競技の健全な普及のために−

(1)本指針を定める目的
(2)設計競技の対象
(3)応募要項の作成
(4)応募資格
(5)要求図面
(6)審査委員会の任務と構成
(7)審査
(8)最優秀作品の取り扱い
(9)審査結果の公開
(10)著作権
(11)報酬
(12)その他

補遺:指名設計競技方式等について

(1)指名設計競技方式
(2)その他の方式

参考:欧米の建築設計競技規準の概況

(1)調査概要
(2)各国の概要
(3)考察

指針作成委員


1.公共建築物に対する公開設計競技指針制定の背景・意義・経緯

 わが国の建築設計競技は,これまでの長年にわたる建築界の努力にもかかわらず,日常的に健全な形で根付いているとは言いがたい。

 公正で広く英知を集めることのできる公募による公開設計競技は稀にしか行われない。他方指名設計競技はある程度広い範囲で行われているが,指名が一部の設計事務所に安易に集中する傾向が著しいほか,選考をめぐってとかく不透明性が高いとの批判が後を絶たない。設計競技に代わる新たな方式として浸透してきたとみられる面接・ヒヤリング方式やプロポーザル方式なども,主催者および応募者への負担軽減の点では一定の効果を上げているものの,指名の偏りの解決にはならず,不透明性の点ではむしろその度合いを増す方向でさえある。

 ちなみにこの間わが国における設計競技の規範となるべき建築設計競技規準は1957年に3会(日本建築家協会・日本建築学会・日本建築士会連合会)によって定められていたが,報酬規定が問題となって1979年に廃止されたままとなっている。この時の規準は,後に1985年に4会(日本建築家協会・日本建築士会連合会・日本建築士事務所協会連合会・日本建築設計監理協会連合会)によって出された「入札によらない建築設計者の選び方−より良い公共建築をつくるために−」の中に,参考資料の一つとして,ほぼ報酬規定を削除しただけの形で収録されているが,いくつもの方式の中の一つの,しかも参考資料という形のため,設計の発注方式に対する影響力の弱さは否定し得ない。この冊子において,競争入札による設計者選定を嫌っていくつもの簡易方式を提示していることの意義は認められるものの,結果として,公正な公募による公開設計競技方式の位置づけが相対的に弱められた印象を与えていることも否定できない。

 本会は,こうした状況をふまえ,わが国の設計競技のあり方について現時点で改めて検討し直すこととした。まず,このための参考に資すべく,設計競技が日常的な形で定着しているとされる欧米の状況について各国の設計競技規準類を取り寄せ,わが国の状況との比較において検討した。

 本会は上記検討の成果をもふまえつつ,わが国の状況について総合的に討論を重ねた結果,いくつもの選定方式が入り乱れて混乱に陥っている感のある昨今の状況に照らして,設計競技とりわけ公開設計競技の持つ重要性を改めて確認した。同時にこの方式の幅広い普及をはかるためには,学会の立場において,運用面の簡便性と主催者および応募者の負担軽減に留意しつつ。改めて指針を作成する必要があるとの考えに到達した。建築設計はいうまでもなく文化的価値の創造行為であり,この創造行為が健全に機能し,文化的ストックとして絶えず新たな価値を生み続けるためには。有能なすべての建築人が等しくこの創造行為に参加し,公正な競争を通して新しいエネルギーを結実させる仕組みを日常的な形で定着させることが基本的に重要だからである。

 その場合,とりわけ重要なのは公共建築物であろう。不特定多数の人々に利用されること,公的資金により建設されることなど,その公共的な性格からみて,設計者の選定には格別の公正さが要求される。公募による公開設計競技方式は,その建築を設計するにふさわしい特定の建築家を指名し得る場合を除き,最も公正な方法として自治体等の発注方式の中に日常的な形で根付かなければならないと考える。このため本会は,公共建築物の場合にしぼってその指針を提示することとした。ただしここに提示する指針は,公開設計競技方式がとかく自治体等から敬遠されてきたこれまでの状況をふまえて,過去の規準類に必ずしも拘束されることなく,発注者側の立場にも極力留意するものとした。すなわち市町村等の発注する身近な数多くの公共建築への適用に十分留意し,公共建築の持っている性格の原点に立ち帰り,主催者ならびに応募者の義務と権利に留意しつつ,指針として真に必要な最小限の事項を定めたものである。したがって本指針は,その適切な運用により,規模の大小ならびに機能種別のいかんにかかわらず適用され得るものである。

 なお,民間建築物に対する設計発注はもとより自由な形で行われようが,事業主が設計競技を行う場合においても,本指針は参考になるものと考える。

2.公共建築物に対する公開設計競技指針

−公開設計競技の健全な普及のために−

(1)本指針を定める目的

 公共建築物またはそれに準ずる建築物は,建物のもつ公共性からみて,その建築を設計するにふさわしい特定の建築家を指名し得る場合を除いて,公募による公開設計競技方式を通して設計案(すなわち設計者)を選ぶことが最も公正であり望ましい。本指針は,公開設計競技方式が広く日常的に行われるようになることを願って定めるものである。すなわち市町村等の発注する身近な数多くの公共建築への適用に十分留意し,公共建築の持っている性格の原点に立ち帰り,主催者ならびに応募者の義務と権利に留意しつつ,指針として真に必要な最少限の事項を定めるものである。したがって本指針は,その適切な運用により,規模の大小ならびに機能種別のいかんにかかわらず適用され得るものである。

(2)設計競技の対象

 この指針による設計競技の対象は,国・都道府県・市区町村ならびに公共的性格を持つ事業体(公社,公団を含む。以下単に自治体等という)の発注する公共建築物とする。ただし修景設計・広場設計・団地設計等の都市デザイン的領域に対しても適用し得るものとする。

(3)応募要項の作成

 主催者(自治体等)は,設計競技を行うに際し,応募要項を作成し公開する。この要項には課題の趣旨・機能的要求・所要規模・工事予算・敷地環境等の諸条件,審査委員会の構成(審査委員名)ほか各種応募要件を明確に記載する。ただしこのうちの設計条件については,いたずらに詳細な要求を書き連ねて応募者の自由な発想を妨げることにならぬよう,内容を厳選することが望ましい。なお要項は組織される審査委員会または専門アドバイザーの承認を経ることを要する。

(4)応募資格

 公募による公開設計競技は,優れた案を広く募集する趣旨から,応募資格に関する制限は審査委員会などの関係者を忌避する条項以外は極力少なくすることが望ましい。
 ただし,あまり大規模でない建築物や,地域性をとくに重視したい場合に,応募者が設計競技の実施地域に居住または就業していることを条件に加えることは,地域に対する意味のある措置であり,応募者の公開性の排除とはならないと考えられ,差し支えない。
 なお,入選者として設言十監理の経験が不足する者などが選ばれる可能性に関しては,実務経験の十分な建築家との協同を義務づける条項を整備することによって対処するものとする。
 応募者は原則として応募要項の定める期間内に登録するものとする。

(5)要求図面

 設計競技において競われるべきものは課題に対する基本的な考え方ならびにそれに基づく構想の中味であり,その細部や図面仕上げ技術を競うものではない。
 この点から,応募要項において応募者に要求する図面等の種類・枚数・縮尺・仕上げ等は,課題に応えるのに必要最低限のものとしなければならない(例えば規模の大きい建築における平面図は原則的に1/500で十分であろう。また図面枚数も通常はA1判1〜3枚程度で足りよう)。模型の提出も原則として求めるべきではない。工事費の見積り書についてもこの段階で用をなすものを望むのは無理であり,求めてはならない(工事費予算への適合・不適合の問題は審査委員会による総合的な判断に負うものとする)。

(6)審査委員会の任務と構成

 審査委員会は応募案を審査し,その結果を主催者に報告する。またこれに先立ち主催者と協議して設計競技の応募要項を作成する。
 審査員は3〜7名程度が適当である。審査委員会には主催者や使用者の代表が入っても差し支えないが,半数以上は見識の豊かな外部の建築専門家等によって構成されることが望ましい。対象建築物の性質によっては,審査員とは別に特定の事項について専門的に検討し意見を述べることのできる専門委員をおくことが,設計競技以後の実施設計に当たってより的確な判断を得ることとなる。
 なお審査委員会は,公示後一定期間になされる応募登録者からの質疑応答にも当たる。

(7)審査

 審査は課題の性質に応じた評価基準について討議したうえで意見交換や投票によって行う。このとき審査委員会はあらかじめ公示した数の優秀作品若干点,佳作若干点を選出し,優秀作品の中から最優秀作品1点を選ばなければならない。
 審査は応募者の匿名性を保つ形で行うが,最優秀作品を決定する最終段階において,審査委員会が必要と認める場合には,優秀作品の提出者に対して面接を行うなどの方法を加えてもよい。

(8)最優秀作品の取り扱い

 審査委員会メンバーに主催者(発注者)側が参加している場合において,主催者は最優秀作品の設計者に実際の設計監理業務を委託しなければならない。審査委員会メンバーに主催者側が参加していない場合には,主催者側は審査委員会の選定した複数の優秀作品の中から実施案を選ぶ権利を持ち得るものとする。ただし,この場合には,その旨を応募要項中に明記するものとする。
 なお,いずれの場合でも,発注者側と設計者側の協議が断たれた形で作業が進められるという設計競技方式の特質に留意し,採択された設計案の内容については,発注者と設計者による協議によって必要と考えられる変更は認められるべきである。
 加えて,設計競技の結果,建設会社に所属する設計者の提案が最優秀に選定され,引き続き設計監理業務の担当者となる場合の措置については,公共建築の発注に公正を期すための条件を応募要項中に記すこととする。

(9)審査結果の公開

 審査結果は審査評とともに公開する。
 また少なくとも佳作以上の作品については,一定期間(最低1週間程度)一般に公開展示するものとする。

(10)著作権

 応募設計図等の著作権は応募者に帰属する。採択された案に基づいて実施設計を進めるにあたり,他の応募案の一部の採用が望まれる時には,当該応募者の同意を得て有償でこれを使用することができる。

(11)報酬

 主催者は優秀な設計案の応募者に対する報酬として,総額で対象プロジェクト総工費の1%前後(大〜小の規模に対応して0.5〜2.0%)の賞金を支払う。賞金の配分は最優秀案,優秀案(若干点),佳作(若干点)の順に傾斜配分する。ただし実施案に決定した作品に対する賞金については,その後に設計条件の変更がない限りにおいて設計業務報酬の内金として取り扱うことができる。
 主催者はまた,外部から招く審査委員や専門家に対して,重い責任に見合う十分な報酬を支払う。

(12)その他

1)二段階方式について

 大規模な設計競技において,二段階方式を採り一段階目では簡易な図面によって選抜し,選抜された若干案に対して二段階目で詳細な図面を要求するという考え方がある。しかしこの方式は,期間がかなり長期化することに加えて,二段階目において匿名性の確保が事実上困難になるなどの問題点があり,複雑で大規模な場合などを除いて一般には必ずしも推奨できない。(7)審査の項に記した最終選考における面接方式の導入を事実上の二段階方式と見なせばよい。

2)専門アドバイザー方式について

 設計競技をより公正に,より的確に運営するために,設計競技の企画に当たって,設計競技に詳しく,第三者の機能を期待できる専門アドバイザーを立てるのも良い方法である。その場合専門アドバイザーは,主催者・審査委員会・応募者のいずれからも独立した公正な立場の建築専門家または機関でなければならない。専門アドバイザーは,設計競技の実施に関わる専門的な指導を行うものとする。その際要項の作成や設計競技の実施条件の決定,審査委員の選考に協力するが,審査委員になることはできないものとする。なお主催者は専門アドバイザーに対して,外部審査委員と同等またはそれ以上の報酬を支払わなければならない。


補遺:指名設計競技方式等について

(1)指名設計競技方式

 指名設計競技方式は,あらかじめ課題にふさわしいとみられる人や組織を複数指名したうえで設計競技を行う方式であり,発注者にとって安心感の持てる方式とされ,しかも公開設計競技に比べて一般に短期間で事を運べるため,多くの自治体等で採用されている。専門性の高い施設の場合などには適しており,事実一定の効果を挙げている。しかしわが国の実情として,この方式にはいくつかの問題が見られる。

 第一に,設計者の指名が必ずしも適正に行われていないことが多いと思われることである。自治体等による指名は,多分に設計組織の規模や過去の実績量によるため,一部の設計事務所に指名が著しく集中する結果を招いている。このため過大な業務量が当該組織を疲弊させる一方で,中堅ないし若手の設計者には公共建築の設計の機会が与えられにくく,その健全な成長が阻まれる結果をも招いている。

 第二に審査体制に第三者(外部の建築専門家)を加えることなく,審査委員を明らかにしない場合が見られることである。選考過程等を含めて事後の公表さえ行っていない場合もある。競技の公正さは,審査体制の事前公表,ならびに審査評と全応募者の設計案の公明な発表によってのみ,応募者に保証されるものである。

 第三に参加報酬が過少であることが多い点である。自治体等の意志で指名をして設計作業を行わせる以上,業務に見合う報酬が当然支払われなければならない。

 以上をふまえ,指名設計競技方式を採る場合に,最低限改善すべき点は次の3点である。

 1)指名者の選定について,審査委員会または専門アドバイザーの意見を十分に徴すること。
 2)審査体制を公開設計競技方式と同じ水準に確立し,公開性を強めること。
 3)指名者に対する参加報酬として,総額で公開設計競技方式における賞金総額と同額を用意すること。

(2)その他の方式

 設計競技を行う余裕がない場合,これに代わる方式として面接・ヒアリング方式,プロポーザル方式,エスキス競技方式が挙げられている。前二者についてはその簡便性が買われて実施例が増えているようである。これらは競争入札方式に代わる方法として登場したものであり,その意味で一定の意味を持ってはいるが,事実上指名方式になるため前記問題点は解決されない。加えて設計案の提出を求めないうえでの審査では選考理由の客観性が説明されにくく,不透明感は一段と強いものとなりがちである。これらは特命方式におけるプロセスと考えるべきであり,競技に代わり得るものとはいえない。

 設計競技の簡略化を考えるのであれば,それに見合う報酬を準備したうえで,たとえ簡単なものであってもデザインのコンセプトを具体的な構想提案として求め,その内容の適否によって選考する設計競技としての形式を整えなければならない。

 なおこの他に,性能発注方式,事業コンペ方式なども登場しているが,別の機会の検討に待ちたい。


参考:欧米の建築設計競技規準の概況

(1)調査概要

 検討した欧米各国の建築設計競技に関する規準(ここでは「規準」としたが,各国によってその名称はまちまちである)は,次の8カ国のものである。
アメリカ(AIA)
カナダ(CCAC)
イギリス(RIBA)
西ドイツ(BDA)
フランス(住宅施設整備局)
スイス(SIA)
デンマーク(DAL)
スウェーデン(SAR)

  1. ()内は,制定機関を示す。
  2. 1990年10月,統一ドイツが誕生したが,ここで取り上げたドイツのものは,統一以前の西ドイツの建築家協会等による建築設計競技規準なので,出典を明らかに示す意味で,ここでは「西ドイツ」と表現した。

 ここでは各国の規準について項目別に比較を行うが,国別のまとめならびに各国の規準の出典については,前記「設計競技指針に関する検討報告書」を参照されたい。

(2)各国の概要

1)基本理念・歴史

 各国によって,設計競技規準の歴史はさまざまであるが,おおむね当初の規準の制定から数十年経ている国が多く,もっとも古いのはアメリカ(AIA)が1870年に発行した最初の「指針」である。
 なおここでは,設計競技に関する規定・規則・規約・基準・ハンドブック・指針を総称して「規準」と呼んだが,その拘束力や運用の実態は各国によって異なる。もっとも強い拘束力を持っていると思われるのは,カナダ・イギリス・西ドイツ・デンマークなどであり,アメリカとフランスはハンドブックまたは指針としており,強い拘束は感じられない。特にアメリカは,正しく設計競技が行われるように関係者を啓発することを目的としている。

2)主催者

 スウェーデンを除いて主催者についての限定はない。ただし,主催者となる者は競技を正しく運営しなければならないことを,ほとんどの国で明記している。スウェーデンでは建築家協会(SAR)やインダストリアルデザイナー協会などの特定7団体のなかの一つ以上の協賛を得た個人・法人が主催できるとしている。

3)対象物

 ほとんどの国では対象物に限定はない。ただし,フランスでは設計料が45万フランを超える建築物を競技の対象とするなど設計料と計画の規模で対象物を限定しており,西ドイツでは競技の対象領域(地方計画,都市計画,景観計画,空地計画,設備を含む内装計画,エレメント計画などの7領域)を提示している。
 また,アメリカの場合は,ハンドブックという性格上,競技を行うのが適当と思われる判断条件とともに,不適当な条件についても述べ,競技が適切に行われるよう丁寧に記述している。

4)競技種別

 フランスを除いて各国ほとんど共通の内容である。目的別に分類すると,プロジェクト競技(実施前提)とアイデア競技(必ずしも実施を前提としない)に分かれる。競技形式は,公開競技・指名競技,段階数では一段階競技と二段階競技がある。
 フランスは他国と違って,計画の規模や競技に求める成果物の精度によって競技を分類している。例えば,簡易競技(45万フラン〜90万フラン設計料相当のもの),素案競技(1/1000程度のプロットプラン,1/500の主要平面図),概略基本計画競技,公開競技(アイデア競技の場合が一般的),都市計画設計競技など。
 また,アメリカは概念が非常に明快に整理されており,何を目的にどのように競技を行うかという判断が得やすい。さらにイギリスの分類の中に「建築家と開発業者のための設計入札競技」(「事業設計競技」との表現もある。)とあるのは,日本でいう事業コンペにあたると思われる。

5)応募資格

 競技の種別によって応募資格は異なるが,デンマークやスウェーデンのように,基本的に自国籍および自国に一定期間居住している者に限定している国や,西ドイツのように原則として競技の行われる地域に居住している者としている国がある。
 アメリカ・カナダ・イギリス・フランス・スイスは,それぞれの競技ごとに資格を明示することとし,原則的な制限はない。
 各国すべてに共通しているのは,審査の公平を期すために,主催者,審査委員等競技の関係者の同僚・社員・家族などの参加を認めていないことである。

6)審査委員の構成

 各国さまざまであるが,およその人数を明示している国が多く,審査委員の主体が建築家であることは共通している。

 アメリカ:3名〜7名が適当。それ以上多いと十分な討論ができない。主催者や使用者の代表も加える。半数以上は建築家とし,対象によっては適当と思われる審査委員の職業を例示している。
 カナダ:3名〜9名で奇数。過半数が建築家。主催者も審査委員を出せる。
 イギリス:4名が望ましい。RIBAの会長と主催者より2名ずつ指名される。
 西ドイツ:7名〜11名の奇数。審査委員・予備審査委員と必要とされる有識者で構成。半数以上が建築専門家。
 フランス:10名程度。建築家が半数または1/3以上。
 スイス:主催者からの審査委員を排除しているのが他国にない特徴。
 デンマーク:3名〜9名で奇数。別に任命されている審査員団の中から選出。
 スウェーデン:参画する職業団体から選出された委員と主催者によって選出された委員からなる。全体の人数の規定はない。

7)提出図書

 各国共通して提出物を必要最小限とすることを要求しており,応募者の負担を軽減することがうたわれている。

 アメリカ:模型は白色でボリューム模型とすることが望ましい。
 イギリス:模型は提出物から除外するが,模型の写真の添付は認められる。
 フランス:模型の提出が義務づけられる場合は,その費用を補償する。
 スイス:アイデア競技の場合の縮尺1/500,プロジェクト競技の場合1/200。
 デンマーク:必要以上に大きいスケールの模型や工事費の概算の提出は求めない。

8)審査方法

 審査委員会は各国とも基本的に非公開で,あらかじめ作品の評価基準を明確にしておき,委員同士の意見交換や投票によって作品を選出する。

 アメリカ:主催者の期待する作品がない場合,審査委員会は最優秀作品を推薦しないことも可能。
 カナダ:条件に違反する応募案を除いて,全数展示して審査。多数意見で審査決定。
 イギリス:審査委員会が1点を選出する方法と,3点を選出し主催者が最終選択する方法とがある。
 西ドイツ:応募規程に反した応募案の中に良い作品があれば,順位決定後特別審査を行い,特別佳作とすることができる。審査委員会は,審査結果を主催者に対して「推奨」という形で文書化して報告するが,決定権は持たたい。
 フランス:最終決定する段階で面接がある。
 デンマーク:審査で意見が割れた場合は,少数意見を報告書に記載してもよい。応募作品の中から,1等当選者を選ぶほか,入選作品以外に価値ある作品があれば購入作品を推薦する。
 スウェーデン:投票により過半数で決定。同数の場合は審査委員長の票によって決定。

9)公開性

 入選作品の決定後の公開については,各国とも,公開展示の方法や日数,報告書の発行などについて規定している。

 アメリカ:公開展示の義務付けはない。展示する場合は設計者の許可が必要。報告書はすべての応募者に送る。また,すべての記録をAIAの競技公式記録係に送ることが必要である。
 カナダ:公開展示は必ずしも行う必要はない。審査結果は出版物として公開。
 イギリス:最低6日間の公開展示。報告書は応募者全員に送付。
 スイス:最低10日間の公開展示。
 デンマーク:最低8日間の公開展示。審査結果は,入選者ならびに作品が購入された応募者に知らされ,新聞と専門誌に掲載される。
 スウェーデン:かつては審査の前に公開して一般のアンケートをとったが,現在は事後公開。最低8日間公開展示し,審査報告も会場に展示。優秀作品は専門誌に掲載。

10)賞金・報酬

 賞金および報酬の額は国によってさまざまであるが,指名競技や二段階競技の第二段階に進む応募者に参加報酬が与えられる点は共通している。

 アメリカ:UIAの規定を引用して,競技の費用はプロジェクトの全費用の0.5%〜2.0%程度が適当としている。また。専門アドバイザーや審査委員の報酬の算定の考え方についても詳しく記している。
 カナダ:競技の報酬総額は企画設計料の2倍。その半分を1等当選者に,残りを他の当選者に配分。指名競技の場合,1等当選者に対しては,その参加報酬が実施設計の委託報酬に含まれることがある。
 イギリス:3案選出し,1等の賞金が決まると,2等は1等の半額,3等は1等の1/3。審査委員の報酬についてもふれ,一般審査委員の報酬は首席審査委員の1/3〜1/4としている。
 西ドイツ:基本設計料を基準に,賞金ならびに賞の数を算出したものが一覧表になっている。指名競技の場合,作業報酬:賞金=1:1。審査委員の報酬は日当額から算定する。
 フランス:数名程度を対象とした指名方式による素案競技の場合について応募者全員に労力の80%に釣り合う参加報酬を支払うことを推奨している。また,公開競技の場合は,その2倍程度の予算が必要としている。審査報酬は日当制で考える。
 スイス:SIAの規定に従う。賞金総額の記載なし。
 デンマーク:賞金総額は記載されていないが,1等の賞金額は賞金総額の半分。2週間以内に賞金が支払われる。DALからの審査委員には,審査報酬が支払われない。
 スウェーデン:競技にかける費用は建設費の1%程度で,その半分は賞金。

11)成果の取扱い

 原則的には最優秀作品は実施に移されるが,最優秀作品が実施されるとは限らない国(スウェーデン),最優秀作品を選ばない場合の扱いについて言及している国(アメリカ・スイス),実施されない場合や審査委員会の括薦に主催者が従わない場合には補償を受ける権利のある国(カナダ・フランス・スイス・デンマーク)などがある。また,多くの国で,入選作品以外の作品を購入できることとしている(アメリカ・西ドイツ・スイスなど)。

 アメリカ:最優秀作品がないと審査委員会が決定した場合は,入賞設計者に新しい案を作成する機会を与えるなどの代替案を推薦することができる。最優秀賞の獲得者が建築経験に乏しい場合,他の建築家やコンサルタントとの協力を,主催者と本人の同意を得て実施することができる。作品の公開にあたっては,いわゆる「公正使用の原則」に配慮し,カタログ出版のように,必要な場合は設計者の許可を得なければならない。
 カナダ:1等当選者に賞金のほかに実施設計業務を委託。2年以内に実施されない場合,主催者は1等当選者に相応の補償をする。
 西ドイツ:特別佳作への委託が状況によって実施されることがある。主催者の要望があれば,設計者は設計変更に応じなければならない。
 フランス:審査委員会が最良と認めて推薦した作品を主催者が実施しない場合,主催者はその理由を公にしなければならない。その場合,審査委員会は主催者に対し,最優秀の受賞者として推薦された応募者にその応募者が費やした費用の全額を補償することを勧告する。そのプロジェクトが実施されない場合も同様である。
 スイス:そのプロジェクトが10年以内に他の設計者に実施を委託された場合,最優秀賞を得た設計者は,SIAの規定に定められた報酬を加えた額を受け取る。また,最優秀作品が見当たらない場合,いくつかの作品について改良を求め,招待競技の形で実施することもある。
 デンマーク:原則として1等を実施するが,主催者が実施したくない場合は,1等入選者に100%の追加金を払えば採用しなくてもよい。また競技終了後2年以内に建設しない場合も,100%の追加金を支払う。ただし,その後1等当選者と契約した場合は,この金額の50%は業務報酬に含まれる。
 スウェーデン:入選作が実施に進むとは限らず,審査委員会の判断による。

12)その他

 アメリカ・カナダには設計競技に関する専門アドバイザーが存在し,明確で重要な役割をになう。
 専門アドバイザーは,競技の計画ならびに組織化をし,運営を成功させるために直接責任を負う個人である。このアドバイザーは,主催者・審査委員会および応募者の間を公明正大にとりもち,客観的に対処することのできる独立した建築家でなければならない。

(3)考察

 各国における建築設計競技に関する規準を通覧すると,公正に競技を行おうとする精神がすべてに共通して読み取れる中で,規準の形式・精粗・拘束力・運用形態などは,各国それぞれに建築設計行為に関わる歴史的経緯を反映して独自の展開をみせていることがわかる。規準という用語白体,基準・指針・ハンドブックなどと,さまざまである。わが国の指針づくりを考えるにあたっても,公正さの確立を基本に据えつつ,その内容については,国状に沿ったものとすべきことが基本的に重要なことと思われる。またその際,各国に共通している多くの要素については国際的にみて妥当なものと考えるとして,ここでは各国の規準において国によって顕著な隔たりをみせている事項などについて,その意味するところを考えておきたい。

 @応募資格:西ドイツにおいて「競技の対象となる地域に居住している者」との限定がある点は特徴であるが,この点は西ドイツの競技において市町村の再開発計画や修景計画等が対象として多いことに密接に関係しているものと思われる。すなわち街づくりはそれぞれの町の歴史と伝統に基づいて白治体の単位で行うべきである,とする理念が基本的に作用しているものであろう。

 A審査委員の構成:主催者を加えることを肯定しているアメリカ・イギリスなどと,大大半を建築家とし,しかも主催者側の審査委員を明確に排除しているスイスとが対照的である。建築の評価は主催者を含めて総合的になされるべきものとする考え方と,建築家を主体とした第三者のみが行うべきものとする考え方の相違であり,このことは主催者,審査委員ならびに応募者の権利・義務に関わる微妙な問題として興味深い。主催者側が決定に参加できない方式であれば,主催者は審査委貴会の決定に対して拒否する権利を持つことになると考えておくべきであろう。

 B審査方法:ほとんどの国で,応募規定に反した作品を排除している中にあって,西ドイツだけは,応募規定に反しても良い作品であれば,順位決定後の特別審査により特別佳作とすることができるとし,さらに実施設計者として選定する道をも残している。規定違反であっても注目に値する創意に満ちた作品について一定の顕彰をするという考え方までは理解できても,実際の設計委託への道まで残すとなれば問題を生ずるように思われる。
 フランスの場合,審査の段階において応募者との面接を行っている点が注目される。提出された設計案に対してその意図等についての確認を行ったり,匿名性を保つ形で進められる審査に対して生じ得る若干の不安を除いたりする意味で,最終段階においてであれば一定の意味をもつように思われる。
 イギリスの場合,最優秀作品を1点にしぼる方法と並列して,3点を選出して最終選択を主催者に任せる方式を用意しているが,この点もA項に述べた審査委員会と主催者の権利・義務の関係と関連して注目される。

 C成果の取扱い:最優秀作品について,スウェーデンではその実施が保障されていないが,それ以外の国では原則的に最優秀作品の実施がうたわれている。(ただし西ドイツでは,前記の特別佳作が実施作品になる場合もある。)加えて,デンマーク・カナダ・フランス・スイスなどでは,それが実施されない場合の補償措置まで明記されている。このことは,著作権について応募者に帰するとする一方で,1等当選案以外の作品の一部についても,これを買い取って使用することができるとする考え方が散見されることと相通じている問題のように思われる。

 D専門アドバイザー:アメリカ・カナダでは,主催者に競技運営の経験が乏しい場合,主催者に代わってその企画・組織化や運営指導を適切に行う専門アドバイザーが存在し,有効に機能している。競技の公正な企画・運営を保証するために第三者を立てる方式は,わが国においても今後育てていくべき一つの有効な方式であるように思われる。


指針作成委員

               
委員長 栗原嘉一郎
委 員 阿久井喜孝 小倉善明 岡田光正叶 篤彦
川崎 清 阪田誠造 戸尾任宏野村 歓
平川國一 穂積信夫 三井所清典由里知久