建設企業における技術開発の経済

ジョージ・シードン著/岡本 伸 訳


目 次

訳者まえがき
1. まえがき
2. 過去および現在の建設分野における傾向
3. 経済成長と知識
4. 建設におけるR&Dに関する収益率の社会的な評価
5. 建設商品および知識の一般的な属性
6. 研究の組織
7. 研究への投資
8. 結論
9. 謝辞
参考文献
付録
  1. 技術開発に対する市場のインセンティブの不十分さ
  2. 研究組合
  3. 産業課税
  4. 課税/補助金システム
  5. 日本の経験からの教訓

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訳者まえがき


 本報告書*1は,1995年5月にオランダのアムステルダムで開催さ れた第13回CIB世界建築大会での著者*2の講演原稿を,CIBの 理事会メンバーに配布し,各国からの意見を求め,それらを付録として 纏められたものである。日本の建設業の研究・技術開発能力の高さは世 界でも異例のことであり,建設市場の国際化を迫られている現在,日本 の建設業がその研究・技術開発能力を生かして,どのような方向に事業 を展開していこうとしているかは,世界中から注目されている。本報告 書は,著者シードン氏が,建設業における研究・技術開発の役割を,広 く世界を俯瞰して,経済学的観点からから分析したものであり,日本の 研究機関あるいは建設業が21世紀へ向けての進路を模索するに当たっ て大いに参考になるものと思う。

*1 ECONOMICS OF TECHNOLOGY DEVELOPMENT FOR THE CONSTRUCTION INDUSTRY

*2 George Seaden

 ジョージ・シードン氏は,1985年以来カナダ国立研究審議会,建設 研究所(IRC-NRC)の所長をつとめている。カナダの建設技術を主導する このセンターは50年の歴史を有し,世界の建築研究機関でも最高位に 位置している。250人の高度に熟達した,技術者,科学者およぴ他の 建設の専門家を有し,彼等は,国家建築規準,国家火災規準,新しい工 ネルギー規準あるいはその他の関連文書などのカナダのモデル建築規則 を作ったり,室内の空気の質,建築材料,火災安全性,都市のインフラ, およびその他の分野における厳しい間題を解決するのに必要な研究成果 を提供したりあるいは新しい商品の市場への参入を容易にするための評 価サービスを提供したり国内および国際的な情報源から企業へ技術を提 供したりしている。

 シードン氏の長い顕著な経歴には,CIB会長としての3年間および建 設技術および実施のための高名な国際公開フォーラムなどを含む。また, 彼はカナダの最も革新的な建設プロジェクトおよぴ最も優れた工学デザ インを選ぶ審査員をつとめてきた。彼は各種の会議において建設問題あ るいは研究管理に関する国際的に著名な基調講演者でありまた米国 の”Construction Buisiness Review”およぴ英国の”Building Research and Information” の編集委員である。シードン氏は英語,仏語および日 本語に翻訳された”Trends in Building Construction Worldwide”の共 著者を含む多くの技術的な出版物の著者である。

 シードン氏はIRC-NRCの所長に就任する前には,トロントおよぴモン トリオールにあるコンサルタント会社の社長をしていた。氏の初期の経 歴は,カナダおよび海外における構造設計および材料試験の分野であっ た。

 シードン氏はマックギル大学で工学士を,ハーバード大学で工学修士を 取り,ノースウエスタン大学の高級経営学を終了している。氏はオタワ 大学の客員教授をつとめてきており,アラスカ大学からフロリダ大学に およぶ広い学術研究所で建設に関連した話題について講義を続けている。

 氏はカナダ政府に建設関係の間題に関する助言をする各種委員会に参画 し,各種国際会議でカナダの代表をつとめている。氏はまた幾つかの専 門グループのメンバーでありケベックとオンタリオにおける設計実務者 としての資格及び英国の土木技術者資格をもっている。


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1.まえがき


 本論文の目的は,OECD諸国の建設業が現在直面している制度的な挑 戦に,これらの間題をより広い経済的な文脈に置くことによって光を当 てようとするものである。技術の重要な役割,および革新を育む制度的 な枠組みの必要性に関する文献は沢山ある。この文献は建設部門にとっ て重要であり,産業部門が現在抱えている問題を解決しようとする我々 の努力に対して何らかの方向性を与えてくれる。

 この論文の焦点は工業的に発展した国に限られる。工業化された諸国の 間においてさえ,所得と財産,建設された財産の質と量,建築ストック をさらにふやす必要性,および建設業の技術の相対的精級化などにおい て著しい違いがある。それにもかかわらず,一般的な観察が可能である。

 このことから生ずる一般的な構図は,主要な企業が,需要および新技術 の源を政府に頼っていること,そしてそのことが新しい製品や製造方法 の開発に投資する事に対してほとんど圧力を感じなかったことにつなが る。

 しかしながら,この状況は変わりつつある。企業がその営業を改善し技 術的により進んだそしてより効率的な体質になるようにとの圧力が多く の異なった源から生じつつある。同時に,政府は公共部門の需要及び優 先順位の変化により企業を支える信頼できる財源ではなくなりつつある。

 次章において経済的な環境条件の変化について詳細に考察することとす る。この議論から得られる結論,すなわち企業が知識の開発および技術 の革新により多くの資源を振り向けなければならないということは,経 済学者が他の産業およぴ経済が一般的に直面している挑戦を観察して得 た結諭を反映している。このより広範な文脈は第3章で要約して述べる。 続く章では市場のインセンティブが必要な知識の開発になぜ信頼を置き 得ないかについてふれる。革新を育てる問題に多少とも光を当てている 経済の文献について述べる。経済的な枠組みを用いることによって現在 の制度的な構造の欠陥及び建設分野における社会的に望ましいR&Dを 推奨するという問題に,見通しがつけられるようになる。続く二つの章 では問題をいかに改善するかの考察を行う。必要な新しいメカニズムの 性格については第6章で考察し,3つの代替的な解決手法が第7章で考 察される。本論文の結論は第8章に示されている。


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2.過去およぴ現在の建設分野における傾向


 建設企業は劇的な変化の期間のまっただ中にいる。戦後のほとんどの期 間を通じて企業の成長を支えてきた力は,大幅に拡散しつつある。市場 環境の変化を調整している間に,企業は新設の建築物に対する多くの他 の重要な社会経済的環境条件の変化に直面せざるを得なくなっている。

 第2次世界大戦後いくつかの出来事は工業国における新しい施設にたい する膨大な需要を生み出した。北アメリカにおいては,大恐慌と第2次 世界大戦にわたる1930〜1945年の期間に鬱積していた需要が結 果として供給が追いつかない建築需要の蓄積を生み出した。ヨーロッパ や日本においても戦後建設需要が生じた。これらは,墓本的なシェルタ ー,都市のインフラ,学校や病院のような公共建築物を含んでいた。さ らに1945年と1985年のあいだのある時期にはすべてのOECD 諸国では,人口統計を反映してベビーブームの効果が見られた。 戦後まもなくの間は,建設製品の需要が供給を上回っていた。そして供 給は当初利用可能な労働力及び材料によって制限されていた。戦後直後 の需要が満たされると,需要は,人口の増大,ベビーブーマーたちの, 新しい学校,病院,そして居住施設の増大するストックに対する要求 などによって満たされた。急増する需要からくる圧力,すなわち,戦後 の再建とベビーブームは,OECD諸国の建設企業を戦後の10数年間 にわたって急速に拡大させた。

 この,強い登り基調の需要の期間,建設市場は生産物の品質においては ほとんど差のない価格競争によって特徴づけられる。建築業者は,政府 の法律によって確立された材料及ぴ建築の標準をもとにした大規模な一 様の技術を採用した。これはある程度基本的な市場の欠陥を反映したも のであった。というのも,購入者は政府の基準によって提供される保護 に頼らざるを得ず,一般に建築の品質を評価することに関する惰報や知 識が不足しており,建設業界においては技術開発に投資するインセンテ イブがほとんどなかった。業界は技術革新に投資するよりもむしろ急速 に増大する新設構造の需要に適応するために業績の拡大によって利潤の 最大化をはかった。

 1980年代の後半までには,建設業の市場は多かれ少なかれある均衡 状態に達していた。OECD諸国における新築住宅に対する需要はより 控えめな成長の軌跡に移った。それでもなおいくつかの野心的なプロジ エクトがヨーロッパや北アメリカで実行されていたが,インフラに対す る公共投資は,それ以前の数十年に比べて著しく弱くなった。このよう な経済環境の中で,建設分野は種々の,しかし等しく手強い一連の挑戦 に直面している。

 最初に,企業はより知識を持った識別能力のある消費者の期待を満足さ せるという圧力の元にさらされている。多くの国は建設企業の成果物に 対する消費者の不満を報告している。我々が目撃しつつあるのは,多分 市場の構成の変化の影響,即ち,構造物の更新あるいは修復・機能回復 などに対する需要が初めての購入者からの需要を上回るようになってき たのである。構造物の更新あるいは機能回復の需要は価格に対して又 より高い品質の製品を合理的な価格で手に入れることに魅惑される将来 性のある購入者に対してより敏感である,従って,技術に起因する問題 たとえば製品の耐久性,システムの挙動および運用・維持のコスト(ラ イフサイクルコスト)などが注目されることになる。

 第2に,政府は,他の分野におけると同様に,建設における,"貨幣の より高い価値"及び公共構造物の利用に対して努力することを強いられ ている。これは既に取っかかりにおいて重要な変化をとげている。英国 およびいくつかの米国の都市の水関係の施設は大きな,主としてヨーロッパ の運営代理店にリースまたは売却された。ヨーロッパに永く存在し ていた私営の高速道路は今では米国においても建設されている。私的な 資本によって運河が建設され,私的に運営されている。カナダの主要な 空港は独立非営利の運用機関に移管された。建設企業にとって,このよ うな展開は,新しい可能性を意昧するが,同時にこれらの主要なプロジ ェクトが経済的に成り立つようなコスト縮減技術を見出すという圧力が 増大する。伝統的な設計施工一貫のプロセスに比べて,新しい金融及び プロジェクト引き渡し計画,例えば,建設・所有・運営・譲渡(BOOT) などのような場合には,新しい技術を適用しようという,より大きなス コープとより大きなインセンティブをあたえる。

 第3に,建設市場は経済活動のグローバリゼイションの一般的傾向に影 響されている。工場における建築生産部材は既に増大する競争的なグローバル な市場の影響を経験している。工場における供給側の製造者に対 して,最も効率的な外国の製造者の標準に性能を合わせるために増大す る圧力がかかっている。オーストラリア,イギリス,アメリカおよぴカ ナダにおけるいくつかの研究は,より早くより高い品質でしかもコスト を30〜50%低滅した建設施設を供給できる可能性があることを指摘 している。これらの研究では,このような結果を得るためには,大幅な リストラが必要であることを指摘している。工場の現行の低い性能は, より進んだシステムと方法の欠如および製造者のなかでの技術に対する 認識の相対的レベルの低さが部分的な原因であり得る。

 そして最後に,建設分野は,より厳しい環境的な要求に直面している。 規制としての要求を満たすだけでなく増大する環境に対する大衆の要求 を満足させるために,企業は,エネルギーや水の節約,廃棄物のリサイ クル及ぴ再使用,そして騒音,塵挨,煙などの減少などといったことを 実現するより進んだ手法を開発しなければならない。

 これらの展開に横たわる共通の要素は,新しい知識が必要とされている ということである。より要求の多くなってきている消費者を満足させる ための企業の能力は,同時に財政的に厳しくなってきている政府の要求 を満たし,国際的な競争に応え,改良された技術の進展に応じて厳しい 環境的な基準を満たさなければならないということになる。


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3.経済成長と知識


 建設市場が時間とともに主要な変化をとげ,これらの変化に企業が対応 して行くための重要な役割を技術が担うようになるとともに,技術の絶 えざる改良が必要になるということはなにも建設分野に限ったことでは ない。技術的な変化が経済成長および全体的な生活水準の改善を絶えず 生み出していく国力のために必要不可欠であることは,経済学者によっ て長年に渡って認識されてきたことである。建設分野が直面している変 化は全ての国が直面しているより広い挑戦,即ち知識の発展と継承の絶 えざる成長のための条件をどのように確立していくかということの一つ の局面にすぎない。

 カナダの James Bay 水力発電コンブレックスあるいは北海の石油採 掘プラットホームなどに比べてベルサイユ宮殿あるいはスエズ運河など の大きなプロジェクトの建設のほうが,どれだけ多くの労働力と時間と 資本のストックを要したかは明らかである。明らかに技術はこのような 大プロジェクトのコストと負荷を滅らすことを可能にしてきた。  技術的進歩が果たしてきた主要な役割は経済成長の源の理論的及び経験 的な研究から明らかにされている。経済学者の技術の変化の重要性に関 する初期の考察のいくつかは Robert Solow 等によって展開された新 クラシック成長モデルにおいて当初公式に説明されていた1)。これ等 のモデルにおいては一国の生産高は生産技術の総計及びその国の資本の 蓄積と供給労働力に依存する。設備における改善なしに投資によって単 純に得られる利益には限界があり生活水準の持続的な向上には技術の改 良が必要であるということをこれ等のモデルは示している。

 一つの例として,Solow は1945年までの40年間の米国のデーター を彼のモデルに入れることによって,技術の進歩は一人の労働者の生産 量として計測された成長の4/5に当たることを見出した2)。成長を 考慮したフレームワークを用いたその後の米国の研究は,実際の影響は ソローが予測したよりは一般に少ないと言われているが,技術の進歩の 果たす重要な役割を証明した3)。成長を考慮した研究は,また,技術の 進歩における差異は1960年代初期におけるヨーロッパの労働者に比 べてアメリカの労働者の著しく高い生産性を大変良く説明するものであ る4)

 新古典的モデルは,技術的進歩に焦点を当てているが,それは新しい技 術を,科学的なブレイクスルーの偶然な帰結として扱っている。高度に 組織化されまた大変費用のかかるR&Dの過程を良く知っている多くの ものにとっては,手当たり次第”お好みランチ”的概念は理解しがたい。 Paul Romer や Robert Lucas 等のより最近の成長理論は技術変化 のブラックボックスを解明しようと試みている5)。この新しいモデルは 新古典的生産関数から始まってそれにどのように技術進歩が生じるかに 関する理論を付け加えている。Romer が説明しているように,我々にと って,より経済的な価値を生み出す−そしてそれによって経済成長を生 み出す−唯一の方法は我々が利用できるものをいまだかってないほど効 果的に利用する方法を見出すことである。建設においては,これは材料 を組み立てる,より巧妙な方法あるいは部材や仕上げ材のための新しい システムを発見することである。これには知識の開発が必要であるが, 知識はただではない。経済は知識の開発のために支払う現行の消費をな しで済ませなければならない。経済成長は国が機械に投資すると同様に 知識の開発に投資する事を要求する。建設企業にとってR&Dを投資と して扱い,そのコストの全てを支払おうと試みることは,困難な考え方 である。

 技術の進歩の重要性の確証は,経済の文献の他の場所にも見出すことが できる。例えば,ミクロ経済研究の多くの部分は,種々の企業あるいは 工場の性能に関して変革の重要性−R&Dあるいは知的財産に対する政 府の施策−に言及している6)。経済歴史家達は,産業革命に拍車をかけ た新しい技術の役割7)およぴ1800年代初期からの技術の進歩とア メリカの経済成長との関係を調べた8)。最近の経済評論ノートの著者 達と同様に,我々を取り巻く確証がある。今日の成長のエンジンとして の技術の役割の果たす意味を捉えるためには,次のことについてよく考 えて見さえすればよい。前世紀の成長挙動が,電気の発電およぴ音を運 ぶラジオなどの発明あるいは改良がなかった場合にまた,鉄を精練する 新しい技術の Bessemer による発見がなかったとしたら,そして自動車 や飛行機やトランジスターや集積回路やコンピューターなどの製品の開 発がなかったとしたらどのようなものになっていたであろうかというこ とである9)。同様に,1800年代の後半に鋼構造物およぴ効率的な エレベーターの発明がなかったとしたらどのようになっていたであろう かということを十分考えてみる必要がある。この二つの発明は高層の建 築物つまり魔天楼の建設を可能にしそれが,近代の都市の密度を変容し われわれの都市域における住み方を変えたのである。

 建設企業にとって,新しい技術のフローの直接的な利益の一つは,材料 や労働カコストによる,価格の上昇圧力を相殺することである。後者, すなわち労働力のコストは,OECD諸国で特に顕著であり材料のコス トが環境間題から上昇する一方,労働力の高齢化は建設労働者に,より 高い賃金を要求することを許容しつつある。生産性の向上で価格の上昇 を埋め合わせる技術の改良がなされなければすべての建設価格は上昇す るであろう。


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4.建設におけるR&Dに関する収益率の杜会的な評価


 知識を増大させる活動に投資することから得られる社会的および私的な 収益率の間にはギャップがあるので,市場は必ずしも最適な生産あるい は知識の分配の方向にいくとは限らない。

 私的な収益率はR&Dを実行する企業あるいは組織によって実現される 利得に帰するが,一方社会的な収益率は,消費者や他の生産者に流れる ものを含んだ全利益をもとにしている。この分野における経験的な研究 によれば,R&Dは組織がそれを実行することによって得られる私的な 収益率よりもはるかに大きい福祉の改善を生み出す傾向にあることが分 かる。最近の研究は,R&D10)に投資している企業以外のものを利す る益出効果(公共支出による間接効果)を計測する問題の幾つかを述べ ている。しかしながら,このような益出効果は十分に大きいという一般 的なコンセンサスがあるということが見いだされた。R&Dの経済的利 得の1/3から2/3に相当する部分は,そをれを実施している組織に よって捕捉されない。

 益出効果は実施されるR&Dのタイプによって異なる。新しい生産およ び製法の革新の間に蓄積することができる基礎科学に関する研究は 11),大変高い益出効果をもつ。社会的およぴ私的収益率の間にあるギャ ップは個人の生産者が特別の問題を解決することを目的にしたマイナー な革新の場合にはより低い。たとえば,建設企業は製法革新の長い歴史 をもっているが,その革新は建築に関連した特別なデザインあるいはプ ロジェクトに対応したものである。それらをすぐに利用しても,それら の革新は一般的には経済的に価値のある財産あるいは企業秘密とは見な されないしその詳細は公開の出版物で利用できるようになる。

 経験的な種々の研究によれば,発電に関する知識への投資に関する収益 率は30〜50%のオーダーである12)。これは,高いリスクの物理的 な資本の投資に対する長期の収益率のほぽ2倍である。17の異なった 企業に関する彼の1977年の技術革新に関する研究において,Edwin Mansfield は,新しい建築材料の開発における投資から得られる社会 的収益率は96%であり,これはわずか9%にすぎない私的収益率をは るかに上回っていることを見いだした13)。建築製品企業の技術革新か ら得られる私的な収益率は17の企業の中央値を下回るが,社会的収益 率は,中央値を上回る。

 私的およぴ社会的収益率に著しい差異がある場合には,企業はR&Dに 社会的に最適であるものより低い投資しかしない。消費者の福祉の向上 あるいは他者による新しい製品や製造方法の開発を容易にするような独 創的な行為は実行されないであろう。この問題は,ある程度まで改善さ れてきた。なぜなら,大変高い益出効果のある,より重要な建設の研究 は,大部分が公共的な予算である大学や研究機関で行われてきたからで ある。ほとんどのOECD諸国では,しかしながら,建設の研究に対す る直接的な政府の支援は削減されつつある。商業的に支援されているR&D に関する公的および私的収益のあいだのギャップは,いまだ重要な 関心事である。Mansfield は,彼の17の企業に関する研究において 次のようなことを見いだした。即ち,30%のケースで,私的な収益率 があまりにも低いので,後追いの利益を期待して,どの企業も技術革新 に投資をしたがらないが,技術革新からの社会的収益率は非常に高いの で,社会的な観点からは投資は大変意味のあるものであった。

 社会的な利益のある技術革新の機会が忘れ去られるであろう危険性は, 建設業のように高い競争のある企業ではより大きい。競合する市場で操 業している企業は,市場である程度力をもっている企業に比べてその技 術革新をより高い利益に還元しにくい。驚くまでもなく,技術指向性が 高く大きな支配的な演者を持つ電気および情報のような企業においては, 消費者に対する価格は,ある,システマティックな方法で低下し続けて きたが,高度に零細的で競争的な構造を持つ建設業においては消費者は 定常的なコストの上昇を経験してきた。

 技術の生産に失敗した市場を補うためには,新たな制度的あるいは予算 的な整備が必要である。この,一般的結論は,R&Dへの投資からの社 会的および私的な収益率のあいだのギャップがとくに大きくなる傾向に ある建設業などに対しては特別に当てはまる。


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5.建設商品およぴ知識の一般的な属性


 この章では,科学的,技術的知識の開発を推進し予算化する既存の制度 の欠陥についてより詳しく見てゆく。市場のインセンティブおよび公共 の政策は,創造的な活動の,あるタイプの方が他のタイプのものよりよ り実行されやすい環境を創出してきた。この章では,我々をこれらの相 違に案内してくれる道路地図を描いてみようと思う。

 以下の表は,Paul Romer による最近の論文から引用したものであり 14),知識の開発および適用を推進するために利用できるメカニズムを理 解するための有用な枠組みを提供してくれる。この表は競争相手のある 商品とない商品との問の経済学者によってなされた区別を示すものであ る。多くの商品は,それらが一人の人によって消費され楽しまれるとい う意味において,競合的である。一つのリンゴは一度食べれば再ぴ売る ことはできない。一方,競合的でない商品の一個人による消費は他の人 がこれらの同じ商品を楽しむ可能性を妨げない。現在の文脈において特 別に関心のある非競合的商品は,情報とか知識とかである。我々は知識 のケーキを持つことができるし,それを食べることができるしまたそれ を他の多くの人々と共有することができる。重要なコストは,知識の生 産に必要でないばかりでなく結果として生じる製品は使用者から使用者 へ殆ど限界のゼロのコストで伝達される。これらの特性は,知識を高度 に価値のあるまた生産性のある商品にする。しかし,また,その特性は, 効率的な市場を確立することを困難にする。ここで言う効率的な市場と は,知識の生産および,それから利益を得ることができるすべての人に それを分配することに対してインセンティブを与える市場の事である。

表1 建設商品の経済的分類
コントロール
の程度(%)
商品
100 未使用の土地 所有できる知識

建設労働者 効率的,効果的な
建設のための
基礎的技術
0 汚水処理システム 基礎科学的知識


 縦軸にそって,この表は,コントロールの程度という指標で商品を区別 したものである。即ち,その基となる所有権あるいは財産権を行使する のにコストがかかったり,困難を伴う。すべての商品が,ちゃんと定義 された所有権を持つものではない。さらに言えば,ある状況では,所有 者の権利は監視したり強制したりすることが困難である契約において特 定されている。この表の上から下へ行くにしたがって,所有者の権利が 相対的に低いコストでうまく定義され強制できるような状態から,所有 者の権利がますます弱くなるような状況へと移行する。

 土地は競合商品である。そしてそれは表の左側の最上部に位置している。 なぜなら,所有権は,法律で確立されており,財産の市場価値に比べて 低いコストで強制できる。表の下のほうへ移り私的商品から離れるに従 ってコントロールはより不完全になる。たとえば,建設企業が労働者を 雇った場合,企業は彼等の労働サービスをある決められた期間だけ受け られる権利を得る。この場合コントロールを実行するためには,会社は 契約を強制するためにいくぶんかのコストを負担しなければならない。 しかも,強制は必ず不完全である。というのも,常に,長い昼食時間を とったり,仕事をはやく引き上げたり,仕事中だらだらしたりする労働 者がいたりするからである。

 表の下部には所有権がうまく定義できずそれを強制することが大変困難 な競合商品がある。水とか空気などは,社会の全員が共有し(所有権 を)保護するのが困難であり,値段がかかる商品の古典的な例である。 監視し規制するのが困難な汚染活動はそれ自体大変弱いコントロールに よって特徴づけられる競合商品である。個人あるいは小さな企業は, 種々の汚染物質を公共の下水システムに排出しているが,簡単でお金の かからない技術で,公共主体が個別に排出される汚染の程度を計測しそ れを処理するのに必要なコストに応じて個別に排出させることを未だ可 能にしていない。このようなすべての場合,個人はコストを他人に移す ことによってコントロールの不適切さによる利益を受けることができる であろう。

 表の右側は非競合商品の種々の形態を示しており,建設に関連した知識 も種々の程度のコントロールを受ける。表の一番上には直接商売に使う ことができパテント,版権,商標あるいはライセンス,などによって保 護されうる技術が示されている。このような保護の例はコンクリート混 和材の化学組成のパテント,舗装ブロックの形に対する商標,建築の設 計の図面に対する版権などがある。

 このレベルでの所有権は比較的強いが,重要なコントロールの問題がい まだある。たとえば,建築物の所有者は,国際的な興味を引くであろう ユニークな建築的なデザインに多額な費用を出すかもしれない。しかし, 所有者がこの一種の建造物の外観あるいは種々の特徴的形態について, 正当な権利を主張しても設計をまねられたりもとの構造物のクローンを 作られたりすることを防ぐのは非常に難しい。道路の自動料金徴収シス テムのような集積された装置に関する技術もまた,重要なコントロール の間題を持っている。既存の要素技術,例えば,工学的バーコード読み 取り装置,関連したソフトウエアーおよぴ自動勘定装置などをもとに設 計されたり組み立てたりすることに使われる知識のうちの,あるとして もほんの一部分がパテントになるだけである。さらにいえば,他の分野 の企業が,多くの困難さなしに関連した分野でこれらの技術を適用する ためにコピーしたり,修正したりできる。

 表の下の方に行くにつれて,まだ弱いコントロールを受けている技術に なる。効率的あるいは効果的な建設製品あるいはサービスを支える一般 的技術はこの中間の範囲にある。このような一般的技術は,企業内では 広い適用の可能性を持っているが,さらなる開発作業が,研究成果を有 用な製品あるいは製造方法に転換するために一般的に必要とされる。こ れらの研究の結果は,しばしば,法律的に保護したり企業秘密として保 護することが困難な原理あるいは概念の形を,少なくとも部分的に,と る。この結果としてあるいはその基となる研究の高いコストにより個々 の企業が新しい建設技術に投資をするインセンティブが弱くなる傾向に ある。この表の下の方には,広く使用することができるがその使用にあ たって事実上コントロールができない一般的な知識の形態が示されてい る。このような知識の一例は,流体力学あるいは,破壊メカニズムのよ うな科学あるいは工学のある分野のよりよい理解に役立つ基礎的な発見 などであろう。経済学者は,このカテゴリーに入る項目を純公共材と言 っている。なぜなら,これらのものは広範な利益をもたらしまたその使 用を制限することが困難であることが,利潤を追及する企業による生産 を不可能にするという理由により,これは政府の資金が適当であると見 なされている。

 現存する制度はこの表のなかのいくつかの商品の効率的な資金を提供し ている。それらは他の商品に対してうまく適してはいない。もっとも簡 単なケースは高い程度のコントロールを受ける競合商品である。通常の 私的な商品の場合,競争的な市場は一般に効率的な成果に結びつく。所 有権がちゃんと定義されていない場合(即ち,最初の列を下のほうへ移 動した場合)適切な整備というのは,全く明らかでない。より多くの研 究が,通常の財産資源のコントロールされない開発から帰結する非行率 性を,政府がいかに避けることができるかに関して焦点をあててきた。

 私的な市場は二番目の列の非競合的商品の多くに対して理想的に割り当 てられたメカニズムではない。これは,技術の生産に対するインセンテ イブを創り出すこととそれの広範な適用を推奨することとの間に基本的 な矛盾があるからである。高度に知的な財産の保護は,技術の生産を推 進するであろう。しかしユーザーや他の生産者による技術へのアクセス を制限するであろう。それでもなお,商業指向の研究(例えば第2列の 頭部にあたる商品)は民間企業に残された最良のものであるという一般 的な了解がある。民間の資金によって生まれる利益は民間の市場の限界 から生じるコストを埋め合わせてもお釣りがくるように思われる。

 同時に,一般的な知識(二番目の列の最下部にある商品)の進歩は主と して政府によって予算化されている。どのプロジェクトに予算をつける かの選択は,競争的な市場の力を通じてではなく,専門家の意見あるいは 研究提案の専門家による論評を通じて行なわれる。政府の投資によって, すべての個人は広範な公共の利益と共に情報の生産のコストを分担する。 政府の投資はまた基礎研究の成果が自由に普及することを確かなものと する。もし個々の企業が将来性のある研究に投資しコントロールしたと すると他の研究者や,発明者に対する情報の普及から生じる重要な利益 が失われてしまうであろう。

 既存の制度的整備が間題であり技術的進歩がほとんど失われているとこ ろの2つの極端な極の間に大きな領域がある。この領域は,個々の建設 企業のスコープを越えるものであるが,企業に対して一般的に潜在的な 利潤をもたらす,重要な製品あるいは工程の改良のための機会を提供す る基礎的な研究を含んでいる15)。政府の投資に関する議論は,純粋に 公共的な商品の場合におけるほどここでは強くない。というのは,R&D の利益は大部分が同一視できる一部の住民に生じるからである。例え ば,新しい窓や改良された防水システムの購入者を主として利するであ ろうような建設技術の開発コストを全ての納税者に負担させることは不 公平だと思われるからである。建設における進歩は相互的にエネルギー 会社およぴその顧客,あるいは空港あるいは港の使用者の利益になるか もしれない。

 多くの異なったタイプの創造的行為が,この表の中間領域にある。

 まず,市場シェアーのサイズを拡大することができ,与えられた建築材 料グループの全てのメンバーに直接的な利益をもたらす新しい生産知識 がある。より効果的な建設製品に対する研究,例えば耐久性のあるコン クリート,耐蝕性に富む鋼材,非可燃性の木材製品などは,この範疇に 入る。工業的に特別なグループおよびおおきなセメント製造業の様な協 会あるいは鋼材あるいは合板製造者協会などはこのタイプの研究に投資 してきた典型である。

 二番目は種々の利害関係者からなる企業の,特別な部門に利益になるよ うな建築のシステム領域における新しい知識がある。これは,例えば, 室内空気の品質,エネルギー効率,およぴ道路建設の技術などに対する 研究を含んでいる。このような研究は新しい商売の機会を特別に開発す ることを目的にしているものではないが,これらは一般的な革新(例え ば新しい市場は低い熱放出建築材料およぴエネルギー効率の良い窓など の開発者に開かれるかもしれない。)にしばしぱ間接的な利益をもたら す。

 三番目には,より効率的な建設手法に貢献する新しい知識がある。即ち, 労働力および材料の最良な使い方あるいは一般的に企業に利益となるが 最初の利用者により重要な競争的利益をもたらすことができるような知 識。この範疇にはより集積した操作に導く先端的な情報技術,改良され た施設監視そしてより効率的管理システムなどを含むであろう。大きな コンサルあるいはコントラクター企業は,この種のプロセステクノロジ 一の開発を通じてしばしば競争してきたが,ある程度まで,知識のコン トロールの間題はR&Dの投資にたいするインセンティブを阻害してい る。

 最後により良い建築基準および安全基準の開発に関する研究がある。こ れらは伝統的に政府が貴任を負っており,一般的には,税金によって予 算化されているのであるが,多くの場合,その結果として生じる知識は 同一視できる住民のグループに役に立っている。例えば,オランダある いはミシシッピーの洪水の多い平野の住宅は水路の水力学防水堤の設計 などのより良い理解に導く拡張された知識の主要な受益者であろう。同 様に,フロリダおよびスコットランドにおける財産所有者は改善された 風工学から利益を受けるであろう。主要な災害から生じる損失はロイド のような大きな保険会社がより良い危機評価あるいは管理からより大き な価値の評価を得る源となる。特定された受益者に,改善された建築墓 準の開発に至るような研究コストの」部分を負担することを要求するこ とは合理的である。掛け金保管人が必要な研究に参画し費用負担するこ とはまた含理的である。必要なことは,要求される知識の開発を容易に するための新しい制度の整備である。


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6.研究の組識


 R&Dのための新しい制度の整備を工夫しようとする場合,我々は既存 の制度による我々の経験を参考にすべきである。確認されてきたギャッ プを効果的に満たすことができる新しい整備は強さにを産み出し公共お よぴ市場双方の非競合商品が資金と結びつくことによる主要な弱さを克 服するであろう。

 まず,仮想的な世界,国が全ての資産を所有し益出効果の間題が存在し ないような世界(少なくとも国内的に;それでも国際的な漏洩は起こる が)を考えてみよう。中央集権的な官僚主義は財源を配分するには悪名 高く,貧しい。そしていくらの支援がR&Dに与えられるべきでありどの ような特別なプロジェクトが予算化されるべきであるということに関す る決定は地方分散化した市場においてなされる決定に劣るであろうとい うことが期待されるかもしれない。しかし,中央政府は,その利害を代 表し新しい開発から間接的に利益を受けるであろう全ての市民がその基 となるR&Dのコストを公正に分担をすることを確実にすることができ る。

 他の極端な場合として,全てのR&Dが純粋に競争的な市場で操業する 民間企業に残されているような場合がありうる。利潤を目的にしている 民間企業は最も将来性のある研究の機会を認識するには中央の計画者よ りうまくやると思われるが,益出効果の問題があるので彼らは社会的に 望ましいと思われるものより少ない研究しかやらないと思われる。

 それゆえ,挑戦の一部は,益出効果を取り除くために,公共部門の能力 を組み含わせR&Dのコストが技術的な進歩に対して最も将来性のある 研究の機会を作り出すことを目標にした民間部門の能力と適切に分担さ れることを保証するような制度的整備を進めていくことである16)

 新しい制度的なメカニズムは,非競合商品への投資や,それを直接供給 する役割を減少させようとする政府の試みとして産み出されつつあるギ ヤップにも対応しなければならない。建設分野においては,多くのOECD 政府は,国立の建設研究機関が創設された1945-50年の期間 において研究から大きな社会的利益を得たことを認識した。これらの政 府はまた,その時期においては建設商品の主要な所有者であり購入者で あったし,それゆえに改良された建築技術から,直接的な利益を得るこ とができた。政府はいまでも,大きな財産所有者であり主要な研究投資 の源である。米国,英国,オーストラリアおよびカナダの財源の分析は 直接的な建設研究投資の40%〜70%が政府からきている。しかし ながら,財政的な圧力およぴ”政府が最も良く知っている”ということ を信じるといった信仰の減少は,経済一般にそれが果たすべき役割およ び特に建設分野におけるその関与の仕方を再考すべきことを,公共部門 に強いている。

 変化の最も解りやすい特徴の一つは,公共の目的を達成するために用い られる民間投資としてOECD諸国に生じている,新しい所有形態の構 造である。民有化そして民間部門が道路,トンネル,空港その他のタイ プのインフラを建設し操業することに対する増大する重要性とともに, 政府は建設に関連した研究の責任を,より多く民間部門に渡すことを期 待されている。英国の建設戦略研究センターは”民間部門が社会的需要 に役立つ施設に投資し操業するという傾向は続くであろうし,また企業 に建築の研究,建築のコントロールおよぴ規制の評価というような間題 に対してより大きな責任をとるように圧力をかけるであろう“というこ とを予測している。フランス,英国,カナダの建設研究所において,コ ンサルおよび試験収入の重要性が増大していることおよぴBREの民営 化に関する議論は上述のような傾向の指標である。

 新しい制度的整備の考案にあたって,R&Dの性質の変化にも同様に考 慮しなければならない。R&Dのコストが上昇しつつあるという確証が ある17)。絶えず洗練されていく情報技術は研究の可能性の範囲を拡大 するが,また直接的な研究コストを増大させている。これは建設業など の細分化された企業に対して問題を投げかける。西ヨーロッパには300 万の建設企業がありその3分の1が従業員20人以下である。米国に は200万以上の建設企業があり500万の建設労務者がいる。これら の企業のほとんどは重要な新しい技術の開発に必要とされる研究プロジ ェクトの費用を供給したり投資の危険おかすようなことはできない。こ のようなプロジェクトは,建設企業に,新しい知識の開発に伴うスケー ルの経済から共同して利益を得る共同的な組織の整備を通じてのみ可能 となるであろう。

 新しい技術の開発は,種々の参加企業の間でより大きな相互依存度を要 求するような,より複雑な過程になりつつある。種々のR&Dのフェー ズが順次に起こるという古い線形モデルに対して,新しい経済モデルは 蓄積的で相互に影響を及ぽす連続的な技術革新の性質を強調している 18)。技術的進歩は使用者と生産者の間,応用的及び基礎的研究に参画す る組織の間,また企業に関係した研究者および技術要員の間でのフィー ドバックおよぴ共同関係に依存する。企業はライセンスおよびクロスラ イセンス技術によって相互依存性のおおきな問題の一側面を処理しよう と試みてきたが,この解決方法は全体的には満足できるものにはなって いない。多くの研究は,技術的なライセンスに対して市場は高度に不完 全であることを示している19)。技術開発過程のより新しいモデルは一 般的に建設技術の改善に利害関係を持つものの間での共同関係およぴ情 報の共有化を容易にする。これは,最も重要な基礎的技術が,応用開発 あるいは投資の還元の最大化よりも発見を推進することに文化的価値を 置く大学や研究センターで伝統的に進められてきた中で建設企業にとっ て特別な挑戦を創出する。


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7.研究への投資


 建設企業における投資の間題は非競合商品のある種のタイプに適用され る。関心の的は,我々が注目してきたように,5節に示した表の 右側の列の中央部分,すなわち,上側を商業指向の技術開発に,また, 下側を潜在的に広範な応用の可能性を持つ,基礎的な研究に囲まれた部 分である。この中間の領域は,大きな社会的配当を産み出す一般的な研 究も含んでいる。それはまた,伝統的には政府によって行われてきたが 徐々に利害関係者の同一視できるグルーブの責務であるとみなされつつ ある規準に関連した研究のいくつかも含んでいる。

 投資はまた基礎的な知識の進歩に関する研究に対して,徐々に大きな問 題になりつつある。このタイプの研究は純公共的な商品に対して予約さ れている非競合の列の一番下に相当する。地震の特性およぴそれが構造 物に与える影響,室内環境が使用者の健康や生産性に与える影響,ある いは高齢者にとって最も適切な住宅の形といったような一般的な問題に 対してはまだ研究すべきことが多い。広範な公共の利益を伴うこの種の 研究は,公共的な財源から投資されるのが適切である。政府がこの分野 への支援的な投資をへらす場合には,政府は遂行されるぺく残されてい る重要な技術/経済的な機会を思い起こす事が必要である。

 三つの代替的なメカニズムがこのような一般的な研究への投資として利 用できる:すなわち,公共がスポンサーとなること,研究コンソーシア ムおよぴ産業課税である。

 公共的な支援を得ようというのは政府が建設分野への投資を減らそうと 努力しており建設分野への公共の関与を減らそうとしている傾向から見 て最も可能性のない代替案である。それにもかかわらず,政府がもっと 一般的な研究に支援すべきだということを強調することは重要である。 政府の支援は重要な社会的還元が期待される研究活動に対して正当化さ れるが,そのような研究活動はその大きな益出効果ゆえに民間の投資家 からはほとんど見向きもされない。

 建設業の零細的構造は益出効果の危険性を増大させる。特別な技術に関 して制限された独占状況を企業に提供する知的所有権はこの問題に近ず く事を助け新しい一般的な技術の開発に対するインセンティブを回復す る。しかし,全ての新しい技術がパテント,著作権あるいは商取引秘密 法などによって効果的に保護されるわけではない。というよりむしろ, このような保護は,それが他者による新しい製品や工程を開発するため の革新から妨げるという意味で社会的には望ましくないかもしれない。 特別な開発から潜在的な適用の広範な可能性がある,基礎的な研究の成 果へ移動するにつれて,その成果を独占的に保護するためのコストは増 大する。というわけで,公的な補助金が,あるタイプのR&Dを奨励す るための手段として知的所有権の保護にふさわしいかもしれない。

 他の二つの研究資金を調達する代替的な方法は研究組合及ぴ産業課税で ある。これらは前章で概説した条件を満たすのに最も近い方法である。 それらは,建設分野における政府の役割の低下,新しい民間部門の資金 提供メカニズムの開発の必要性,官僚にかわって民間の意志決定者に最 も期待できる技術的機会を特定することをゆだねる利点,そして,益出 効果を減らし,企業にR&Dの費用とリスクに係わる情報を共有するこ とを可能にする,共同研究体制の必要性などを認識させる。

 研究組合は一般的な研究課題あるいは一連の研究を皆で一緒に研究する ことから生ずる相互利益を求める組織によって形成される同盟である。 構成員は民間企業及ぴ大学を含む公共部門の組織からなっている。典型 的には,その研究は市場化が近いかあるいは前競争的レベルである。企 業は研究結果から得られる知識を競争的な利益に変換できるということ を期待して研究組合に参加しようとする。契約的な協定は財政的な係わ り及ぴ研究組合の研究成果に対する権利などを含む構成員の義務を意味 する。共同研究作業を通して,企業は危険と費用を分担することができ また,単独では実施不可能なスコープの研究を実施できる。企業は情報 と商取引の知識を共有することから生じる共同作用を享受できる。

 研究組合には,大変多くの成功例がある。カナダでは,主要な民間及ぴ 公的建築物所有者が,塩化カルシュウムによって被害を受けた車庫に最 適な補修方法の主要な研究のスポンサーとなった。米国では,EPRI, 即ち電力会社の研究組合がダム建設の研究のスポンサーとなったし土木 工学研究財団(CERF)が組織した研究組合はより経済的な位置決め 技術の開発の研究に資金を提供した。

 企業間における協力は独占禁止に関する間題を投げかける。しかし多く の独占禁止法は著しい潜在的な利便性及び相対的に低い非競合的なリス クを認識してR&Dに関する研究組合に関して特別な条項を設けている。 例えば,米国においては,1984の国内共同研究法は,その合理性お よぴある有効な独占禁止訴訟の下で回復されうる損害の量の制限をもと に判定される登録されたR&D協定を規定している。非常に高い競合状 態にある企業,例えば,建設業のような場合には,関係者の関心は,あ まりにも高すぎる市場競争力を持つ企業より,新しい技術革新をより高 い利益につなげるに十分な市場競争力がない企業へ向けられる。もし, 企業を支配する投資家達が新しい研究の利益が駆逐されるであろうとい うことを信じているとすると,彼らは研究組合に参加するインセンテイ ブを持てなくなる。

 最後の関心事は,産業の建築生産分野にはほとんど関係がない。そして ここではある生産者は同盟の利点について認識している。北アメリカの 大規模な生産者は,例えば,フランチャイズを通じて売られるであろう 生産され組み立てられた住宅を共同で開発販売している。

 研究組合は益出効果を減少させるがそれを全く無くすわけにはいかない。 研究結果は研究組合に所属していない工場の企業あるいは他の工場にお ける会社に漏れるかもしれない。それ故,何らかの公共的支援が適切な 研究のインセンテイブを生み出すためにそれでも必要とされるであろう。 公共的な支援は研究組合を組織し運営していくための費用を助ける役目 をする。建設業のように高度に零細的な企業は,新しく開発された知的 所有権に関連した権利の配分を含む,参加企業間の協定を組織すること は大変費用がかる。

 他の投資の機構としては,産業課税が多くの国で注目を集めている。 Paul Romer,彼は産業課税の強い主唱者であるが,産業課税が基礎 的な研究の高い費用を分担する制度の一つであると見ている20)。彼の 提案によれば,ある分野における全ての企業は,全ての企業に利益をも たらす広い範囲におよぶ研究への投資に用いられる自らへの課税に同意 するであろう。企業の代表者達は将来性のあるプロジェクトを選定し, その結果が全ての企業に自由に利用できるようにするのが望ましい。

 ニュージーランド,スウェーデンおよぴベルギーを含む限られた数の国 では建設関連の研究に投資するために税金を課している。カナダでは, 基本的には工業税と同じ法律21)が提案されたが,未だ何も実施されて いない。イギリスの建設業審議会は,1994年の報告書22)で研究税 の導入を提案した。いくつかの選択肢を検討したのち,審議会は給与支 払総額に応じ税金を課すこととし,これを請負者およぴ該当する企業や 直接的な労働組合に適用するという結論に達した。産業を代表する代理 機関が参加企業を代表して研究を委任し,研究結果を普及させるという ことを提案した。

 共同研究協定は国際的なレベルでも大きな利益がある。国際的な研究組 合は多くの分野において知識の最前線を押し上げるための効果的な手段 になりうる。冷房装置におけるクロロフルオロカーボンの置換など,地 球温暖化,永久氷の溶解それによる海面の上昇などの防止,核廃棄物の 貯蔵容器の建設などといった地球規模の間題を含む建設関連研究は,多 くの国の主要企業及ぴ公的機関を含む共同企業体によってうまく進める ことができる。

 産業税はそれが産業全体に及ぶだけ研究組合より若干有利である。一度 税金を徴収することを決めれば,全ての企業が貢献せざるを得なくな る;重要な公共部門が参加している研究組合などにおいて間題になって いるように全ての企業が参加しないといった選択はできず研究結果にた だ乗りをしようともくろむこともできない23)。しかしながら,納税力 のある産業理事会が,その制度を可能ならしめるように制御し,それが 産業構成員に有効に責任を果たしているということを保証するための政 府の広範な監視がなければならない。国の政策に対する必要性は建設が 国あるいは地方としての責任を負うという,ある種の国の法制度におけ る実際的な間題を投げかけるかもしれない。

 商品やサービスの価格に対して生産に実際にかかった費用をより正確に 反映しにくくする税金は,経済学者によって批判的に見られている。な ぜなら,一般に税金は財源の不適切な配分に資するからである。これが 研究税に適用された場合この不適切な配分の費用は,重要な基礎的研究 に対して確かな財源を確保することから生じるであろう利益に比べて小 さい24)

 潜在的により深刻な間題は企業が産業税を長期的な彼等自身の利益と見 なさないことである。建設企業のオーナーは,これが終局的により高い 利益を生み出すことに貢献するであろうということに対して疑問視して いるので,税を認めたがらないかもしれない25)。競争的な産業におい て企業はしばしば研究に対する投資を正当化するために必要な高い配当 を得ることができない。建設産業における競争的な構造は消費者に対す る経済的な利益をもたらすが,それは,共同研究制度を実施する作業を 複雑にする。


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8.結論


 技術の変革は経済の持続的な成長には不可欠なものである。したがって, 経済的な環境並びに制度が,重要な社会的な利益を生み出す技術革新を 促進する,ということは重要なことである。建設分野におけるR&Dに 投じられる資源は他の産業分野に比べて今まで低かった。これは,部分 的には,ある市場の特性,特に建設産業の零細企業的構造に,また,建 築製品を評価する消費者の能力の限界に起因する。戦後の相当な期間に 渡って強い上り基調の需要に応えるために生産の拡大が強調されてきた。 政府は消費者を保護するために標準を制定し,インフラに資金を投入し R&Dに公共の資金を投入することにより産業を支えてきた。産業は, 今,その技術及ぴ実践をせまる種々の圧力に直面すると同時に,政府が あまり頼りにならない支援の源になりつつある。産業が必要とする研究 を支援し,彼らが現在置かれているより競争的で,困難な環境と生産者 が競うことを助ける新しいメカニズムが必要とされている。

 最も大きなギャップは基礎研究の分野にある。個別の企業による基礎的 な研究に対する意欲を失わせる益出効果は,多くの代替的な投資メカニ ズムを導入することにより解決できる。基礎的研究の公的資金負担は, それが,そのような研究から重要な社会的利益が得られるということに 対する認識を与えるという意味において宣伝効果がある。しかしながら, 公的な資金を増やそうという提案は財政的な制約という現在の環境条件 の下では非現実的である。二つの代替的なメカニズム,即ち,研究組合 及び産業研究税が注目されつつある。これらの二つのメカニズムは両方 とも基礎的な研究の段階における費用と危険を分担するという意昧も含 めて,傘下企業間の協力による利益に対する認識を与える。このような 二つの財政メカニズムには限界がある。しかし,市場及び社会的利益の あるR&Dを育む政策的な制度の限界を克服するのを助ける,この二つ のメカニズム及びそのほかの制度は,十分な検討に値する。


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9.謝辞


 編集にあたっての助力及びまた経済学的な意味での助言にたいして J.Ronald Hirshhorn氏にまたそれぞれの建設産業の戦略的な見通しに 関する資料を提供いただいた世界中の国立建設研究所の何人かの所長さ んに感謝の意を表します。


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参考資料


l. Robert M. Solow, "A Contribution to the Theory of Economic Growth," Quarterly Journal of Economics, Vol. 70, 1956. also, T. W. Swan, "Economic Growth and Capital Accumulation, "Economic Record, Vol. 32, 1956.

2. Robert M. Solow, "Technical Change and the Aggregate Production Function, "Review of Economics and the Statistics, Vol. 39, 1957.

3. Edward Denisons, The Sources of Economic Growth in the United States and the Alternatives Before US (Washington, D.C. : Committee for Economic Development ), 1962.

4. Edward Denison, Why Growth rates Differ: Poster Experience in Nine Western Countries (Washington D. C. : Brooking Institution), 1968.

5. The pioneering articles in this area are : P. Romer, "Increasing Returns and Long Run Growth," Journal of Political Economy, Vol. 84, October 1986 and R. Lucas, "On the Mechanics of Economic Development," Journal of Monetary Economics, Vol. 22, July 1988.

6. The role of this literature "The Agenda for Growth Theory: mimeo., March 1995.

7. D Lndes, The Unbound Promentheus( Cambridge: Cambridge Univ. Press), 1969.

8. N.Rosenberg, Technology and American Economic Growth(New York: Harper and Row), 1972.

9. G.M.Grossman and E Heipman, "Endogenous Innovation in the Theory of Growth, "Jornal of Economics Perspectives, V.8,No.1, Winter 1994, 32.

10. Zvi Griliches, "The search for R&D Spillovers, "Working Paper 3678 (Cambridge, Mass.: National bureau of Economic Research),1991.

11. This has been found in a number of studies including F.R.Lichtenberg and D.Siegal, "The Impact of R&D Investment on Production-New Evidence Using Linked R&D-LRD Data,"(Cambridge, Mass. : National Bureau of Economic Research),March 1989.

12. Griliches, 1991, op. cit.

13. E. Mansfield et al," Social and Private Rates of Return from Industrial Innovations," Quarterly Journal of Economics, Vol. 77, May 1997.

14. Paul Romer, "Implementing a National Technology Strategy with Self-Organizing Industry Investment Boards," Brookin Papers: Microeconomics, Vol. 2,1993.

15. The importance of generic Research is highlighted in R. Nelson " Government Support of Technical Progress: Lessons from History," Journal of Policy Analysis and Management, Vol. 2, Summer 1983. This is cited in Romer, 1993, ibid.

16. This draws on Romer, 1993, op. cit.

17. S. Ostry, "Technology and Global Economy: International Responses," International Policy Conferences, Industry, Science and Technology Canada. Feb., 199l.

18. D. Foray," Production and Distribution of Knowledge in the New Systems of Innovation: The role of Intellectual Property Rights,"STI Review, OECD, No. 14, 1983.

19. Richard Caves, H. Crooke11, and J. P. Killirig, "The Imperfect Market for Technology Licenses, "Oxford Bulletin of Economics and Statistics, Vol. 45, 1983.

20. Romer, 1993, op. cit.

21. One formula, put forward by the Canadian Construction Association, would involve collection through the unemployment insurance system.

22. Construction Industry Council, Private funding for Construction Innovation and Research: Options for a National Initiative, (London: Construction Industry Council), 1994.

23. This has been cited as a problem, for example, in the case of the U.S. research consortium, SEMATECH.

24. P. Romer, 1993, op.cit.

25. This problem is raised by Zvi Griliches in his discussion of Romer's paper. See Griliches discussion in Romer, 1993, op. cit.


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付 録


 CIB世界建築大会において発表して以降,本論文は技術開発を育む問題に対して深い考 えをもっている何人かの方々に送られた。多くの大変有益なコメント及び提案を頂いた。 これらの方々は次のような方々である:英国の建設産業研究・情報協会会長,Peter Bransby 氏,カリフォルニア大学アーバイン校野経済学教授,Linda Cohen 氏, Simon Fraser の経済学教授でカナダ先端技術研究所の所長,Richard Lipsey 氏,カリフォルニア大学バークレーイ校の経済学教授でカナダ先端技術 研究所の一員である Paul Romer 氏。これらの方々及びその他の方々のコメントに よって著者は,英国の Chartered Institute of Building の支 援による1994年の海外調査団による日本の建設業のR&Dに関する大変信頼性の高い また最近の報告を受けた。この付録は本論分で取り上げたいくつかの問題点を著者が感謝 しなければならない大変貴重な意見に照らして再考する。


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a. 技術開発に対する市場のインセンテイブの不十分さ


 本論文の第3章及び第4章は重要な間題を記述しているということに関しては一般的な同 意があった。英国における建設分野の観察から,Peter Bramsby は個々の企業 が革新によって得られる利益が完全に適切であるということを認識できないことはR&D への投資に対する意欲をくじくことになる1)。多くの分野における革新の過程を考察して きた Richard Lispey は商業化の前段階における研究の重要な役割に同意して いる。同時に Lispey の研究は,このような研究への投資が経費の間題のために不十 分であり,あるいはまた非効率的に重複しているおそれがある。“なぜなら,多くの企業 は商業化の前段階のけんきゅうに引き続いて商業化が可能になった段階での成果を得るの に十分な間秘密を保持できるという期待の下に同じ前商業化段階でのブレイクスルーをや ろうとしている”2)。 Lispey は,このような問題が特別厳しい競合的な 産業においては,技術進歩の主たる供給源はその産業に対する大きな寡占的な供給者であ ろう。このことは,Lispey が指摘しているように,過去150年に渡るほとんどの 進歩は公共的な財源による研究所あるいは,農機具あるいは化学肥料などの供給者によっ てなされている農業分野に当てはまるように,建設業にも当てはまる。
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b. 研究組合


 研究組合は第3章及び第4章で明らかにした間題に対する一つの可能な解決法であるとい う指摘はLinda Cohen から有用なコメントを引き出した。ハイテク産業における 組合に対する役割を見て,Cohen は,個々の企業が組合の成果を効率的に利用するノ ウハウおよび研究能力を欠いているかもしれないというような建設業の様な産業このよう な組織的制度を適用することに疑間を抱いている。勿論,不適切なノウハウはあらゆる源 からの技術の普及を妨げる。それは,また,産業税によって投資された研究を利用する企 業の能力を限定する。これが問題である限り,研究への投資の問題に対する解答はより大 きな技術的競争へ向け手の建設企業による重要な教育的な努力の問題と結び付けることを, Cohen は示唆している。建設においては非常に多くの企業があり,研究成果を利用す るノウハウと資源を持っている建築施設の特別に大きな所有者がいる,しかし,このよう な組織が存在し建設研究組合における重要な参加者である一方,Linda Cohen に よって強調された関心事は,産業を代表する多くの中小企業に関係している。新しい技術 を商業製品あるいは製造に翻訳しなければならない技術者や建築実務者に提供される訓練 あるいは再訓練に注目することは実際重要なことである。

 Linda Cohen がスタンフォード大学の Roger No11 といっしょにおこなっ た研究は,企業および国立の研究所を含む共同的指導力に関連した間題を強調している 3)。米国において,国立の研究所が,民間企業と一緒にR&Dに取り組む共同研究・開発協 定は,国立の研究所を商業に関連した技術の重要な源にすることを助けた。しかしながら, 民間企業の支援と資源の委託を得るためには政府は生産者に共同研究による成果の 所有権と彼らに商業化された場合の権利の取得を保証しなければならない。これは一方で, 政府が,カルテルの結成を支援し,部分的に納税者の資金によって生まれた利益を特定の 民間企業が得ることを許容するという批判にさらされることになる。このような批判を避 ける努力,例えば共同研究から生じる成果の収益性を規制するなどの努力が,それら自身 の間題を解決することになる。他の国の政府が同じ様な政治的圧力を受けていないかもし れないが,米国の経験は示唆的である。所有権に関する問題は国立の研究所又は大学の純 粋な一般的研究に焦点を絞っている限り間題にはならないが,民間企業が参加し財政的な 支援をする場合にはより困難になりがちである。協力協定のもとでは,国立の研究所がそ の研究成果の商業的利用に晒され,したがって,研究組合の参加者に研究成果を公表する のを制限するという圧力がかかるであろうという懸念を抱くのはもっともである。このよ うな圧力およぴある企業に提供されるかもしれない暗黙の補助金にもかかわらず,共同的 な主導権は,それでも重要な社会的な利益をもたらし,公共部門及び大学のR&Dに対す る努力をより照準のあった信頼のおけるものにすることを促すと認識されている。しかし ながら,Cohen 及び No11 の研究は,このような協定に公共部門が参画することに よる社会的還元の十分な評価及ぴ公共と民間部門の協力に関する契約的な協定についての 十分な注意が必要であることを強調している。


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c. 産素課税


 産業課税は技術開発に投資をする代替的なメカニズムである。Lispey が彼の書簡で 指摘しているように,課税は,もしその結果が誰にでも使えるようなものであれば研究組 合に参加したり研究に貢献することを避けるような企業が研究結果をただで使うというよ うな問題を克服できる。ただ乗り国際的なレベルでも生じる。実際,外国の技術の利用に 基づいた明確な戦略が合理的であると看故され,これが産業税を選択する一つである。し かし,Lispey が指摘しているように企業のリスクはもし彼等が他の国の生産者が将 来性のある研究の機会を追いかけるのをふんぞりかえって待っているようだと競争から追 い落とされる。

 Paul Romer,彼の著書は産業税を技術開発に投資する可能性という現在広く行渡 った興昧産み出すのを助けたのであるが,その論文の中でこの議論を歓迎しているが,提 案したメカニズムは,競争的な原則に従わなければならないということを指摘している。 もし,各分野における異なったのR&Dの理事会があったとして,個別の企業が,どの理 事会がR&Dの税金によるお金を受け取るかを指名することによってそれらの足元を投票 することによってこのことは生じる。存在する理事会間の競争そして,新しい理事会が参 入してくるという恐れは,産業界における個別の各企業が技術開発の決定に影響を及ぽす のに役立つ。さらに,プロジェクトの選択の可能性は,産業税を,企業が様々に異なった 種類の問題に直面している建設業のような産業に受け入れやすくする。たった一つという よりむしろ数多くの理事会があると,産業税システムを管理・運営していく費用が著しく 高くなりがちである。また,異なった理事会の研究活動に余分に費用の掛かる重複の危険 性もある。

 Romer の意図は,政策的・官僚的意志決定の間題に左右されないような市場タイプのメ カニズムを確立する事にある。彼の税制のデザインは,原動力となる利益と競争に左右さ れる民間企業の方が大きな官僚主義よりも将来性のある技術進歩の機会を特定するために はましであるという彼の理解に一部影響を受けている。Richard Lispey は, しかしながら,我々の政策的選択は二つの際だった対照的な意志決定モデルに制約されて いるという指摘とともに問題を取り扱っている。Lispey の見解によれば,MITI (日本の強大な通商産業省)および他の幾つかのNICの経験は象徴的な様式で国と民間 が共同するような中間的な方法があることを示している。北アメリカ政府の行政的な産業 支援プログラムとは異なり,MITIは一般的に,多くの場合勝者を取り上げることを試 みるより,むしろ,民間部門の企業によって望ましいと見られているプロジェクト共同, 投資および開発を支援しようとしている。Lispey は,MITIが成功してきたのは, 民間企業が,重要な財政的な参画を提供することを望んでいるプロジェクトに限って,推 進してきたからだということに気がついている。  一方,政府は,共同企業体が前競争的研究を実施する事を,計画し,組織し,財政支援を することはできるが,政府の財政支援にともなう政治的圧力は,予測できない,そして多 分望ましくない結果になるかもしれない。Linda Cohen 及ぴ の米国のCRADAの経験に関する研究はこの点から見て示唆的である。また Cohen と No11 の他の研究では,政治的圧力が,米国の政府が実りの多い研究プロジェクトを 完了することも実りのない企業体の損失を切り捨てることをいかに困難にしてきたと言う ことを示している4)


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d. 課税/補助金システム


 Romer によって提案された産業課税の変形である課税/補助金システムは,英国の建 設産業の一部で高い支持を得てきた。このスキームの下で,企業は,彼等が税金を支払う ことに対応して,彼等が決めることができる的確な研究への投資に対する保証が得られる。 的確な投資は,企業自体のコントロールの下に大学,研究機関あるいは政府の研究所で行 われる研究に沿った基礎的研究をも含む。全ての的確な研究は,広く一般に普及される。 課税と保証は,全ての企業が仮想的に的確な研究への投資による負担を避けるという利益 が得られるという意味でセットでなければならない。

 Peter Bransby は,課税/補助金が,研究開発のために集められた収入がいか に投資されるべきかを決定する中央集権的な官僚機構が必要ないという意味で利益がある と見ている。それ故,その意図するとこは,各部門において競い合うR&Dの理事会のシ ステムに対する Romer の提案の基本的な部分と幾分似ている。しかし,課税システム は新しい技術開発財源として確かな額の財源を保証できるが,課税/補助金システムによ って,どの程度の付加的な支出が生じるかは明らかでない。企業はある程度まで彼等が実 施している研究に対して税による補助金を得ることができるが,R&Dに対してそれ以上 の余分な支出を要求されないであろう。さらに言えば,課税/補助金システムはさらなる 重要な法制に対する需要を課すであろう。個々のきぎょうがの活動,即ち,まず,彼等が直接コン トロールしている投資が補助金のための資格に対して十分な一般的な利益を確保している かどうかを評価するために,次に,適切な投資から得られた研究成果が完全に普及してい るということを保証するために,監視する必要があろう。多くの場合,研究が,個々の企 業の主要な利益になっているかどうか,あるいは,研究が,より一般的な社会的利益を約 束するかどうかということを,決めることは,容易ではない。課税/補助金システムは個々 の企業に彼等の投資した資金がどのように配分されるかと言うことに関する高度な選択の 機会を提供するが,それは相対的には費用が掛かりが知であり,管理するのが難しくなる。


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e. 日本の経験からの教訓


 日本の建設産業におけるR&Dに関する最近の報告は,技術進歩をいかに育むかと言う問 題にいささかの光を当てている。日本は建設業における技術開発に関しては大変な名声を 得ている。日本の建設業は平均して売り上げの0.5%をR&Dへの投資に振り向けてい るが,それは他のほとんどの国における比率より高い値である。日本の建設企業には,大 手5社を入れて,100人以上の研究技術者を雇っている10の会社がある。日本の企業 は,ロボットあるいは他の先端的技術の分野で先導しており,大手5社のうちの少なくと も2社は全自動建築,即ち,自動で建て方をする屋根,を開発している。将来の超超高層 建築,レジャー施設,海中居住あるいは代替的な居住システムなどが開発されつつある。

 日本は税法上もR&Dを優遇しているが,これは他の国と比較して寛大というわけではな い。例えば,企業のR&Dの費用のうち,前期を上回る部分に対してだけ20%の課税で 済むが,カナダでは,全てのR&Dの投資が20-35%の課税でよい。日本の比較的高 いレベルのR&Dとカナダの比較的低いレベルは税制上のインセンテイブは必ずしもそれ 自体研究費用の差異を生じる主要な要因ではないということを示唆している。英国の Chartered Institute of Building5)による最近の報告書に述べ られているように,日本の建設業を異なったものにしているの は,高度に望ましい文化的,経済的そして政策的な環境である。

 日本の建設業におけるR&Dは経営陣からの下への委任およびに株主が短期的な配当より 長期的な成長を強調することによって育まれている。日本は従業員に逐次的な改善を明確 にし適用することを推奨している。継続的逐次的な改良に対する日本語である“Kaizen ”は,多くの日本の企業において重要な役割を果たしている。R&Dはマーケッティ ングの重要な要素であり,建設企業は消費者によって技術的に適正であることを期待され ている。請負業者は,消費者を満足させ,市場での地位を確保するために,設計およぴ施 工のたえざる改良を心がけている。日本における高い市場の集中度と相まって,競争入札 というよりむしろ交渉による契約に信頼を置くことが,日本の建設企業に比較的健全な利 益をもたらしている。建設市場は企業のR&Dに対する重要な関与を効果的に支援してい る。

 これに加えて,建設企業は支援的な政策環境からも利益を受けている。政府は長期的な公 共投資の展開,技術予測の実施およぴ大きな共同研究の支援などによって建設業のR&D を奨励している。英国の報告書の著者は,日本の全てのレベルの建設企業に行き渡ってい る継続的,先行的学習を強調することにより,より安定的な建設市場を造ろうとする日本 政府の貢献は,日本の建設業の好ましい技術環境の基礎となる重要な要素である。

 教育の重要性に関する Linda Cohen のコメントに沿った日本の教訓に関する報告 は,議論の焦点を広げる。建設業あるいは他の部門における技術進歩を育むために,政策 決定者は,財源の問題にだけ集中してはいけないということを記憶に留めておくのは有益 である。より幅の広い挑戦は,新しい製品あるいは製造の開発に対して,誘導的な全体的 な環境を整えることになる。建設業においては,財源,教育,労働者の訓練,そして現在 の契約手続きの不適切さというような要因,供給される商品の品質の問題,ライフサイク ルコストの考慮の間題,さらにはこの産業における費用の掛かる紛争あるいは訴訟の頻発 の間題を含む全てのシステムを調べてみる必要がある。

1) P.L.Bransby,"Towards a new Industrial Realism in Construction Research,"The Unwin Memorial lecture 1994, presented at the Institution of Civil Engineers, April 12, 1995.

2) Letter to author, July 31, 1995.

3) Linda Cohen and Roger No11,"The Feasibility of Effective Public-Private R&D Collaboration: The Case of CRDAs,"Center for Economic Policy Research, Stanford University, Cepr Publication No. 412, March 1995.

4) Linda Cohen and Roger No11,"Privatization Public Research,"Scientific American, V/271,No.3, Sept. 1994.


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