レポーター報告013

あじまの家

柳沢 究(名城大学准教授)


名  称 :あじまの家
設 計 者 :名城大学柳沢研究室
所 在 地 :名古屋市北区
用  途 :地域サロンおよびセカンドハウス
竣工年月 :2015年3月
階  数 :地上1階
構造種別 :木造
施工会社 :工作舎中村建築

名古屋市北区にある戦後ほどなく建てられたと思われる木造建築の改修です。この建物は宗教団体の本部兼住宅として使われてきましたが、長らく居住してきた施主の両親が他界したことで空き家となりました。かなり傷んではいましたが、長年地域に親しまれてきたこの建物を壊すに忍びないと考えた施主は、これをリノベーションし地域に開いたサロン兼セカンドハウスとして活用することにしました。

2013年7月から名城大学柳沢研究室にて実測調査および改修計画の立案・実施設計を行い、2014年5月から解体工事に着手、2015年3月に完成しました。施工にあたっては、地域に開かれた場所として様々な人に関わってほしいという施主の思い、またコスト削減や木造建築について学ぶ教育的効果への期待もあり、大工・中村武司氏の指導のもと学生が中心となって工事を行いました。

「あじまの家」は宗教的な場であるお堂を中心として、その周囲にはりつくようにL字型の生活空間が配置された平屋です。生活の変化に応じて改修を重ねてきた形跡が随所に見られました。お堂と比較的状態の良い部屋を除いた部分を改修範囲と定めて、以下の4点を改修の基本方針としました。

  1. ①細かく区切られた空間の統合
    細かく区切られていた部屋を一室空間として、多人数の集まる空間を設けました。中心となる小屋裏吹抜のホールにキッチンや土間、畳コーナーが接続します。
  2. ②お堂/改修部の関係の調整
    お堂への扉は普段は閉じられていますが、この建築の象徴的中心として改修部のどこからでもその存在を感じさせたいと考え、改修部とお堂の境界壁をすべて荒々しい土壁で仕上げました。そして、そこに両者をつなぐ大小の開口部を設けました。
  3. ③時間の蓄積の空間体験
    全体を一室空間としながらも、時期の異なる増築によって継ぎ接ぎされた空間の履歴を床高・天井高・仕上げ等の変化によって表現しています。また、改修前に使われていた材を様々な形で転用・再利用し、時間の痕跡を読み取れるよう配慮しました。
  4. ④大人数の学生が施工するからこそ可能となるデザイン
    素人である学生の施工は作業効率や精度の点では不利ですが、熱意さえあれば時間と手間は惜しみなくかけられます。ここでは床面積50㎡たらずの工事に約1年の時間を費やしました。
  • ○ホールの天井
    比較的状態が良く再利用可能な材(フローリング、畳下地板、天井板)を丁寧に剥がし洗浄した後、一枚ずつ丸太に合わせて加工し貼りあげました。
  • ○土間のコンクリートタイル
    上足でも使用するためより滑らかな質感を追求し、大学の設備を使用して試作を繰り返しながら、艶のある大判のコンクリートタイル(1600×240×60mm、重さ70kg)を打設し敷き詰めました。
  • ○左官仕上げの多用:
    左官仕上げは、特に高い精度を求めなければ素人でもある程度の施工が可能ですし、大人数での作業にも適しています。 お堂周囲の大壁面の土壁は、塗り継ぎが生じないよう13人がかりで1日で塗りあげました。
  • ●Facebookの活用による現場状況の共有
    「あじまの家」現場集合写真集(柳沢研究室@Facebook)https://goo.gl/xSdY0E
    「あじまの家」の工事は約20人の学生が交替で行ったので、毎日の工事状況や施工上の注意点・反省点などをFacebookを用いて現場レポートとして作成し、研究室・施主・施工者を交えて共有していました。このことが、学生による施工にまつわる施主の不安感の解消や、多人数によるスムーズな作業の連携、長期におよぶ施工期間中の学生のモチベーションの維持などに、少なくない貢献をしていたと感じています。リンク先の集合写真はそのレポートの一部です。写真の背景からは工事がだんだん完成に近づいていく様子がわかります。

あじまの家 あじまの家
あじまの家 あじまの家
あじまの家 あじまの家
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あじまの家

撮影:笹の倉舎 / 笹倉洋平 http://www.sasanokurasha.com/

柳沢 究(やなぎさわ・きわむ)

1975年横浜市生まれ。建築計画・建築設計・インド都市研究。名城大学理工学部建築学科准教授。1999年京都大学工学部建築学科卒業。2001年同大学院修了。2008年一級建築士事務所究建築研究室代表。2012年から現職。受賞:第5回地域住宅計画賞(2010)、第1回京都建築賞入賞(2013)など。共編著に『生きている文化遺産と観光』(学芸出版社、2010)、『初歩からの建築製図』(学芸出版社、2014)など。