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わが家の耐震 −RC造編−

2. 鉄筋コンクリート造建物の地震被害


2.1 地震被害と設計基・規準の関係

日本における建物の耐震設計法は1923年の関東大震災の翌年に改正された市街地建物法にはじめて採り入れられました。その後,1950年に建築基準法が公布されて以来,数度の大地震による被害経験を踏まえて改正され,現在に至っています(表1)。

         表1 耐震設計基・規準の変遷

    1950   建築基準法公布
            許容応力度設計
            水平震度:K=0.2
    1968   十勝沖地震(M7.9)
            RC短柱のせん断破壊
    1971   建築基準法施行令の改正
         日本建築学会RC規準の改定
            せん断補強筋間隔の狭化
            最小せん断補強筋量の採用
            設計用せん断力の割り増し
            曲げ降伏先行の概念の導入
    1971-77  建設省総合技術開発プロジェクト
    1977   新耐震設計法の提案
    1978   宮城県沖地震(M7.4)
            たれ壁・腰壁付き柱のせん断破壊
            非構造壁のせん断破壊
            耐震壁の偏在した建築物の崩壊
    1981   建築基準法施行令の改正
         (新耐震設計法の採用)
            一次設計と二次設計
            じん性に応じた保有水平耐力
            剛性率・偏心率
            変形制限


1968年の十勝沖地震では,鉄筋コンクリート造建物において,写真1に示すように柱が極めてもろく破壊する,いわゆるせん断破壊が数多く発生しました。柱にせん断破壊が生じると,ある階全体が瞬時につぶれる恐れがあるので,人命確保の観点からも必ず避けなければなりません。そこで,1971年の建築基準法の改正および日本建築学会の鉄筋コンクリート構造計算規準の改定の際には,そのようなもろいせん断破壊を防止するために,帯筋の間隔を狭くしたり,たくさん入れるようにせん断設計の方法が強化されました。


写真1 短柱のせん断破壊

1978年の宮城県沖地震の際には,写真2に示すようなたれ壁と腰壁が上下についた柱のせん断破壊や,写真3に示すような非構造壁のせん断破壊が問題になりました。たれ壁や腰壁の付いた柱は,壁によって柱端部が拘束され強くなりますが,同時にもろいせん断破壊を生じやすくなります。また,非構造壁の破壊は,ドアや窓の開閉機能に支障をきたす場合があり,地震時に屋外へ避難する際の妨げになる可能性があります。


写真2 たれ壁・腰壁付き柱のせん断破壊


写真3 非構造壁のせん断破壊

これらの大地震による建物被害の教訓を生かし,さらにそれまでに蓄積された耐震工学に関する研究成果に基づいて,1981年の建築基準法改正の際には,耐震基準が大幅に見直され,現行のいわゆる新耐震基準となりました。この基準では,まず,よく起こる強さの地震に対しては建物の被害が軽くてすむことを目標にしています。しかし,建物の寿命の内に一度起こるかどうかという強さの地震に対しては,建物にある程度の被害が出てもいいが,建物の中もしくは周辺にいる人に被害が出ないようにすることを目標にしています。つまり新耐震基準の目標は,地震によって建物がこわれないようにすることではなく,「建物を使う人の安全を確保する」ことと言えます。

図14は兵庫県南部地震で大きな被害を受けた神戸市中央区内のある地域の鉄筋コンクリート造建物を建築年度別に分類した調査結果を示しています。これを見ますと,1971年以前,1972年から1981年,1982年以降と年代を追うごとに被災棟数が急減しているのがわかります。特に,その傾向は倒壊または崩壊,あるいは大破と判定された建物に顕著に現れています。このように,耐震設計基・規準の改正によって建物の耐震性能は飛躍的に向上していることがわかります。わが家の耐震性能をチェックする際にも,どの時代の基準で設計されたものかが一つの目安となると考えられます。


図14 建築年代と被害建物の関係
[*1]

 

2.2 地震による建物被害の特徴

一般に地震による被害は,建設年度の古い建築物ほど大きな被害が生じていますが,小さな被害にとどまった古い建物も多くあります。心配するよりもまず耐震診断を行って,建物の耐震性能を理解することが大切です。
これまでの大地震において,鉄筋コンクリート造建物に見られた典型的な被害の例を以下に示します。

(1) ピロティがある建物の被害

駐車場として使われるマンションの1階のように,他の階に比べて極端に耐震壁が少なく,ほとんど柱だけで建物を支えている階のことをピロティといいます。ピロティには地震抵抗力の大きな耐震壁が少ないわけですから,設計には適切な配慮が必要です。兵庫県南部地震で鉄筋コンクリート造の共同住宅に最も多く見られた被害は,ピロティの被害です。写真4は,ピロティの柱が完全に壊れ,建物の1階が落階して自動車を押し潰してしまった例です。
現在の耐震基準で設計された鉄筋コンクリート造建物のうち,兵庫県南部地震によって大破以上の被害を受けたものが十数棟ありましたが,そのほとんどが写真5のようなピロティの柱の被害です。


写真4 ピロティの被害
[*1]


写真5 現在の耐震基準により設計された建物のピロティの被害
[*1]

 

(2) 中高層鉄筋コンクリート造建物の被害

中高層の共同住宅としてよく見られる形式で,下層部が店舗,上層部が住戸となっているものが多くあります。一般に,住戸部は壁が多く配置されていますが,店舗部は比較的壁が少なくなっています。このような建物では,地震の揺れによる変形が壁の少ない階に集中し,大きな被害が生じることがあります。設計には適切な配慮が必要です。写真6の建物では,3階の店舗部が層崩壊を起こしています。


写真6 店舗部の層崩壊

 

(3) 壁が偏在した建物の被害

壁が平面的に偏って配置されると,建物にはねじれるような力が作用し,壁が少ない部分の柱が大きく振られて破壊してしまうことがあります。これを避けるには,建築物の柱や壁は,各階とも平面的にバランス良く配置する必要があります。写真7は角地に建つ建物で,道路に面する部分にはほとんど壁がありません。そのため,地震によって道路側の柱が大きく振られて破壊し,建物が道路側に傾いています。


写真7 壁が偏在する建物の被害

 

(4) 壁式構造の鉄筋コンクリート造建物

低層共同住宅の代表的な構造形式である壁式構造は,高い耐震性を有しています。写真8は,兵庫県南部地震で被害が集中した地域に建つ,4階建ての壁式構造による共同住宅ですが,構造的被害は生じていません。


写真8 壁式構造の共同住宅
[*2]

 

(5) 基礎構造の被害

建物の基礎は,建物自身の重みや地震の揺れによって建物に加わる力を地盤に伝える重要な構造体です。鉄筋コンクリート造建物では,規模,構造形式,地盤条件に応じて,直接基礎,杭基礎といった基礎形式が採用されています。建物の地上部は軽微な被害しか生じていないのに,地中の杭が被害(写真9)を受けたために,建物自体に大きな傾斜が生じることもあります。


写真9 杭の被害


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