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市民のための耐震工学講座

12. 木造の被害


 今回の地震では約18万棟もの建物が全半壊し,その多くが木造住宅でした。警察の発表によると,5,000人をこえる死者のうち,圧死が89%,焼死が10%となっています。このうち,大部分の方が木造住宅の下敷きになって亡くなったものと思われます。では,なぜこのように大きな被害となったのか,木造住宅の被害の例を見ていきます。

地震の水平力を受け持つ部分の被害

 地震の力に耐えるには,「地震に対する建物の構造」で説明したようにすじかいや合板張りの壁などの耐力壁を適切に用いることが重要です。この耐力壁はつくり方により受け持てる耐力が違い,それは「倍率」で表されます。倍率が大きいほど強い耐力壁と言えます。また,住宅の設計では「必要壁量」が法律で決められていて,(耐力壁の倍率)×(その耐力壁の長さ)の総計が決めら必要壁量以上にならなくてはなりません。

 今回の地震では,耐力壁の不備による被害が,特に「在来木造」で見られました。

耐力壁の量の問題

 倒壊した住宅の中には,耐力壁がほとんど入っていないもの(写真32)がありました。入っている場合でも,量が足りなかったり,一方向にしか入っていなくて被害を受けているものが多く見られました(写真33)。きちんと入れておけば耐力壁はそれなりに働くのです(写真34)。


写真32 すじかいの入っていない住宅


写真33 一方向にしかすじかいの入っていない住宅


写真34 すじかいの入っていた住宅

耐力壁の質の問題

 すじかいが入っている場合でも被害は見られました。柱や土台とのつなぎ方が,適切でない場合や,すじかいに充分強い材を使っていない場合です。これらの場合,すじかいは耐力壁としてほとんど働いていません。すじかいには地震の水平力によって,引張力と圧縮力がかかります。そのため,柱や土台とのつなぎ目をしっかり留めつけて,カを確実に伝える必要があります。しかし,多くの場合,釘で打ちつけただけです。これでは引張で抜けやすく,抜けた後に圧縮されると土台を踏み外してしまいます(写真35)。

 このため,つなぎ目は留め付け金物を使って頑丈にしておく必要があります。しかし,金具の値段やその取付工事費がかかります。そのために,「安く」住宅をつくりたい場合には留め付け金物は敬遠されることになります。しかし,長い目で見ると留め付け金物への投資は決して「高くない」はずです。

 写真36のような,すじかいの座屈も見られました。これはすじかいの材料の強さが地震の力に見合うほどはなかったためです。すじかいの厚さが薄い場合や,すじかいに古材を使っている場合がそうです。住宅全体に使う木材の量からすればすじかいに使う木材の量はそれほど多くはありません。しかしそのすじかいの材の質によって,地震に対する住宅の強さはかなり違ってくるのです。


写真35 土台を踏み外したすじかい


写真36 座屈したすじかい

耐力壁の配置の問題

 耐力壁が必要壁量以上あっても,その配置をバランスよくしておかないと,被害にあうことがあります。写真37の住宅がそのような被害を受けました。図44の平面図を見ると,壁が右上の方かたよっています。このため地震の力を受けると,図で言うと下の方が大きく揺れます。そしてその部分の部材が大きく変形してこわれて,倒壊してしまったのです。

 また,一方向に対してしか壁がないと,「地震に対する建物の構造」で説明したように,両端の面を取り除いたティッシュ箱のようにこわれてしまいます。逆に,地震の揺れが一方向で,その方向だけ対する耐力壁しか入っていないのに,運良く残っている住宅も中にはあります。

 あと,一つの壁だけ強くつくるのも,その壁に責任が集中するのでよくありません。


写真37 耐力壁の配置のバランスが悪かった住宅


図44 写真37の住宅の1階平面図

非構造部の問題

 耐力壁だけでなく,間仕切の壁や腰壁(こしかべ)などの「非構造部」の壁も重要です。住宅の必要壁を決める前提条件では,非耐力部の壁が住宅全体の水平耐カの3分の1を受けもつということになっています。つまり,必要壁量を確保すればそれ以外は壁をつくらなくてよいというわけではありません。このことは,先ほど説明した耐カ壁のバランスもあわせて考えると理解できると思います。

不適切な基礎構造による被害

地震の力を受けたときに,基礎が耐えられなくてこわれて被害を受けた建物も見られました。原因は,基礎の断面の形が不適切であったり,基礎に鉄筋が入っていなかった(写真38)りしたためです。


写真38 鉄筋の入っていない基礎

土台と基礎のつなぎ目

 地震による力を地面に伝えるには,土台と基礎を確実につないでおく必要があります。それには,アンカーボルトという金具がィ吏われます。しかし,アンカーボルトで土台と基礎を十分につないでなかったために,転倒してこわれた住宅も見られました。写真39では,角の柱がはずれています。こうなるとすじかいからの力を基礎に伝えることが出来ません。


写真39 つなぎ目が外れた被害20)

木材の腐朽・蟻害による被害

 今回の地震で被害を受けた地域には古い木造住宅が多くありました。そして,雨漏りなどで土台や柱が腐朽した(写真40)ものや,白蟻などによって土台や柱が,侵食された住宅に被害が見られました。土台や1階の柱が,腐朽や蟻害を受けると,地震の力を地面に伝えることができずに倒壊してしまいます。


写真40 木材の腐朽


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